流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王。加熱する報道が越えてはならない一線を越えた日、史上最悪の弾圧が始まる〜

五月雨きょうすけ

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第三話 これは趣味ですか? いえ使命です。

3−2

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 人通りの少ない裏路地に逃げ込み建物の壁にもたれて大きく息を吐く。
 雑踏から遠ざかり、訪れた静けさが心地良かった。

 だが、その静けさは一瞬で壊されてしまう。

「役に立たねえ勉強ばっかやりやがって!
 この穀潰しが!!」

 怒鳴り声と共に目の前の建物の扉が開き、少女が一人叩き出された。
 つぎはぎだらけのブラウスやスカートはシワだらけで、栗色の髪の毛も傷み放題。
 清潔感のある身なりとはお世辞にも言えないが、その胸には分厚い学術書が抱き締められていた。

 そんな彼女を追うように建物の中から中年の男が出てくる。
 酒を飲んでいるのだろうか、禿げ上がった頭頂部まで紅潮しておりタコのような有り様だ。

「酒場の知り合いに聞いたぞ。
 お前の通ってる王国教養大学ってのは、卒業しても学校の教師か貧乏学者になるしか道が無いらしいじゃねえか。
 大学を出て、父ちゃんを楽させてくれるんじゃなかったのかよ!?」

 男は少女を足蹴にした。
 反射的に私は止めに入ろうとしたが、レプラが引き止める。

「お忍びでしょう。
 無闇な接触は避けるべきです」
「女性が殴られているのを見過ごせと!?」
「見たところ親子のようですし、殺しはしないでしょう」

 レプラの冷たい言葉に思わずカッとなった。

「だったらお前だけ離れたところで見ていろ!」

 レプラの腕を振り払うと親子の間に割って入った。

「おやめなさい!
 娘を蹴り倒すなど父親のやることですか!」

 私は外出する時、口調は変装した身なりに合わせて変えている。
 だが、このように民としっかり関わる事はほとんどない。
 まるで初めて舞台に上がった素人役者のように緊張する。

「親子の問題に他人が口出してんじゃねえよ!」

 凄む男に私は引かず、その目を強く睨み返し反論する。

「聞いたところによると王国教養大学に娘さんは通っているようじゃないですか。
 かの大学は我が国で最も知恵者が集まる場所。
 そんな秀才を痛めつけるとあらば、それは親子の問題ではありません。
 王国の財を奪おうとする犯罪行為です」
「ケッ! 俺はな!
 頭でっかちな女が大嫌いなんだよ!
 さっさと大学なんか辞めて酒場でも娼館でも入って働けや!」

 物の価値が分からん男だな。
 王国教養大学の学費は凄まじく高額。
 裏路地の集合住宅に暮らす貧民層に学費は捻出できないはず。
 となると、この娘は特待生————ずば抜けて優秀な頭脳を持っているため学費を免除されて大学に通っているのだろう。
 紛れもない才女だ。

 なのに無教養で目先のことしか見えていない父親にかかれば穀潰し扱いか。
 かわいそうな娘……と同情の目をうずくまっている娘に向けたのだが、

「ヒヒッ、いいんですかぁ?
 本当に大学を辞めてもぉ?」
「え?」

 娘は突然引き攣らせたような笑みを浮かべ父親を睨み返した。

「私は特別奨励金給付生……つまり、成績優秀だから返さなくていいお金を大学から貸していただいているんですよ。
 で、それが我が家の生活費やお父さんの酒代になっているんですよねぇ。
 大学を辞めるってことはそれを受け取れなくなるだけじゃなく、今まで借りてた分も耳を揃えて返さなきゃいけなくなるんですよぉ。
 そこんとこお分かりですかぁ?」

 ニチャア……という粘りついた音が聞こえてきそうなほどいやらしく挑発するような笑みだ。
 それにしても、特別奨励金って……
 3年前に私が作った制度だがあんな厳しい条件を満たせる学生が貧困層にいるとは、素直に感心してしまうぞ。

「チッ……だったらその金で酒買ってこいよ!
 頭でっかちのタヌキ娘!」

 父親は荒々しくドアを閉めて彼女を閉め出した。
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