転生少女は溺愛に気付かない

たぬ

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予期せぬ不幸

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その知らせは突然だった。

「本日の昼15時40分頃、ご自宅から500m離れた所にある公園にて、奥様が刺殺されお亡くなりになりました。」

「お悔やみ申し……立花梨恵さんが………………犯人…………」

ママが人に刺されて死んだ。








訳が分からなかった。

警察の人が、何かわからないことを言っている。

ママがいなくなるわけがない。今日だってお兄ちゃんたちのテストが満点だったからお祝いに何をしようか話していたのだ。

ママは昼食の後、ルーの散歩に行った。いつも通りのルーティンだ。一時間ほどしたら「ただいま~、すーちゃんはいい子にしてたかな?」って聞いてくるはずなんだ。

私は玄関に走った。帰ってくるはずなんだ。ママはいなくなったりしない。

「ママ?ママ?ねぇ、すーちゃんいいこにしてるよ。まだかえってこないの?」

玄関周りをうろうろとしていたら浩成お兄ちゃんが抱き着いてきた。振り返ってみると、浩成お兄ちゃんは泣きながら私のことをひたすら抱きしめてくる。

身動きが取れないせいで、ママを探せない。

離してよ!離して!

声に出してそう訴えようとしたが、声が出ない。とりあえず、早くママを探すために、体を捻って浩成お兄ちゃんから抜け出そうとする。

ぬぬぬ

浩成お兄ちゃんの力に適わず、全く動けない。

お願いだから離してよ。ママが…ママが探せないよ

「すずな、鈴奈、」

お兄ちゃんは何度か私の名前を呼んだがそれ以上は何も言わなかった。

私の肩や頬に水が着くがそんなことはどうだっていい!

「ママね、いつもただいまっていったあとね、すーちゃんにいいこにきくの。すーちゃんわるいことしたのかな?だからママかえってこないのかな?」
「違うよ。違う。」

ようやく出た言葉は不思議なことに私をより苦しめる。浩成お兄ちゃんはそんな私をただただずっと抱きしめてくれた。



時間が経つと少し周りを見れるようになった。みんなつらそうな顔をしているが、パパが一番ひどい。警察官の話を聞いてから1mmも動かず、腕に頭をのせて下を向いている。
でも、なんて声を掛けたらいいのかわからない。

「パパ?」

捻り出した一言は呼び名ただ一つ。

何を言っても不正解だと思いはしたが、このまま一人にしてはいけない気がした。

時間が少し経つと、使用人さん達の中に少し正気を取り戻りした人がパラパラと出てきた。

パパは回りで人が動き始めても一向に動く気配を見せなかった。

指示を出せない当主に変わり、執事の近藤さんは、この空気の中に子供たちがいるのは良くないと判断し、各々の部屋へ子供たちは返され、私はお手伝いの真紀さんに預けられた。

真紀さんはお母さんの親友で、元旦那から隠れるためにうちで働いている。
真紀さんも他の使用人さんたちも顔色が悪い。我が家でママの死を悲しんでいない者はいない。


その日、立花家を照らしていた太陽が消えた。

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ママがこの世を去ってから今日で4日目

今日もルーを連れてお兄ちゃんたちと一緒にお父さんの寝室を訪ねる。

ママが亡くなったショックにより、パパはここ3日以前の生活を送れなくなった。
ご飯を食べず、顔色は青白くなり、今にも死んでしまいそうだ。
会社からの電話に取り合わず、部屋を訪れた人に反応を返さず、ベットから出ることさえしない。

まるで、魂が抜けてしまったようだ。

水だけでも飲んで欲しくて今日もパパに呼びかける。

人は一週間水分を摂取しなければ死んでしまうと聞いたことがある。

このままでは、神様がママだけでなくパパのことも連れて行ってしまう気がした。

お願いだから私から家族をこれ以上奪わないで!

私は、パパに泣きながら縋り付いた。

ここ3日間私たちと目線が合わないどころか焦点が合わないパパに気づいてもらえないだろうと思いつつも縋らずには居られなかった。

パパの腰に抱きつき離すものかとしがみつきワンワンと泣いていると、ふわりとルーが私の上半身に乗っかった。

ルーの重さでグェと乙女らしからぬ声が出た。

「す…ず……な」

ルーのお腹で何も見えないが、この声はパパの声!

お兄ちゃんたちに助けて貰って、ルーの下から脱出してパパを見上げると
パパは、腰に抱きつく私とベット脇に佇むお兄ちゃんたちの顔を見ていた。その顔には、私達がいることに今まで気付いていなかったように驚いた表情があった。

------------------------------------------------------------------



8か月後

私は6歳の誕生日を迎えた。

パパはあれから少しずつ食を取り、体を動かし始めた。少しずつ元気を取り戻し、今では人並みの肌色に戻り、会社に出勤できるようにまで回復した。
数週間前から特に忙しそうに働いている。

「お誕生日おめでとう。」

そういいながら笑顔で、大きな熊のぬいぐるみをくれた。

「ありがとう、パパ」

「鈴奈、次の誕生日プレゼントは期待してくれよ。」

?と頭をかしげていると、浩成お兄ちゃんと界人お兄ちゃんが、

「父さん、もう来年分のプレゼントまで用意済みなの?」

「まだ、あげられる状態じゃないんだが、来年までには完成予定なんだ。」

「は...?
完成予定って、一年掛かりで用意するのか?7歳の誕生日にそれってどうなんだよ。親父、考え直した方が…」

「まぁ一旦落ち着け……。界人の言い分に僕も同意だけど、少し熱くなりすぎだ。」

「ごめん、浩成兄。」

「父さん、何をすーちゃんにあげようとしてるのか分からないけど、小学校に入るか入らないかってくらいの子に適当なものにしてくれよ。」

「鈴奈を一番甘やかしてるお前にだけは言われたくないんだが。それに、鈴奈だけのプレゼントじゃないんだ。これはお前たちへのものでもあるんだ。」

「「え?」」

「話はここまでだ。来年のお楽しみだよ」

パパはにこにこと嬉しそうに微笑んだ。
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