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第三話 これは趣味ですか? いえ使命です。

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 国王の仕事は王宮だけで行われるものではない。
 時には市井を見て回り、書類には書かれない社会の問題や民の悩みを見つけ出すのも重要な役目だ。
 王家秘伝の特殊な化粧術により別人に化けた私は護衛役のレプラのみを引き連れて城下町に向かった。

 街はいい。
 子供たちが戯れている姿を見ていると心が洗われるようだ————
 む、あれは戯れというよりもイジメの光景ではないだろうか。
 体の大きな男の子が小さな子を罵倒して泣かしているぞ。
 こんな格好でアレだが叱りつけてやらねば。

「やーい、ウンコ漏らしー!
 ウンコ漏らしたからお前は王様な!」
「クソ漏らし王、バンザーイ!」
「ちょっとやめなさいよ!
 他人をいじめると王様みたいになるって学校の先生が言ってたわよ!」
「そうだそうだ!
 お前らの方こそ王様だ!」
「なんだとテメエ! もういっぺん言ってみろ!
 誰が王様だぁ!!」

 ……イジメられてるの私じゃん。
 この国ではもう王様は蔑称なのか?

「あのガキどもシメてやりましょうか?」
「やめなさいって……子供の言うことにめくじら立ててはいけませんよ」

 逸るレプラを制するも、私は肩を落としながらその場を立ち去った。


 60万の民が暮らす王都は広大であり、往来もまた広く作られている。
 特に王城の正門から王都の南側の出口に繋がる大進軍通りは幅が50メートル程あり、軍の凱旋の際などは何千人もの騎士・兵士の壮大なパレードで群衆が湧き上がる。

 今日は特別な催しはないので民が行き来するだけだ。
 笑いながら隣人と語らう彼らの姿を見るとこの国の平和を感じさせられる。

「聞いたか? また王様が無茶苦茶してるらしいぞ。
 何の罪もないアインバッハ王国議員をクビにしたんだって」
「聞いた聞いた。
 ひでえよな、しかもその後アインバッハさんは変死したんだろ?
 ジャスティン様が王様を追求してもはぐらかすばかりで話にならなかったとか」
「新聞で見た感じ、平民出身のアインバッハさんが王様の失政を追求するのが気に食わなかったんだろうって。
 マジでクソみたいな王様だよなあ……
 王室とかもういらないんじゃね」

 違う、そうじゃないんだ。
 たしかにアインバッハの粛清を進めたのは私だが、それは奴がモンスターを養殖し気に食わない貴族たちを襲わせていたからだ。
 奴によって奪われた命は数知れず、また多くの婦女子がモンスターの苗床として非人間的な扱いを受けた。
 この全貌を公開すれば、社会に与える不安が大きいことや模倣する不届き者が出てくることといった弊害が発生する。
 そして何より、平民排斥派の貴族たちが王国議会から平民を排斥する口実を与えかねないという恐れがあった。
 故に、できるだけ極秘裏にアインバッハを消したつもりなのだが、ジャスティンに嗅ぎ付けられた。
 きっと奴は全てを知っていた。
 その上で、私が何も話せないことを良いことに好き放題追求し、それを新聞や報道劇にして世間に広めた。

 結果、理由なく平民出身の議員を粛清した王として民たちには思われている。
 やるせない……

 通りを歩く人々が皆、私の敵に見えてくる。
 もしここで正体を明かせば袋叩きにされて殺されてしまうのだろうか。

 ゾクリと背筋が寒くなり、身体を抱きすくめた。

「ご気分が優れないのですか?」
「いや……大丈夫。
 あまりの人の多さに酔っただけ。
 フフフ、活気があって何よりね」

 やれやれ……何と情けない国王だろうか。
 自分の国を歩くことにすら怯えてしまうなんて。
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