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第五話 最愛なるあなたへ
最愛なるあなたへ②
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数分後、私は紙に描かれた、いや……写し出された自分の姿を見て驚きのあまり声を失った。
鏡で見た姿をそのまま留め置いたようだ。
「開発者はこの道具のことをカメラ、写し出した絵の事を写真と呼んでいるようです」
「カメラと写真……すごい発明だな」
「ええ。なんでも光についての研究をしていた学生がひらめいて職人を呼び寄せて作り出したそうですよ。
その写真の娘です」
「ひらめきね。いや、大したものだ。
しかし、天は何物も一人の人間に与えるものだ。
このように美人で頭も良いとは恵まれているな」
私は再び写真の女性を眺めてボヤく。
「天からの贈り物について語るならば、陛下こそ恵まれている……まあ、それはいいでしょう。
この娘、案外、苦労人のようですよ。
貧困層の出身で特待生待遇で大学に通うものの、父親は飲んだくれで女が学問の道に進むのを良しとせず、特別給付金を酒代に溶かしているのだとか」
「なんと……それはいかんな。
多少通い易くはなったとはいえ、まだまだ国の課題は山積みだな。
とりあえず、この娘……いや、それでは角が立つな。
寄贈してくれた研究室に報奨金を出そう。
学問は金を産む。
まず意識改革の第一段階はそれで……ん?」
ついこないだにも同じような事を考えていた気がする。
この写真の女性もどことなく既視感が————
「女性の顔を覚えない男はモテませんよ」
「何をいう。
顔を覚えるのは得意だぞ。
臣の名前と顔が一致しない王は信頼を集められんからな」
「でしたら、女性の化粧についても興味を持つべきと存じます。
化粧はご自身にするだけですか?」
「何を言って…………ああっ!?」
写真の女の顔立ちをじっくりと見直す。
たしかに、絵のようにずっと残り続けるものなのだ。
どうせ残すならばめかし込んだほうがいい。
しかし、本当にこの娘は化けるな……
あの時、路地裏で父親と戦っていた、ボロを着て髪の毛を跳ねさせた少女とはまるで違う。
「シウネ・アンセイル……」
「はい。ヒューズワン研究室というのは彼女が所属している研究室です。
陛下が王国教養大学が行う基礎研究と工業、医療等の技術者を結びつけるために共同研究を推奨した結果が出始めましたね」
「たしかに助成金やら法の整備は行ったが、まだひと月も経たないぞ……こんな早く成果が出るとは」
「陛下のお力になりたい。
そう強く想われたのでしょう。
想いというのは計り知れない力があるものですから」
そう言ってレプラは私からシウネの写真を取り上げて言う。
「書簡に書かれてあったのですが、どうもシウネ嬢はこのカメラとやらを小型化し、持ち運べるような改造を試みているようです」
「まことか……凄いな。
それが実現すれば世の中が大きく変わるぞ。
写真を用いることで記録や情報伝達の正確さが格段に上がるからな。
文化面においても、写実的な絵に取って代わるだろう。
ああ、本の挿絵に写真を使うのもおもしろそうだ。
後……何ができる?!」
興奮気味に問う私をレプラは微笑ましそうに見つめている。
「別の事を考えさせて気を紛らわして差し上げようと思ったのですが、想像以上に楽しんでいただけているご様子で」
「当たり前だ。
私のちっぽけなプライドなどよりこのカメラと写真のことの方が大事だからな」
私がそう答えると、レプラはポツリと呟く。
「貴方は強いのね……悲しいくらいに」
その言葉の意味を問おうとしたその時だった。
秘書官の一人がドアをノックして部屋に入ってきた。
「陛下! 緊急事態です!
急ぎ王国議会にお越しください!」
「緊急? 議会の開催は三日後のはずだが」
秘書官は泣きそうな顔で声を上げる。
「ダールトン様が議員全員に緊急召集をかけたのです!
『これは公爵として、国王の義父としての命令である!
出席しなかった者は王都に住めなくなると思え!』
と脅迫じみたお言葉を添えられて!」
…………は?
「ロイヤルベッド、という名の新聞にフランチェスカ様の事が悪し様に書かれているらしく、書いた者を処刑せよとか読んだ者に罰則を与えよとか、とにかく手がつけられないご様子で!」
「な……な、な、何を考えてるんだぁーーーーっ!!?
あの馬鹿叔父貴は!!」
せっかくの楽しい気分が台無しになり、腹ただしい気持ちで私は出かける支度を始めた。
鏡で見た姿をそのまま留め置いたようだ。
「開発者はこの道具のことをカメラ、写し出した絵の事を写真と呼んでいるようです」
「カメラと写真……すごい発明だな」
「ええ。なんでも光についての研究をしていた学生がひらめいて職人を呼び寄せて作り出したそうですよ。
その写真の娘です」
「ひらめきね。いや、大したものだ。
しかし、天は何物も一人の人間に与えるものだ。
このように美人で頭も良いとは恵まれているな」
私は再び写真の女性を眺めてボヤく。
「天からの贈り物について語るならば、陛下こそ恵まれている……まあ、それはいいでしょう。
この娘、案外、苦労人のようですよ。
貧困層の出身で特待生待遇で大学に通うものの、父親は飲んだくれで女が学問の道に進むのを良しとせず、特別給付金を酒代に溶かしているのだとか」
「なんと……それはいかんな。
多少通い易くはなったとはいえ、まだまだ国の課題は山積みだな。
とりあえず、この娘……いや、それでは角が立つな。
寄贈してくれた研究室に報奨金を出そう。
学問は金を産む。
まず意識改革の第一段階はそれで……ん?」
ついこないだにも同じような事を考えていた気がする。
この写真の女性もどことなく既視感が————
「女性の顔を覚えない男はモテませんよ」
「何をいう。
顔を覚えるのは得意だぞ。
臣の名前と顔が一致しない王は信頼を集められんからな」
「でしたら、女性の化粧についても興味を持つべきと存じます。
化粧はご自身にするだけですか?」
「何を言って…………ああっ!?」
写真の女の顔立ちをじっくりと見直す。
たしかに、絵のようにずっと残り続けるものなのだ。
どうせ残すならばめかし込んだほうがいい。
しかし、本当にこの娘は化けるな……
あの時、路地裏で父親と戦っていた、ボロを着て髪の毛を跳ねさせた少女とはまるで違う。
「シウネ・アンセイル……」
「はい。ヒューズワン研究室というのは彼女が所属している研究室です。
陛下が王国教養大学が行う基礎研究と工業、医療等の技術者を結びつけるために共同研究を推奨した結果が出始めましたね」
「たしかに助成金やら法の整備は行ったが、まだひと月も経たないぞ……こんな早く成果が出るとは」
「陛下のお力になりたい。
そう強く想われたのでしょう。
想いというのは計り知れない力があるものですから」
そう言ってレプラは私からシウネの写真を取り上げて言う。
「書簡に書かれてあったのですが、どうもシウネ嬢はこのカメラとやらを小型化し、持ち運べるような改造を試みているようです」
「まことか……凄いな。
それが実現すれば世の中が大きく変わるぞ。
写真を用いることで記録や情報伝達の正確さが格段に上がるからな。
文化面においても、写実的な絵に取って代わるだろう。
ああ、本の挿絵に写真を使うのもおもしろそうだ。
後……何ができる?!」
興奮気味に問う私をレプラは微笑ましそうに見つめている。
「別の事を考えさせて気を紛らわして差し上げようと思ったのですが、想像以上に楽しんでいただけているご様子で」
「当たり前だ。
私のちっぽけなプライドなどよりこのカメラと写真のことの方が大事だからな」
私がそう答えると、レプラはポツリと呟く。
「貴方は強いのね……悲しいくらいに」
その言葉の意味を問おうとしたその時だった。
秘書官の一人がドアをノックして部屋に入ってきた。
「陛下! 緊急事態です!
急ぎ王国議会にお越しください!」
「緊急? 議会の開催は三日後のはずだが」
秘書官は泣きそうな顔で声を上げる。
「ダールトン様が議員全員に緊急召集をかけたのです!
『これは公爵として、国王の義父としての命令である!
出席しなかった者は王都に住めなくなると思え!』
と脅迫じみたお言葉を添えられて!」
…………は?
「ロイヤルベッド、という名の新聞にフランチェスカ様の事が悪し様に書かれているらしく、書いた者を処刑せよとか読んだ者に罰則を与えよとか、とにかく手がつけられないご様子で!」
「な……な、な、何を考えてるんだぁーーーーっ!!?
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