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来る来ない?! side五十嵐
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『いいですね!演劇部に惹かれて気持ちが傾いてますが、明日見て自分に合いそうなところを決めたいと思います。』
確かに鈴……立花さんはそう言った。
部活動紹介当日は演劇部の活動を見せられなかったが、後日行う舞台については知らせた。来るかどうか言質は取れなかったので、不安はあるが、念の為彼女が来たら伝えて欲しいと受付係の先輩に頼んでおいた。
先輩は婚約者かと聞いてきたが、ハッキリとは返さなかった。
良くないことだと分かってはいるのだが、いつも恋人の自慢話をしてくるのにはうんざりしていたんだ。彼女を目の前にすれば、我が校の男性なら如何に先輩といえども、多少なりとも彼女の魅力に気づくだろう。そうなれば嫉妬し、ほんの少しでも自慢話に付き合わされる回数が減るだろうと思って……別に他意はない。
友人の慧人には、いつ告白すんのかと聞かれたが、やましい気持ちを抱きながら接するのは不味いだろう。それに、うちの学校には、1年生の女子に告白をしてはいけないという暗黙のルールがある。
確かに、彼女は類を見ないほどに美人で可愛く、所作は綺麗、成績優秀、性格は穏やかで優しい、男性女性共に穏便に関係を築けている。
まさに眉目秀麗を絵に描いたような人物だ。
惚れない人は、決めた人がいるか、性癖が特別なやつくらいだろう。
案の定彼女を一目観ただけの友人が軒並み惚れた。俺も例に漏れず惚れている。
「五十嵐!そのロープ緩くないか」
いけね
設営準備中だった。
考え事しながら続けていたら怪我人を出すところだった。
客入りの1時間前考え事をしている暇はない。
さぁ次々!
例年通り客入りは上々。舞台の完成度も満足のいくものになったし、これといった事故も前半終了時の今のところない。舞台は前半後半1時間ずつの計2時間の作品にした。昨年の作品に比べれば短いが、初めて見る人的には長いかもしれないな。
そういえば立花さんは来たのだろうか?
あっちょうどいい所に
「先輩、以前お願いしたことなんですけど」
「おぅ五十嵐。彼女なら来てたぜ。すげーいい子だな。生徒手帳忘れたって言ってたから後日提示してくれたらいいと言ったんだが、1500リンきっちり払ってくれたよ。まぁ手帳の確認にお前を派遣しようと思ってたからある意味良くない子だな。」
「何を余計なことを」
おっと気を抜きすぎたか
相手は一応先輩だと言うのに低めの声が出てしまった。
「コーワいコーワい。婚約者ちゃんの前ではやめとけよ。俺は慣れてるけど、女の子はびっくりしちゃうぞ!いつもの高めの声を出したまえ」
なんでこの先輩の発言はイラつくんだろうか。
先輩のクセに先輩の婚約者さんは、適度に常識があり、先輩のことも愛しているらしいし。その上、うちの部でエースを張る俳優でもあった。今年が受験があるので、練習を控えて、受付を担当しているのだが、既に大手事務所と契約を結び、来年から映画の撮影を控えている。先輩が舞台に出ないことを知った彼のファンから苦情までくる程だ。
リアルが充実しすぎているからムカつのかもしれないな。でもそれではやっかみだ。それは俺のプライドが許さない。とにかく先輩よ、なんて余計なことをしてくれたんだ。
前もって彼女のことを伝えておいたのだから、立花さんが生徒であることは把握済だろうに、金を取るだなんて。
「もしかしたらそのまま帰ってしまったかもしれないじゃないですか!余計なことをしないでください。」
「ごめんごめん。このとおりだ。許してくれ~」
先輩は自身の顔の前で掌を合わせ、首だけ90度曲げてみせた。
は~あほらしい。先輩に頼んだ自分が悪かったのだと思い直し、先輩のことは放置し、受付に寄ってから舞台袖に戻った。
手に握られている封筒の中身は1500リン。
立花さんに返却するべく、客が退出時に通る扉前にスタンバっているが、一向に彼女は通らない。見逃してしまったのだろうか、それとも途中で帰ってしまった?
不安にかられながらも今か今かと人の流れを見る。人の流れが止んでも彼女は見当たらなかった。一旦お金をフロントに預けて、仕方なしに客席や踊り場に客があと何人残っているか確認しに戻る。この後、部活の体験コーナーに参加しない人は、基本早々に会場を後にするので、今いる人数を数えれば大体の参加人数は把握出来る。あと20分後くらいに招集をかければいいだろうか。それにしても今年は残っている生徒が多いな。あの先輩以外にもうちの部には童貞作(処女作)が既にある人物はゴロゴロいる。その中のファンか?
22、23、2…4
人数を数えている時、気づいてしまった。女性の後ろ姿に。
サラリとした髪に真珠が付いた銀製の簪がきらりと光る。
「立花さん?」
彼女は俯いていたから本人である確証はなかったが、気づけば声をかけていた。
正面に回ると頬に涙が流れていた。
「立花さん泣いていたの?」
って泣いている時は、そっとしてもらいたいのでは?いや慰める?いやいや慰める必要はないか……なんで泣いているの?
「…………まって……」
えっ、今なんて?
タイミング的に涙に関することだろうけど
ここは劇場だし、終演直後ってことから考えるに、劇中の登場人物は人物の心情に共感してとかのあたりか……なら
「観客が思わず感情を溢れさせ、涙を流してしまう舞台。それこそ私たちの目指す舞台なんです。立花さんが感情のままに泣いてしまったのなら、それは私たちにとって最高の称賛です。ありがとうございます。」
ど、どうだ
「こちらこそありがとうございます。でも、女の子としては人前で腫れぼったい顔を見られることを許容できないので、その……」
合ってた!
なんとか山は超えただろうか……まだ顔を伏せたまま?外れた外れたのか、なにかなにか
「これは……簡易なものですよ。」
ン?オレいまなんていった?
「ふふ…先輩…それじゃ、独り言じゃないですよ。」
独り言って?
とりあえず話を合わせとこ
「確かに…」
HAHAh
笑え!とにかく笑っとくんだ!
HAHAHA
ほら、あそこにいる先輩も笑って……笑って?
何してんだあの野郎!
劇場の出入口、扉の陰に隠れてこちらをニヤニヤと見てやがる先輩野郎がいた。
あーあのクソが、落ち着け落ち着くんだ。まだ、目の前には立花さんが居るんだ。気を抜いたら今までの苦労(猫かぶり)が無駄になるぞ。
幸か不幸か一時前が嘘のように冷静になれた。
ふ~「たのしそう…」っん?
彼女のピンク色の唇から囁かれた言葉を一言一句今度は拾えた。さっきは通常の音量でも聞き取れなかったのに本当に嘘のようである。
これはチャンスだ。
押せば入部させられるかもしれないぞ
「なら、一緒にしてみませんか?何をするかは色々体験してみましょう。実はこの後、希望者を集めて演技体験をするんです。参加してみますか?」
少し残念だが、オリエンテーションで一緒にいた同級生の女生徒と共に来ているらしく直ぐには返事を貰えなかったが、上々ではないだろうか。
とりあえず、先輩を早くしばがないと
「立花さん、私は部活動紹介の準備や片付けがあるので、この辺で失礼します。もし参加できるようでしたら部員の誰かに声を掛けて下さい。それでは、」
名残惜しいがこれ以上ヘマをする訳にはいかない。家に帰ったら反省会だな。
ガシィ
「先輩、何してるんですか?暇なんですか?暇なんですね。一生寝れる寝床をそこに掘ってあげるので、この手を退けてください。へし折りますよ」
「おいおいコワイなー。いつもの優しい徹ちゃんに戻っておくれよ」
優しく接した記憶なんですけど
そんなことより、なにか用事を忘れているような……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
先輩:五十嵐のやつ受付に返金用の1500リン置きっぱで……仕方ないやつめ、親切な俺が直々に持っていってやろう。
《at会場入口》
先輩:後輩は……いたいた。
「おー……ぃ」
五十嵐の隣にいる女子、あの子だな。今は邪魔しちゃいけない感じか?おうおう、根性見せろよ五十嵐!
(見守り中に、手に握られている封筒は忘れ去られましたとさ)
確かに鈴……立花さんはそう言った。
部活動紹介当日は演劇部の活動を見せられなかったが、後日行う舞台については知らせた。来るかどうか言質は取れなかったので、不安はあるが、念の為彼女が来たら伝えて欲しいと受付係の先輩に頼んでおいた。
先輩は婚約者かと聞いてきたが、ハッキリとは返さなかった。
良くないことだと分かってはいるのだが、いつも恋人の自慢話をしてくるのにはうんざりしていたんだ。彼女を目の前にすれば、我が校の男性なら如何に先輩といえども、多少なりとも彼女の魅力に気づくだろう。そうなれば嫉妬し、ほんの少しでも自慢話に付き合わされる回数が減るだろうと思って……別に他意はない。
友人の慧人には、いつ告白すんのかと聞かれたが、やましい気持ちを抱きながら接するのは不味いだろう。それに、うちの学校には、1年生の女子に告白をしてはいけないという暗黙のルールがある。
確かに、彼女は類を見ないほどに美人で可愛く、所作は綺麗、成績優秀、性格は穏やかで優しい、男性女性共に穏便に関係を築けている。
まさに眉目秀麗を絵に描いたような人物だ。
惚れない人は、決めた人がいるか、性癖が特別なやつくらいだろう。
案の定彼女を一目観ただけの友人が軒並み惚れた。俺も例に漏れず惚れている。
「五十嵐!そのロープ緩くないか」
いけね
設営準備中だった。
考え事しながら続けていたら怪我人を出すところだった。
客入りの1時間前考え事をしている暇はない。
さぁ次々!
例年通り客入りは上々。舞台の完成度も満足のいくものになったし、これといった事故も前半終了時の今のところない。舞台は前半後半1時間ずつの計2時間の作品にした。昨年の作品に比べれば短いが、初めて見る人的には長いかもしれないな。
そういえば立花さんは来たのだろうか?
あっちょうどいい所に
「先輩、以前お願いしたことなんですけど」
「おぅ五十嵐。彼女なら来てたぜ。すげーいい子だな。生徒手帳忘れたって言ってたから後日提示してくれたらいいと言ったんだが、1500リンきっちり払ってくれたよ。まぁ手帳の確認にお前を派遣しようと思ってたからある意味良くない子だな。」
「何を余計なことを」
おっと気を抜きすぎたか
相手は一応先輩だと言うのに低めの声が出てしまった。
「コーワいコーワい。婚約者ちゃんの前ではやめとけよ。俺は慣れてるけど、女の子はびっくりしちゃうぞ!いつもの高めの声を出したまえ」
なんでこの先輩の発言はイラつくんだろうか。
先輩のクセに先輩の婚約者さんは、適度に常識があり、先輩のことも愛しているらしいし。その上、うちの部でエースを張る俳優でもあった。今年が受験があるので、練習を控えて、受付を担当しているのだが、既に大手事務所と契約を結び、来年から映画の撮影を控えている。先輩が舞台に出ないことを知った彼のファンから苦情までくる程だ。
リアルが充実しすぎているからムカつのかもしれないな。でもそれではやっかみだ。それは俺のプライドが許さない。とにかく先輩よ、なんて余計なことをしてくれたんだ。
前もって彼女のことを伝えておいたのだから、立花さんが生徒であることは把握済だろうに、金を取るだなんて。
「もしかしたらそのまま帰ってしまったかもしれないじゃないですか!余計なことをしないでください。」
「ごめんごめん。このとおりだ。許してくれ~」
先輩は自身の顔の前で掌を合わせ、首だけ90度曲げてみせた。
は~あほらしい。先輩に頼んだ自分が悪かったのだと思い直し、先輩のことは放置し、受付に寄ってから舞台袖に戻った。
手に握られている封筒の中身は1500リン。
立花さんに返却するべく、客が退出時に通る扉前にスタンバっているが、一向に彼女は通らない。見逃してしまったのだろうか、それとも途中で帰ってしまった?
不安にかられながらも今か今かと人の流れを見る。人の流れが止んでも彼女は見当たらなかった。一旦お金をフロントに預けて、仕方なしに客席や踊り場に客があと何人残っているか確認しに戻る。この後、部活の体験コーナーに参加しない人は、基本早々に会場を後にするので、今いる人数を数えれば大体の参加人数は把握出来る。あと20分後くらいに招集をかければいいだろうか。それにしても今年は残っている生徒が多いな。あの先輩以外にもうちの部には童貞作(処女作)が既にある人物はゴロゴロいる。その中のファンか?
22、23、2…4
人数を数えている時、気づいてしまった。女性の後ろ姿に。
サラリとした髪に真珠が付いた銀製の簪がきらりと光る。
「立花さん?」
彼女は俯いていたから本人である確証はなかったが、気づけば声をかけていた。
正面に回ると頬に涙が流れていた。
「立花さん泣いていたの?」
って泣いている時は、そっとしてもらいたいのでは?いや慰める?いやいや慰める必要はないか……なんで泣いているの?
「…………まって……」
えっ、今なんて?
タイミング的に涙に関することだろうけど
ここは劇場だし、終演直後ってことから考えるに、劇中の登場人物は人物の心情に共感してとかのあたりか……なら
「観客が思わず感情を溢れさせ、涙を流してしまう舞台。それこそ私たちの目指す舞台なんです。立花さんが感情のままに泣いてしまったのなら、それは私たちにとって最高の称賛です。ありがとうございます。」
ど、どうだ
「こちらこそありがとうございます。でも、女の子としては人前で腫れぼったい顔を見られることを許容できないので、その……」
合ってた!
なんとか山は超えただろうか……まだ顔を伏せたまま?外れた外れたのか、なにかなにか
「これは……簡易なものですよ。」
ン?オレいまなんていった?
「ふふ…先輩…それじゃ、独り言じゃないですよ。」
独り言って?
とりあえず話を合わせとこ
「確かに…」
HAHAh
笑え!とにかく笑っとくんだ!
HAHAHA
ほら、あそこにいる先輩も笑って……笑って?
何してんだあの野郎!
劇場の出入口、扉の陰に隠れてこちらをニヤニヤと見てやがる先輩野郎がいた。
あーあのクソが、落ち着け落ち着くんだ。まだ、目の前には立花さんが居るんだ。気を抜いたら今までの苦労(猫かぶり)が無駄になるぞ。
幸か不幸か一時前が嘘のように冷静になれた。
ふ~「たのしそう…」っん?
彼女のピンク色の唇から囁かれた言葉を一言一句今度は拾えた。さっきは通常の音量でも聞き取れなかったのに本当に嘘のようである。
これはチャンスだ。
押せば入部させられるかもしれないぞ
「なら、一緒にしてみませんか?何をするかは色々体験してみましょう。実はこの後、希望者を集めて演技体験をするんです。参加してみますか?」
少し残念だが、オリエンテーションで一緒にいた同級生の女生徒と共に来ているらしく直ぐには返事を貰えなかったが、上々ではないだろうか。
とりあえず、先輩を早くしばがないと
「立花さん、私は部活動紹介の準備や片付けがあるので、この辺で失礼します。もし参加できるようでしたら部員の誰かに声を掛けて下さい。それでは、」
名残惜しいがこれ以上ヘマをする訳にはいかない。家に帰ったら反省会だな。
ガシィ
「先輩、何してるんですか?暇なんですか?暇なんですね。一生寝れる寝床をそこに掘ってあげるので、この手を退けてください。へし折りますよ」
「おいおいコワイなー。いつもの優しい徹ちゃんに戻っておくれよ」
優しく接した記憶なんですけど
そんなことより、なにか用事を忘れているような……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
先輩:五十嵐のやつ受付に返金用の1500リン置きっぱで……仕方ないやつめ、親切な俺が直々に持っていってやろう。
《at会場入口》
先輩:後輩は……いたいた。
「おー……ぃ」
五十嵐の隣にいる女子、あの子だな。今は邪魔しちゃいけない感じか?おうおう、根性見せろよ五十嵐!
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