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第八話 王族の面汚し
王族の面汚し①
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引きずるようにして連れてきたダールトン。
喉は潰れて、声を出そうとすれば激痛が走るので言葉を発しない。
だが視線には私に対する憎悪が満ちている。
「そんなに物欲しそうな目で見るな。
心配しなくとも、貴様の欲しがっていた王位など自然と手元に転がり込んでくるぞ」
私の怒りが行き着く先は破滅だ。
まともに死ねれば御の字。
命を失わずに済む結末もあるだろうが少なくとも王位を手放すことは避けられない。
そうなれば、自然と王位はダールトンのものだ。
…………想像するだけで楽しみだ。
「貴様が欲しがった国王の椅子は無数の刃が生えた拷問器具のようなものだ。
一度座れば肉を貫かれ、血が滴り落ちる。
傷を治そうにも刺さった刃が邪魔で塞がらない。
そして、椅子から降りることができない。
石を投げられ、火を放たれようが座り続けるしかできないんだ。
私は楽しみでならんよ。
無能で愚鈍な貴様がこの地獄に堕ちた時にどれほどの後悔と絶望を味わうのか!!」
ジャスティンは最初はダールトンを担ぐだろう。
だが、蜜月は長くは続かない。
ダールトンは元々王国議会の平民枠の廃止を訴えたり、旧時代の強固な王政の復活を夢見ている時代遅れの愚か者だ。
いずれ互いの利害が一致しなくなり、その後に起こることは……想像したくもない。
厚顔無恥なダールトンであろうと臓腑を抉られる想いをすることになるだろう。
ジャスティン・ウォールマンはそれくらい恐ろしい男だ。
だが……その前に私がこの愚か者の心を抉ってやろうと思う。
私たちを侮辱し尽くした出来の悪い娘とともにな!
たどり着いたのはフランチェスカの寝室の前。
扉の前には彼女の護衛騎士であるサリナスが立っているが、私と目が合うと素早く跪き、頭を下げた。
一瞬の動揺は私が右手にぶら下げている愚物のせいだろう。
「おい。相変わらず、我が妻は愉しんでいるのか?」
私の問いにサリナスは全てを理解したようだ。
「ええ! それはもう!
真っ最中でございます!
公爵様にもぜひご覧になっていただきたい!」
清々しそうに笑みまでも浮かべているサリナス。
きっと、私もこいつと似たような顔をしているのだろう。
先のことを考えることやめた人間の顔だ。
「ダールトン。
何故、自分の娘に息のかかった者を付けなかった?
まあ、どうせアレに嫌がられたのだろう。
お前はアレに対しては本当に甘い。
結果、あのように我慢のできない娘となってしまった。
アレに王家の血が流れていると思うと虫唾が走る」
私が忌々しげに罵ると、ダールトンは目を真っ赤にしてこちらを睨んできた。
まだ早い。
目を剥くならば、もっと良いものを見てからにしてもらいたい。
フランチェスカの寝室の扉を開けた。
この前は開けると同時に奴の喘ぎ声が聞こえたものだが、今日は————
「んっ……んっ……むちゅばっ……あむぅ……んんっ……んっ!
嗚呼……おいしい、美味しいわぁ……」
「お妃様。そんなに俺のが口に合いますか?」
「ええ……素敵よ。
大きくって、たくましくって、濃い雄の味がするわぁ……
もっと、もっとちょうだい! あむっ!」
「アアッ! 凄いっ!
あはっ……王妃にしとくのが勿体無いっ!
娼婦だったら国すら買えるくらい稼いだろうなぁ!」
「同感だ。王妃なんかよりもよっぽどお似合いだ」
男の背後から被せるように声をかけた。
次の瞬間、ベッドの上で裸で座っている男の股間に顔を埋めていた————フランチェスカと目が合った。
「ファ!? ふぇい————」
「いぎゃああああああ!!!」
男が悲鳴を上げて飛び上がった。
口を押さえたフランチェスカの様子から見るに、うっかり男のモノに噛み付いてしまったようだが……
いったいナニをしていたらそんなことになってしまうのか。
私の知識では思いつかないな。
「ふ……ら、ん……」
「お父様!? え、ど、ど、どうしてここに?」
喉が潰れてまともに声を出せないダールトンはフランチェスカの不貞の現場を見て真っ青になっている。
最愛の娘がどこの馬の骨ともしれない男に媚びるようにして快楽を貪っている様を見せつけられる父親なんてそうはいないだろうな。
フランチェスカも私だけでなく父親にまで娼婦顔負けの淫らな様子を見られたことにはショックを受けているようだ。
今更ながらシーツで身体を隠して、被害者のような顔で唇を震わせている。
壁の方に目をやれば股間を両手で押さえた全裸の男がガチガチと歯を震わせて怯えた目でこちらの様子を窺っている。
やれやれ、私だけが落ち着いてしまっていて寂しくなってしまうな。
初めてフランチェスカの不貞を知った時はカーテン越しでも脳が壊れそうなくらい衝撃を受けたのに。
実際に間男とまぐわっている姿を見てしまえば拍子抜けだった。
そこにいたのは美しき我が妻ではなく、ただの下品なケダモノだったのだから。
混沌とした沈黙を破ったのはフランチェスカの涙声だった。
「へ……へ、陛下!! 違うんです!!
この男が私の弱味を握って……それで私は脅されて仕方なく————」
「お、王妃様!? それはないでしょう!!
俺はこんな危ない橋渡りたくなかったけど、金積まれたから」
「黙れえええええええっ!!
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!!
死ねっ!! 死ねぇっ!!
舌を噛み切って死ねええっ!!」
顔を真っ赤にして髪を振り乱しながら怒鳴り散らすフランチェスカ。
絶世の美姫の面影はどこにもない。
ああ、ダールトンもいい顔をしている。
流石のヤツもこの状況で愛娘の言うことを信じてやれないようだ。
問答無用で殴り飛ばすには、もったいないな。
「フランチェスカ。お前が間男を招き入れていることは知っていたよ」
「違いますっ! 私は乱暴されて!」
「お前がどこの誰をどのようにして招き入れたか、全部調べさせた。
体調がすぐれぬなどと言って公務に帯同せず、自室で取っ替え引っ替え」
「私が愛しているのは陛下だけです!!
これは……その……」
媚びるように上目遣いで私を見つめるフランチェスカの瞳はサファイヤのように蒼く煌めいている。
愛のない結婚だった。
レプラも嫌っていたし、叔父上が義父になるというのも居心地が悪かった。
だけど、婚儀の際に純白のドレスを纏ったフランチェスカの美しさは……眩いばかりだった。
ヘタクソなりに務めを果たした初夜の後だって、美しい姫君を抱いたことによる優越感や満足感に浸り、感謝の念すら抱いていた。
だから彼女を愛そうと、愛するように努めようとしていたのだけれど……
「言ってごらん。フラン。
私を愛しているのだろう?
だったらなんで————」
間男に歩み寄り、大切そうに押さえている股間を思い切り蹴り上げた。
足の甲にクルミがひしゃげて潰れたような感触が伝わると、思わず鳥肌が立った。
「おぎゅっ!!?~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
間男は声にならない声を上げてのたうち回り、泡を吹いて倒れた。
筋骨隆々とした美丈夫が白目を剥いてマヌケヅラを晒しているのは滑稽であり、思わず笑みが溢れてしまう。
再びフランチェスカに向き直って、言葉を続ける。
「なんで、私以外の男たちに抱かれたんだ?」
穏やかに話しかけているのにフランチェスカは怯えてガチガチと歯を鳴らしている。
それでも歯を食いしばって、言葉を絞り出した。
「た、鍛錬でございますっ!!
陛下を悦ばせて差し上げるために、その、夜伽の経験を積むためにたくさんの男と交わりましたっ!!」
…………ダールトンもあんぐりと口を開けている。
弁解になっていない。
錯乱して気の触れたことを言っているのか、前向きな言葉を言えば許してくれるとでも思っているのか。
なんにせよ、私を軽んじていることは伝わってきた。
「ひと月ほど前かな、貴様が間男と部屋でまぐわっているのを見たのは。
その時、貴様何と言っていたか覚えているか?」
王妃という立場において最低最悪の所業を口にしたあの日。
私は、この女に何も期待せず、そして一切の情を失った。
「どこの男の種だろうと私に王族の血が流れているんだから産まれる子はれっきとしたオルタンシアの王子。
貧乏貴族家の胎から産まれたジルベールとは違う」
「そ、そんなこと言った覚えは!」
「貴様が覚えていなくとも私は忘れはしない!!
私の血を侮辱するということは、父を! 母を! この聖オルタンシア王国を侮辱するということだ!!
私がっ……毎日毎日いわれなき中傷を受け!
守るべき民に嫌われて!
それでも歯を食いしばって耐えてきたことを貴様は否定した!!」
言葉にすればするほど怒りが込み上げてきた。
生まれてはじめて得た女を苦しめてやりたいという衝動に突き動かされ、フランチェスカの首を掴んで宙吊りにする。
ジタバタもがくが、小鳥が騒いでいる程度のもの。
数センチ指を押し込めば、フランチェスカの細い首は折れ、絶命する。
「ジ……ルッ……!!」
放っておいたダールトンが娘の危機を救おうと私に掴みかかってきた。
「王………は……乱心……コロセっ……!!」
潰れた喉で掠れた声を上げて護衛騎士のサリナスに命令をするダールトン。
だが、サリナスは動かず、淡々と言い返す。
「私は陛下の家来であり、公爵様のものではありません。
そして、今行われているのは賊の排除です。
お許しいただければ、私めがこやつらを皆殺しにいたしましょう」
そう言って、剣を抜き顔の前に立てた。
なかなかの忠義者じゃないか。
「よくぞ言った。
だが、殺さなくて良い」
ダールトンのみぞおちを蹴り上げ、フランチェスカを床に投げ捨てた。
「コイツらには死すら生ぬるい!!
王族に産まれたというだけで責務を果たさず恩恵をむさぼり!
民や臣下を見下し、モノのように扱った!
そして何よりも……私が大切だと思う者たちを貶めたり苦しめたりすることを喜んでいた!!
ダールトン!!
レプラの裸の写真を見せつけていた時に貴様が笑っていたこと気づいていたぞ!!
楽しかったか!? 嬉しかったか!?
私はそれ以上のことを貴様と娘にしてやる!!
ロイヤルベッドの下劣な記事などでは表現できないほどの恥辱をくれてやるぞ!!
だがそれでも許さない!!
許さない!! 絶対に許さない!!!
反省しようが気が狂おうが許されると思うなあああああああっ!!!
俗物どもがああああアアアアアアアアっ!!!」
喋れば喋るほど怒りが溢れかえる。
興奮あまってシルバスタンでベッドを叩き壊した。
穢れた褥がバラバラになって撒き散ったのを見て、私は高らかに笑った。
ダールトンとフランチェスカが絶望の表情を浮かべているのを見下ろしながら。
喉は潰れて、声を出そうとすれば激痛が走るので言葉を発しない。
だが視線には私に対する憎悪が満ちている。
「そんなに物欲しそうな目で見るな。
心配しなくとも、貴様の欲しがっていた王位など自然と手元に転がり込んでくるぞ」
私の怒りが行き着く先は破滅だ。
まともに死ねれば御の字。
命を失わずに済む結末もあるだろうが少なくとも王位を手放すことは避けられない。
そうなれば、自然と王位はダールトンのものだ。
…………想像するだけで楽しみだ。
「貴様が欲しがった国王の椅子は無数の刃が生えた拷問器具のようなものだ。
一度座れば肉を貫かれ、血が滴り落ちる。
傷を治そうにも刺さった刃が邪魔で塞がらない。
そして、椅子から降りることができない。
石を投げられ、火を放たれようが座り続けるしかできないんだ。
私は楽しみでならんよ。
無能で愚鈍な貴様がこの地獄に堕ちた時にどれほどの後悔と絶望を味わうのか!!」
ジャスティンは最初はダールトンを担ぐだろう。
だが、蜜月は長くは続かない。
ダールトンは元々王国議会の平民枠の廃止を訴えたり、旧時代の強固な王政の復活を夢見ている時代遅れの愚か者だ。
いずれ互いの利害が一致しなくなり、その後に起こることは……想像したくもない。
厚顔無恥なダールトンであろうと臓腑を抉られる想いをすることになるだろう。
ジャスティン・ウォールマンはそれくらい恐ろしい男だ。
だが……その前に私がこの愚か者の心を抉ってやろうと思う。
私たちを侮辱し尽くした出来の悪い娘とともにな!
たどり着いたのはフランチェスカの寝室の前。
扉の前には彼女の護衛騎士であるサリナスが立っているが、私と目が合うと素早く跪き、頭を下げた。
一瞬の動揺は私が右手にぶら下げている愚物のせいだろう。
「おい。相変わらず、我が妻は愉しんでいるのか?」
私の問いにサリナスは全てを理解したようだ。
「ええ! それはもう!
真っ最中でございます!
公爵様にもぜひご覧になっていただきたい!」
清々しそうに笑みまでも浮かべているサリナス。
きっと、私もこいつと似たような顔をしているのだろう。
先のことを考えることやめた人間の顔だ。
「ダールトン。
何故、自分の娘に息のかかった者を付けなかった?
まあ、どうせアレに嫌がられたのだろう。
お前はアレに対しては本当に甘い。
結果、あのように我慢のできない娘となってしまった。
アレに王家の血が流れていると思うと虫唾が走る」
私が忌々しげに罵ると、ダールトンは目を真っ赤にしてこちらを睨んできた。
まだ早い。
目を剥くならば、もっと良いものを見てからにしてもらいたい。
フランチェスカの寝室の扉を開けた。
この前は開けると同時に奴の喘ぎ声が聞こえたものだが、今日は————
「んっ……んっ……むちゅばっ……あむぅ……んんっ……んっ!
嗚呼……おいしい、美味しいわぁ……」
「お妃様。そんなに俺のが口に合いますか?」
「ええ……素敵よ。
大きくって、たくましくって、濃い雄の味がするわぁ……
もっと、もっとちょうだい! あむっ!」
「アアッ! 凄いっ!
あはっ……王妃にしとくのが勿体無いっ!
娼婦だったら国すら買えるくらい稼いだろうなぁ!」
「同感だ。王妃なんかよりもよっぽどお似合いだ」
男の背後から被せるように声をかけた。
次の瞬間、ベッドの上で裸で座っている男の股間に顔を埋めていた————フランチェスカと目が合った。
「ファ!? ふぇい————」
「いぎゃああああああ!!!」
男が悲鳴を上げて飛び上がった。
口を押さえたフランチェスカの様子から見るに、うっかり男のモノに噛み付いてしまったようだが……
いったいナニをしていたらそんなことになってしまうのか。
私の知識では思いつかないな。
「ふ……ら、ん……」
「お父様!? え、ど、ど、どうしてここに?」
喉が潰れてまともに声を出せないダールトンはフランチェスカの不貞の現場を見て真っ青になっている。
最愛の娘がどこの馬の骨ともしれない男に媚びるようにして快楽を貪っている様を見せつけられる父親なんてそうはいないだろうな。
フランチェスカも私だけでなく父親にまで娼婦顔負けの淫らな様子を見られたことにはショックを受けているようだ。
今更ながらシーツで身体を隠して、被害者のような顔で唇を震わせている。
壁の方に目をやれば股間を両手で押さえた全裸の男がガチガチと歯を震わせて怯えた目でこちらの様子を窺っている。
やれやれ、私だけが落ち着いてしまっていて寂しくなってしまうな。
初めてフランチェスカの不貞を知った時はカーテン越しでも脳が壊れそうなくらい衝撃を受けたのに。
実際に間男とまぐわっている姿を見てしまえば拍子抜けだった。
そこにいたのは美しき我が妻ではなく、ただの下品なケダモノだったのだから。
混沌とした沈黙を破ったのはフランチェスカの涙声だった。
「へ……へ、陛下!! 違うんです!!
この男が私の弱味を握って……それで私は脅されて仕方なく————」
「お、王妃様!? それはないでしょう!!
俺はこんな危ない橋渡りたくなかったけど、金積まれたから」
「黙れえええええええっ!!
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!!
死ねっ!! 死ねぇっ!!
舌を噛み切って死ねええっ!!」
顔を真っ赤にして髪を振り乱しながら怒鳴り散らすフランチェスカ。
絶世の美姫の面影はどこにもない。
ああ、ダールトンもいい顔をしている。
流石のヤツもこの状況で愛娘の言うことを信じてやれないようだ。
問答無用で殴り飛ばすには、もったいないな。
「フランチェスカ。お前が間男を招き入れていることは知っていたよ」
「違いますっ! 私は乱暴されて!」
「お前がどこの誰をどのようにして招き入れたか、全部調べさせた。
体調がすぐれぬなどと言って公務に帯同せず、自室で取っ替え引っ替え」
「私が愛しているのは陛下だけです!!
これは……その……」
媚びるように上目遣いで私を見つめるフランチェスカの瞳はサファイヤのように蒼く煌めいている。
愛のない結婚だった。
レプラも嫌っていたし、叔父上が義父になるというのも居心地が悪かった。
だけど、婚儀の際に純白のドレスを纏ったフランチェスカの美しさは……眩いばかりだった。
ヘタクソなりに務めを果たした初夜の後だって、美しい姫君を抱いたことによる優越感や満足感に浸り、感謝の念すら抱いていた。
だから彼女を愛そうと、愛するように努めようとしていたのだけれど……
「言ってごらん。フラン。
私を愛しているのだろう?
だったらなんで————」
間男に歩み寄り、大切そうに押さえている股間を思い切り蹴り上げた。
足の甲にクルミがひしゃげて潰れたような感触が伝わると、思わず鳥肌が立った。
「おぎゅっ!!?~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
間男は声にならない声を上げてのたうち回り、泡を吹いて倒れた。
筋骨隆々とした美丈夫が白目を剥いてマヌケヅラを晒しているのは滑稽であり、思わず笑みが溢れてしまう。
再びフランチェスカに向き直って、言葉を続ける。
「なんで、私以外の男たちに抱かれたんだ?」
穏やかに話しかけているのにフランチェスカは怯えてガチガチと歯を鳴らしている。
それでも歯を食いしばって、言葉を絞り出した。
「た、鍛錬でございますっ!!
陛下を悦ばせて差し上げるために、その、夜伽の経験を積むためにたくさんの男と交わりましたっ!!」
…………ダールトンもあんぐりと口を開けている。
弁解になっていない。
錯乱して気の触れたことを言っているのか、前向きな言葉を言えば許してくれるとでも思っているのか。
なんにせよ、私を軽んじていることは伝わってきた。
「ひと月ほど前かな、貴様が間男と部屋でまぐわっているのを見たのは。
その時、貴様何と言っていたか覚えているか?」
王妃という立場において最低最悪の所業を口にしたあの日。
私は、この女に何も期待せず、そして一切の情を失った。
「どこの男の種だろうと私に王族の血が流れているんだから産まれる子はれっきとしたオルタンシアの王子。
貧乏貴族家の胎から産まれたジルベールとは違う」
「そ、そんなこと言った覚えは!」
「貴様が覚えていなくとも私は忘れはしない!!
私の血を侮辱するということは、父を! 母を! この聖オルタンシア王国を侮辱するということだ!!
私がっ……毎日毎日いわれなき中傷を受け!
守るべき民に嫌われて!
それでも歯を食いしばって耐えてきたことを貴様は否定した!!」
言葉にすればするほど怒りが込み上げてきた。
生まれてはじめて得た女を苦しめてやりたいという衝動に突き動かされ、フランチェスカの首を掴んで宙吊りにする。
ジタバタもがくが、小鳥が騒いでいる程度のもの。
数センチ指を押し込めば、フランチェスカの細い首は折れ、絶命する。
「ジ……ルッ……!!」
放っておいたダールトンが娘の危機を救おうと私に掴みかかってきた。
「王………は……乱心……コロセっ……!!」
潰れた喉で掠れた声を上げて護衛騎士のサリナスに命令をするダールトン。
だが、サリナスは動かず、淡々と言い返す。
「私は陛下の家来であり、公爵様のものではありません。
そして、今行われているのは賊の排除です。
お許しいただければ、私めがこやつらを皆殺しにいたしましょう」
そう言って、剣を抜き顔の前に立てた。
なかなかの忠義者じゃないか。
「よくぞ言った。
だが、殺さなくて良い」
ダールトンのみぞおちを蹴り上げ、フランチェスカを床に投げ捨てた。
「コイツらには死すら生ぬるい!!
王族に産まれたというだけで責務を果たさず恩恵をむさぼり!
民や臣下を見下し、モノのように扱った!
そして何よりも……私が大切だと思う者たちを貶めたり苦しめたりすることを喜んでいた!!
ダールトン!!
レプラの裸の写真を見せつけていた時に貴様が笑っていたこと気づいていたぞ!!
楽しかったか!? 嬉しかったか!?
私はそれ以上のことを貴様と娘にしてやる!!
ロイヤルベッドの下劣な記事などでは表現できないほどの恥辱をくれてやるぞ!!
だがそれでも許さない!!
許さない!! 絶対に許さない!!!
反省しようが気が狂おうが許されると思うなあああああああっ!!!
俗物どもがああああアアアアアアアアっ!!!」
喋れば喋るほど怒りが溢れかえる。
興奮あまってシルバスタンでベッドを叩き壊した。
穢れた褥がバラバラになって撒き散ったのを見て、私は高らかに笑った。
ダールトンとフランチェスカが絶望の表情を浮かべているのを見下ろしながら。
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