6 / 65
第二話 幼馴染にバラまけない復興支援
2–1
しおりを挟む聖オルタンシア王国は建国500年を迎える歴史を誇り、国土は広く、温暖な気候と肥沃な大地に恵まれた豊かな国だ。
農民達は作物を育て、狩人は獲物を狩り、職人は道具を作り、商人達はそれらを世に回す。
周辺諸国と小競り合いのような紛争はあれども無敵の王国軍は敗北を知らず、辺境で強大なモンスターが暴れれば領主は兵を上げ、さらに冒険者ギルドに所属する冒険者達がわれ先にと討ち滅ぼす。
子どもたちはよく遊びよく学び、若者は勤勉に働き家族を築き上げ、年寄りたちは穏やかに余生を楽しむ。
美しく調和の取れた民の暮らしを私は愛し、そして彼らのことも愛していた。
愛する彼らのために理想の王であろうと即位してから三年間、ひたすらに尽力してきたつもりだ。
「ジルベール陛下……いったいどういうおつもりですか?」
財務大臣が唇を震わせて私に問う。
彼の手にはモンスターの被害に遭った辺境伯領に対する支援計画の書類が握られている。
私が作成し、国王特権により議会に提出し、この場で承認を受ければすぐにでも動かせる計画だ。
「見ての通り、食糧の支援と復興工事のための人足の派遣。
それに加えて犠牲者兵士の遺族に支払う弔慰金等の費用を国庫から供出する計画書だが」
「そんなの見れば分かります!
言いたいのはこの支援が随分と手厚いことです!
やはり……友人であるシュバルツハイム辺境伯の領地だから特別に便宜を計っているのですか!?」
またか……と思った。
私が何か政策に口出しするとこのように私的な権力の濫用を疑われる。
他の者ではしがらみに捉われ手を出し辛い問題を国王の権限で率先して解決しているだけで私情を挟むつもりはさらさらない。
それなのに賄賂だのえこひいきだの言われるのは甚だ遺憾だが、声を荒げたりはしない。
立場が悪くなるだけだからな。
「シュバルツハイム卿が余の旧い友人であることは事実だが、王位についてから個人的な交友は行っていない。
支援が厚いのは彼の領地がヴィルシュタイン王国との国境に隣接した戦略的重要地域だからだ。
復興が遅れたり、混乱が続いたりすれば侵攻の隙を与える。
それに討伐難度S級に値する大型のドラゴンを複数体討伐してくれたのだぞ。
本来なら領地を増やしてやっても良いくらいの功績だ。
戦費や犠牲を払わせるだけで、補填や補償をしないなどと言えば我が国を捨て隣国に与するだろう。
要するにこの計画は国のために金を使うのだ。
何の問題もない」
「……かしこまりました。
王の勅命ということで、この計画を遂行します」
「うむ、良きに計らえ」
私と財務大臣とのやりとりは同じ議事場にいる50名近い人間に見られている。
国政の中枢である王国議会。
王都に住む32名の議員からなる立法府である。
かつては貴族だけで構成されていたが、最近では平民身分の有力者もその席を得るようになり、政治に平民の声も少しずつ取り入れられるようになりつつある。
この王国議会によって決定された政策を行政機関である執政府が遂行する。
先程、私に質疑を問うていた財務大臣は執政府の金庫番である。
国が富むにつれて国家運営に必要なものは強力な王ではなく、有能な参謀達が構成する強固な組織と代わりつつある。
それでも国王は変わらず、王国議会の最も高い場所に座り、執政府の首相としての地位を兼任している。
法案や政策の最終承認を行ったり、公職の任命などを行う権限を与えられている。
そのことを面白く思わない者もいるのだろう。
議会の一番入り口に近い席に座っている議員が私を見て意地悪そうに笑う。
薄い紫色の髪を几帳面に整髪膏で固め後ろに流しているキツネのような顔つきの男。
ジャスティン・ウォールマン。
王国議会の数少ない平民議員である彼は有力な大商人の父を持つと同時に、彼自身も国内最大の新聞社『ウォールマン新聞社』の経営者でもある。
世間では彼を育ちの良いやり手の実業家程度に思っているらしいが、私の値踏みは異なる。
50年ほど前、活版印刷の技術が確立されると同時に情報屋と呼ばれていた裏稼業のゴロツキどもが新聞業を始めた。
情報を大衆に向けて売る商売を始めたのだ。
その商売と、それに携わる者達はいつしかマスコミと呼ばれるようになった。
最大手の新聞社の社長であるジャスティンはマスコミの代表格であり、そして私の首を狙っている野心家だ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説


最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる