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最終話 七つの刃
バルト編
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聖オルタンシア王国の東部に位置するシュバルツハイム領。
ヴィルシュタイン帝国と隣接するこの地域はオルタンシア王国の守りの要と呼ばれる地域であり、代々領主は王室の人間と関係を近しくし、王国の守護者としての矜持を高めるとともに軍事支援を引っ張り出せるように心がけていた。
だが、ダールトンは即位と同時にシュバルツハイムへの軍事支援を停止した。
もし、教皇がヴィルシュタインのプレアデス教会との休戦調略を進めてくれていなければ、オルタンシアは守りの要を失っていたことだろう。
ジルベール追放から一ヶ月が過ぎた頃。
シュバルツハイム辺境伯ことバルトは領内にある古代遺跡の地下に潜っていた。
砂漠の真ん中にある平べったい四角錐の建物は地下に向かっても広がっており、巨大な地下空洞を備えている。
その広さは街がすっぽり収まってしまうほどだ。
建築年代も不明、用途も不明。
ただ一つ言えている事は現代の科学では再現不可能という事だ。
極め付けには光のささない地下空間なのに夕焼け時のように明るい。
壁に生息するコケのような植物が橙色の光を放っているせいなのだが、このコケは建物の外に出すと干からびて光を放つのをやめてしまう。
まるでこの場所が神秘の加護を受けた聖域であるかのように。
「ヤツラの具合はどうだ?」
「すくすくと育っていられます。
おそらく二年もすれば成体となり、繁殖も可能となるかと」
「そうか。楽しみだな」
家来と言葉を交わしたバルトはソレを好奇と崇敬、感動を覚えた目で見つめる。
鋼のように硬質な鱗纏った体は首と尾が長く、ワニのように力強い顎にはみっちり巨大な牙が生え揃っている。
ずんぐりとした胴体にそれを支える力強い脚。
そしてその巨体をも浮かせる揚力を発生させる禍々しいな羽。
体長はすでに五メートルを超えているがまだ幼体。
成長すれば二〇メートルを超えるソレは、竜と呼ばれる怪物。
一頭討伐するには騎士の命百人分を投げ出さねばならない、とされる最強の種族。
それが六頭もこの遺跡の地下に潜んでいる。
シュバルツハイムの地を治める領主は代々、この竜の討伐に手を焼いていた。
基本的には大人しく洞窟のような場所を好み、外界には出てこないのだが、年齢を重ねると理性を失い、巣穴を飛び出して人を喰らう。
人の味を覚えた竜は力尽きるまで目に映る人を食い続けるのだ。
先祖代々の宿敵のような存在にバルトは優しげに語りかける。
「よく食べてよく眠りよく育ってくれ。
いずれお前たちには自由と役目をくれてやる。
腐り切った王都を喰らいつくすという役目をな」
「!? バルト様………!」
家来は驚きながらも湧き上がる歓喜に口角を上げた。
バルトは不敵に笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ダールトンが民を虐殺した。
原因はレプラの裸が写った写真が見えなくなったことに怒った市民が新聞社に抗議をしていたからだと。
どいつもこいつも、頭の先から爪先まで腐っている。
王都の民は俺たちのことを蛮族や獣のように呼んでいるらしいが、アイツらは獣すら口につけない腐った肉だ。
俺が始末する…………この『王が率いる竜の大隊』を使って!!」
バルトはこの地に住まう人々の暮らしと命を脅かす竜をどうにかできないものかと幼少の頃より考えていた。
王都への遊学の際、ジルベールと無二の親友となったことで着想を得た。
「戦うことを考えるより、いっそ竜を仲間にすれば良い」
王都にいた頃から古文書や伝承を調査し研究を始めた。
当然、そんなことをやっているとは思われないよう軟派なプレイボーイという擬態をして。
領主になって領地に戻ってからは竜退治をするとともに、さまざまな実地検証を行い続けた。
そして二年前、ついに竜の飼育に成功した。
このことはジルベールやディナリスにも知らせていない。
もし、ヴィルシュタインの侵攻を食い止められなかった場合、竜を東に放ち、帝国を蹂躙しようと考えていた。
人間にモンスターをけしかけるなど人道に反する行為。
たとえ大義があろうと清廉な二人が許すわけない、と考えていたからだ。
だが、ジルベールの追放で全てが変わった。
国教会の調略など、話し合いができるヴィルシュタイン帝国よりも害悪なのは気狂いの王と悪意をばら撒くマスコミに支配されて思考を放棄した愚民の吹き溜まりである王都。
親友を嘲り、貶め、蔑ろにし続けた愚民どもが、血を流し国を護り続けている自分たちを蛮族と見下し、ありがたみも感じず平和を堪能している。
許せるわけがない————
もはや王都に住まう者はバルトの目に人間として映ってはいなかった。
ヴィルシュタイン帝国と隣接するこの地域はオルタンシア王国の守りの要と呼ばれる地域であり、代々領主は王室の人間と関係を近しくし、王国の守護者としての矜持を高めるとともに軍事支援を引っ張り出せるように心がけていた。
だが、ダールトンは即位と同時にシュバルツハイムへの軍事支援を停止した。
もし、教皇がヴィルシュタインのプレアデス教会との休戦調略を進めてくれていなければ、オルタンシアは守りの要を失っていたことだろう。
ジルベール追放から一ヶ月が過ぎた頃。
シュバルツハイム辺境伯ことバルトは領内にある古代遺跡の地下に潜っていた。
砂漠の真ん中にある平べったい四角錐の建物は地下に向かっても広がっており、巨大な地下空洞を備えている。
その広さは街がすっぽり収まってしまうほどだ。
建築年代も不明、用途も不明。
ただ一つ言えている事は現代の科学では再現不可能という事だ。
極め付けには光のささない地下空間なのに夕焼け時のように明るい。
壁に生息するコケのような植物が橙色の光を放っているせいなのだが、このコケは建物の外に出すと干からびて光を放つのをやめてしまう。
まるでこの場所が神秘の加護を受けた聖域であるかのように。
「ヤツラの具合はどうだ?」
「すくすくと育っていられます。
おそらく二年もすれば成体となり、繁殖も可能となるかと」
「そうか。楽しみだな」
家来と言葉を交わしたバルトはソレを好奇と崇敬、感動を覚えた目で見つめる。
鋼のように硬質な鱗纏った体は首と尾が長く、ワニのように力強い顎にはみっちり巨大な牙が生え揃っている。
ずんぐりとした胴体にそれを支える力強い脚。
そしてその巨体をも浮かせる揚力を発生させる禍々しいな羽。
体長はすでに五メートルを超えているがまだ幼体。
成長すれば二〇メートルを超えるソレは、竜と呼ばれる怪物。
一頭討伐するには騎士の命百人分を投げ出さねばならない、とされる最強の種族。
それが六頭もこの遺跡の地下に潜んでいる。
シュバルツハイムの地を治める領主は代々、この竜の討伐に手を焼いていた。
基本的には大人しく洞窟のような場所を好み、外界には出てこないのだが、年齢を重ねると理性を失い、巣穴を飛び出して人を喰らう。
人の味を覚えた竜は力尽きるまで目に映る人を食い続けるのだ。
先祖代々の宿敵のような存在にバルトは優しげに語りかける。
「よく食べてよく眠りよく育ってくれ。
いずれお前たちには自由と役目をくれてやる。
腐り切った王都を喰らいつくすという役目をな」
「!? バルト様………!」
家来は驚きながらも湧き上がる歓喜に口角を上げた。
バルトは不敵に笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ダールトンが民を虐殺した。
原因はレプラの裸が写った写真が見えなくなったことに怒った市民が新聞社に抗議をしていたからだと。
どいつもこいつも、頭の先から爪先まで腐っている。
王都の民は俺たちのことを蛮族や獣のように呼んでいるらしいが、アイツらは獣すら口につけない腐った肉だ。
俺が始末する…………この『王が率いる竜の大隊』を使って!!」
バルトはこの地に住まう人々の暮らしと命を脅かす竜をどうにかできないものかと幼少の頃より考えていた。
王都への遊学の際、ジルベールと無二の親友となったことで着想を得た。
「戦うことを考えるより、いっそ竜を仲間にすれば良い」
王都にいた頃から古文書や伝承を調査し研究を始めた。
当然、そんなことをやっているとは思われないよう軟派なプレイボーイという擬態をして。
領主になって領地に戻ってからは竜退治をするとともに、さまざまな実地検証を行い続けた。
そして二年前、ついに竜の飼育に成功した。
このことはジルベールやディナリスにも知らせていない。
もし、ヴィルシュタインの侵攻を食い止められなかった場合、竜を東に放ち、帝国を蹂躙しようと考えていた。
人間にモンスターをけしかけるなど人道に反する行為。
たとえ大義があろうと清廉な二人が許すわけない、と考えていたからだ。
だが、ジルベールの追放で全てが変わった。
国教会の調略など、話し合いができるヴィルシュタイン帝国よりも害悪なのは気狂いの王と悪意をばら撒くマスコミに支配されて思考を放棄した愚民の吹き溜まりである王都。
親友を嘲り、貶め、蔑ろにし続けた愚民どもが、血を流し国を護り続けている自分たちを蛮族と見下し、ありがたみも感じず平和を堪能している。
許せるわけがない————
もはや王都に住まう者はバルトの目に人間として映ってはいなかった。
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