59 / 65
最終話 七つの刃
導入
しおりを挟む
聖オルタンシア王国最後の王ジルベールは国外へと追放された。
当時、この出来事は悪しき権力者を打倒した国民の勝利とこぞって酔いしれていたが、後世の歴史家たちは口を揃えてこう言う。
『ジルベールは敗北したのではなく、沈む船から脱出したのだ。
ジルベールが追放されなければ聖オルタンシア王国の崩壊は数十年遅れたかもしれない。
古来より続いた王の権威が斜陽となった時代において、かの王ほど調整能力に長けた人間が王の座にいたことは奇跡的な幸運である。
まだ若く健康で、国教会や国防の要といった重要人物たちの信頼は厚く、長期政権が期待できた。
もし、かの王が30年王位についていれば、封建政治から民主政治への転換もスムーズに行うことができたという見方が強い。
当時の市民は自ら救世主を追い出してしまったことになる。
しかし、ジルベールは何を失っただろうか?
何も失っていない。
敵と無能な愚民から解放されて、献身的な味方に支えられて、生まれてはじめての自由を謳歌できるようになった』
ジルベールが追放されてから国内で発生した疫病の蔓延やダールトンの虐殺事件により国は大きく揺らいだ。
だが、そのことすらこれから王国を襲う苦難の前触れでしかなかった。
ヒストリア美術館に展示されている彫刻家ゴシュマー作の彫像『獅子を穿つ七つの刃』はその名の通り、強大な獅子が七本の剣に刺されて断末魔の悲鳴を上げているものだ。
これは聖オルタンシア王国の終焉をモチーフに作られた作品であり、獅子は王国そのもの、剣は王国を倒した七人の人物を意味している。
一人はジルベール王。
かの王は善政を行い、王国の寿命を伸ばしもしていたが、ジルベールの付け火という前代未聞の弾圧事件を起こした。
結果、王が法に裁かれるという王権の弱体化を自ら示してしまい、王国崩壊の引き金を引いた。
一人はダールトン。
かの王が正しく国教会から国王に認められていれば、ジルベール王が最後の王となることはなかった。
ダールトンは王でもなく公爵でもなく民でもない。
記録上は不明な人間が王を僭称していたということになっている。
言うまでもなく、王国末期の混沌を引き起こした張本人だ。
さて、残りの五人については、ジルベールの追放まもない頃のエピソードと共に語るとしよう。
当時、この出来事は悪しき権力者を打倒した国民の勝利とこぞって酔いしれていたが、後世の歴史家たちは口を揃えてこう言う。
『ジルベールは敗北したのではなく、沈む船から脱出したのだ。
ジルベールが追放されなければ聖オルタンシア王国の崩壊は数十年遅れたかもしれない。
古来より続いた王の権威が斜陽となった時代において、かの王ほど調整能力に長けた人間が王の座にいたことは奇跡的な幸運である。
まだ若く健康で、国教会や国防の要といった重要人物たちの信頼は厚く、長期政権が期待できた。
もし、かの王が30年王位についていれば、封建政治から民主政治への転換もスムーズに行うことができたという見方が強い。
当時の市民は自ら救世主を追い出してしまったことになる。
しかし、ジルベールは何を失っただろうか?
何も失っていない。
敵と無能な愚民から解放されて、献身的な味方に支えられて、生まれてはじめての自由を謳歌できるようになった』
ジルベールが追放されてから国内で発生した疫病の蔓延やダールトンの虐殺事件により国は大きく揺らいだ。
だが、そのことすらこれから王国を襲う苦難の前触れでしかなかった。
ヒストリア美術館に展示されている彫刻家ゴシュマー作の彫像『獅子を穿つ七つの刃』はその名の通り、強大な獅子が七本の剣に刺されて断末魔の悲鳴を上げているものだ。
これは聖オルタンシア王国の終焉をモチーフに作られた作品であり、獅子は王国そのもの、剣は王国を倒した七人の人物を意味している。
一人はジルベール王。
かの王は善政を行い、王国の寿命を伸ばしもしていたが、ジルベールの付け火という前代未聞の弾圧事件を起こした。
結果、王が法に裁かれるという王権の弱体化を自ら示してしまい、王国崩壊の引き金を引いた。
一人はダールトン。
かの王が正しく国教会から国王に認められていれば、ジルベール王が最後の王となることはなかった。
ダールトンは王でもなく公爵でもなく民でもない。
記録上は不明な人間が王を僭称していたということになっている。
言うまでもなく、王国末期の混沌を引き起こした張本人だ。
さて、残りの五人については、ジルベールの追放まもない頃のエピソードと共に語るとしよう。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説


最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる