流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王。加熱する報道が越えてはならない一線を越えた日、史上最悪の弾圧が始まる〜

五月雨きょうすけ

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第四話 三年目のスキャンダル

三年目のスキャンダル⑥

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 レイナード家は由緒正しい騎士の家系だ。

 男児は騎士となるべく英才教育を施され、10歳になれば軍の幼年学校に通い、15歳になれば騎士団の入団試験を受ける。
 俺も他の兄弟たちと同じように決められた道を歩んでいた。
 他の兄弟たちと異なったのは、剣の才に恵まれていたことだ。
 他の兄弟たちは寝食を忘れて稽古に没頭してようやく学年で十傑にかかるかかからないかというところだったが、俺は幼年学校に入って二年目から修了まで学校一の剣の使い手の座を明け渡しはしなかった。

 騎士団に入ってからも破竹の勢いで先輩方を追い抜き『レイナード家の最高傑作』と呼ばれるほどだった。
 
 そのように称えられることに馴れていた俺だが、王宮務めの近衞騎士に選ばれた時は流石に歓喜した。
 向上心の低い同僚は、

「良いよな。王宮勤めならモンスターと戦うことはないし安全で」

 などと羨んできたがそれは勘違いというものだ。
 近衛騎士に敗走、撤退は決して許されない。
 王家の方々をお守りすることが何よりも優先される。
 最後の壁として戦い抜く胆力とどのような刺客が現れても打ち勝つことができる実力がなければ務まらない。
 一人の騎士としてこれ以上の評価はなく、この大任を授かったことを光栄と思った。

 だが、往々にして理想と現実の間には埋めがたい差があるものだ。



「くれぐれも人に漏らさないように。
 騎士爵ごとき私からすれば平民と変わらないんだから。
 親兄弟が罪人として市中に首を転がされるのは嫌でしょう?」

 皆が憧れる美貌の王妃フランチェスカ様は自分の密通を隠すために俺を脅迫された。
 国王と不仲だとは聞いていたが、まさか他の男と情を交わしているとは思わなかった。
 それも一人や二人ではない。

 好みは筋骨隆々とした巨躯の男。
 年齢は30~40歳頃。
 肌や髪の色にこだわりは少ないようで浅黒い肌をした南方の男や顔の彫りが浅く平たい顔をした男もいた。
 さらに言えば身分も微妙な男ばかりだった。
 流石に平民こそ混じらなかったが、爵位を継げなかった貴族の次男や三男が多く、中には部屋住みのものまでいた。

 こんな爛れた火遊びはいずれバレる、と思っていた。
 人の口に戸は立てられない。
 誰かがマスコミに情報を売りに出れば一発だ。
 新聞屋はこぞって国王陛下の粗探しをしている。
 王妃が寝取られたなんて、いかにも下衆が好みそうな話題だ。

 だが、王室の闇というものは俺が想像していた以上にドス黒く受け入れ難いものだった。

 その日も王妃は自室で浮気相手と情事を愉しんでいた。
 しかも真昼間からだ。
 嫌々ながら扉の前に立っていると、

 ガンッ!!

 強く扉を一回叩かれた。
 これは王妃からの緊急事態の合図である。

「陛下!?」

 俺は勢いよく扉を開けて、室内に飛び込んだ。
 そこには裸の王妃が扉の裏側に立ち、ベッドの上に座っている男を睨みつけていた。
 均整の取れた豊満な裸身を膝掛け布一枚で隠しながら俺に命じた。

「サリナス。あれは賊よ。
 首を跳ね飛ばしなさい」

 彼女の言葉に男は仰天する。

「ま、待ってくれ!?
 何故だ!? ついさっきまで貴女だって愉しんで」
「やりなさい!! サリナス!!」

 悪鬼のように顔を真っ赤にして吠える王妃。
 俺は理解した。
「死人に口なし」。
 それが王妃流のリスク管理というやつなのだろう。
 反論に意味などない。
 俺が切らなければ俺以外のやつがこの間男を殺すし、俺も死ぬ。

 心を殺し、俺は剣を抜き、狼狽える男の首を跳ね飛ばした。
 その日から俺は寝室の番だけでなく王妃の忠実な飼い犬として人を斬る仕事も与えられた。
 俺が斬った死体は王妃が最も信頼している侍女が始末する。
 王宮のトイレから流されるのは糞尿だけでなく砕かれすり潰された死体が混じることを知った。
 
 俺は後悔していた。
 こんなことならば騎士などやめて辺境で冒険者をやった方がマシだ。
 だが、王妃の秘密を知っている俺が逃げられる訳がない。
 よしんば俺が助かってもレイナード家の一族郎党は見せしめのため皆殺しだ。
 いつか、この寝室の前に王妃の命を狙う暗殺者が現れたとして俺は命懸けで剣を振るうことは出来るだろうか?
 俺は闇の中で自分の道をすっかり見失ってしまった。
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