25 / 65
第五話 最愛なるあなたへ
最愛なるあなたへ⑤
しおりを挟む
拳を握りしめて、振りかぶった。
鈍い叔父上は私の腕が見えていない。
地面にのたうち回って初めて自分が殴られたことに気づくのだろう。
王国議会で議員に対して暴行。
身内とはいえお咎めなしで済むまい。
だが、もう我慢できない。
何度も何度もレプラを侮辱しただけでなく、あの事件をジャスティンに教えたのも叔父上だろう……愚かな男だ!!
渾身の拳打が叔父上の頬を張る————はずだった。
「陛下っ!! ダメっ!!」
声とともに議場の天井から人が降ってきた。
彼女は私と叔父上の間に割って入るようにして降り立ち、身を挺して叔父上を庇った。
「うぐ……ぅっ!!」
肩を私に殴られて床にへたり込む女。
「レ……レプラっ!?」
うずくまって痛みに耐えるレプラに駆け寄ると全身から血の気が引いた。
初めて彼女を殴りつけてしまった。
誰よりも大切で傷つけないよう壊れないよう守り願い続けていた宝物を自分の手で傷つけた。
「す、すまない! レプラ!
私はこんなことをっ……」
「分かっております……陛下、どうか御心をお鎮めください。
今まであなたがなされてきた努力を無駄にしないでください」
痛みを堪えながら目を細めて微笑むレプラ。
黒ずくめのタイトな密偵ら使う服を着込んでいることから、おそらく彼女はずっと議場の天井に隠れて私を見守ってくれていたのだろう。
そんな彼女に議員たちは罵声を浴びせる。
「神聖なる王国議会に潜伏するとは言語道断!!」
「たとえ姫殿下であろうと許されませぬ!」
「いや、さっきのウォールマン卿やアルゴスタ公爵の言葉通りなら王族ですらない!
陛下をたぶらかす傾国の女だ!!」
「今すぐ議場から出て行け!!
いや王宮から出て行け!!」
自分の倍以上の年齢の大人達から大声で罵声を浴びせられてもレプラは怯んだりしない。
私に殴られた肩を押さえて立ち上がり、言葉を返す。
「言われなくとも、出ていきますとも。
王宮に留め置いていただいたのは陛下のご厚情故。
私の存在が陛下の醜聞につながると言うのなら、喜んで消えましょう」
潔く自分で罰を選び取るレプラ。
だけど、そんなの私が許せるわけない。
「レプラっ! 勝手に決めるな!
お前は私の————」
「いけませんよ陛下。
わがままを言っては」
優しくも強い口調で私を諌める。
そして私の耳元に口を寄せて、
「あなたが王になるのです。
そのために私はなんでもしてあげますから」
同じ言葉をあの時も聞かされた。
レプラの身柄を預かった時に。
自分の将来が閉ざされ、周りの家族との血の繋がりを否定され絶望の中にいた彼女が私に言ったのだ。
事実、レプラは私が王になるために、王であり続けるためにその身を捧げてくれた。
体術を身につけ隠密の護衛となり、情報を収集して私の仕事を手伝い、私の愚痴を聞いたり、慰めの言葉をたくさんかけてくれて…………
そして今、このどうしようもなく醜悪な処刑場から私を救い出そうとしてくれている。
「……ねえさま」
「ふふ、そうです。
私は陛下のねえさまなのだから大丈夫なのです。
信じていなさい」
幼子に戻ったような情けない声で縋り付く私だけに見えるように、レプラは笑いかけてくれた。
そこから先のことは圧巻の一言だった。
数々の修羅場を潜り抜け王国議員にまで上り詰めた王国貴族達がありとあらゆる言葉を用いてレプラに罪の追求をするも、それを弁舌巧みにかわしきった。
私の責任を追求する叔父上を瞬時に論破し、場を引っ掻き回し続けたジャスティンが道化に堕ちるほどその場の空気を掌握した。
それでいながら、有耶無耶にするつもりはないと言わんばかりに自身が王宮から出ていくことを誓約した。
きっとあの場にいた誰もが思ったはずだ。
レプラは女王になり得る器の持ち主だったと。
そして、愚かな王は全ての責任を背負って去ろうとする彼女を見つめるだけで何もできず立ち尽くすしかなかった。
鈍い叔父上は私の腕が見えていない。
地面にのたうち回って初めて自分が殴られたことに気づくのだろう。
王国議会で議員に対して暴行。
身内とはいえお咎めなしで済むまい。
だが、もう我慢できない。
何度も何度もレプラを侮辱しただけでなく、あの事件をジャスティンに教えたのも叔父上だろう……愚かな男だ!!
渾身の拳打が叔父上の頬を張る————はずだった。
「陛下っ!! ダメっ!!」
声とともに議場の天井から人が降ってきた。
彼女は私と叔父上の間に割って入るようにして降り立ち、身を挺して叔父上を庇った。
「うぐ……ぅっ!!」
肩を私に殴られて床にへたり込む女。
「レ……レプラっ!?」
うずくまって痛みに耐えるレプラに駆け寄ると全身から血の気が引いた。
初めて彼女を殴りつけてしまった。
誰よりも大切で傷つけないよう壊れないよう守り願い続けていた宝物を自分の手で傷つけた。
「す、すまない! レプラ!
私はこんなことをっ……」
「分かっております……陛下、どうか御心をお鎮めください。
今まであなたがなされてきた努力を無駄にしないでください」
痛みを堪えながら目を細めて微笑むレプラ。
黒ずくめのタイトな密偵ら使う服を着込んでいることから、おそらく彼女はずっと議場の天井に隠れて私を見守ってくれていたのだろう。
そんな彼女に議員たちは罵声を浴びせる。
「神聖なる王国議会に潜伏するとは言語道断!!」
「たとえ姫殿下であろうと許されませぬ!」
「いや、さっきのウォールマン卿やアルゴスタ公爵の言葉通りなら王族ですらない!
陛下をたぶらかす傾国の女だ!!」
「今すぐ議場から出て行け!!
いや王宮から出て行け!!」
自分の倍以上の年齢の大人達から大声で罵声を浴びせられてもレプラは怯んだりしない。
私に殴られた肩を押さえて立ち上がり、言葉を返す。
「言われなくとも、出ていきますとも。
王宮に留め置いていただいたのは陛下のご厚情故。
私の存在が陛下の醜聞につながると言うのなら、喜んで消えましょう」
潔く自分で罰を選び取るレプラ。
だけど、そんなの私が許せるわけない。
「レプラっ! 勝手に決めるな!
お前は私の————」
「いけませんよ陛下。
わがままを言っては」
優しくも強い口調で私を諌める。
そして私の耳元に口を寄せて、
「あなたが王になるのです。
そのために私はなんでもしてあげますから」
同じ言葉をあの時も聞かされた。
レプラの身柄を預かった時に。
自分の将来が閉ざされ、周りの家族との血の繋がりを否定され絶望の中にいた彼女が私に言ったのだ。
事実、レプラは私が王になるために、王であり続けるためにその身を捧げてくれた。
体術を身につけ隠密の護衛となり、情報を収集して私の仕事を手伝い、私の愚痴を聞いたり、慰めの言葉をたくさんかけてくれて…………
そして今、このどうしようもなく醜悪な処刑場から私を救い出そうとしてくれている。
「……ねえさま」
「ふふ、そうです。
私は陛下のねえさまなのだから大丈夫なのです。
信じていなさい」
幼子に戻ったような情けない声で縋り付く私だけに見えるように、レプラは笑いかけてくれた。
そこから先のことは圧巻の一言だった。
数々の修羅場を潜り抜け王国議員にまで上り詰めた王国貴族達がありとあらゆる言葉を用いてレプラに罪の追求をするも、それを弁舌巧みにかわしきった。
私の責任を追求する叔父上を瞬時に論破し、場を引っ掻き回し続けたジャスティンが道化に堕ちるほどその場の空気を掌握した。
それでいながら、有耶無耶にするつもりはないと言わんばかりに自身が王宮から出ていくことを誓約した。
きっとあの場にいた誰もが思ったはずだ。
レプラは女王になり得る器の持ち主だったと。
そして、愚かな王は全ての責任を背負って去ろうとする彼女を見つめるだけで何もできず立ち尽くすしかなかった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる