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昔話をしよう。

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不幸話ならいくらでもできる。
あまりにも不運な出来事ばかりで、感覚が
マヒしてしまったかもしれない。

俺が幼少の頃、父母は離婚したらしい。
シングルファザーで育てられた俺の毎日は、
誰も居ない部屋で寝起きをし、古びたテーブルに
数百円置かれたお金と「適当に食べろ。」と
適当な紙に殴り書きされたメモだけ。
小さ過ぎた俺は、まだ字を読めなかったし、
お金の使い方もわからなかった。
それが数日続き、お腹を空かせた俺は、
水を飲んで空腹を紛らわした。
丸いお金とメモは貯まるが、お腹はすく。
ある日、お腹が空きすぎて倒れていると、
久々に見た父に、殴られた。
お金の使い方がわからなかっただけなのに…。

お金を使わず食べ物がなかった事や
勝手に倒れていた俺に対し腹をたてたのか、
なぜか殴られた。
何か叫んでいたが、覚えてない。
泣いたり声をあげると、さらに殴られた。
だから、ひたすら耐えたてた気がする。
別の日には、朝のあいさつをしただけで
うるさいと怒鳴られ、母に似た顔が
腹立つとか言われ、殴られてしまった。

父がいないとある日、いつものように
空腹を紛らわす為台によじ登り水を飲み、
丸いお金とメモを持ち外に出た。
いい匂いに釣られ食べ物屋さんに行くと
知らない人に知らない部屋に連れて行かれた。
あとは、あまり覚えていない。
小学校に上がる前、施設にひきとられた。
毎日違う服を着て、毎日お風呂、毎日
決まった時間に食べ物が食べれるようになった。
学生時代には多少、いじめにあったが痛みはあまり
感じず、あまり気にはならなかった。

そして、アルバイトをしながら高校を卒業し
ブラック会社に就職。
上司の娘に気に入られ、結婚するがなかなか
子どもができないと言われ、夫婦で
不妊治療の検査を受けた。
妻の子宮に問題があり、治療を続けていたが、
子宝には、恵まれなかった。

"無表情で何を考えてるか、わからない"
"冷たい"とか一方的に言われ、家に帰るのも
億劫になり、ますます目の前の仕事を
片付ける作業に没頭していた。
妻とは名ばかりで、夜の営みでさえ拒まれ
周りには"俺が"タネなしだからと言いふらし
子宝が授からないことを説明していた。
上司の妻だから、体裁があるんだろうと思ったが
妻は男遊びを始めた。
それに対して、何かを言ったが言い返され
離婚にも応じず、虚しい毎日の繰り返しで
もう、何も言う気がなくなってしまった。
ただの同居人扱いだった。
ご飯も一緒に食べなくなり、何年経っただろうか?

こんな毎日に終止符がついた。
祝われることのない自分の65回目の誕生日。
無事にブラック会社を定年退職し、
定時に終わり帰宅した小瀬大慈(こせ だいじ)。
家に帰ると長年一緒に住んでいた妻から
「さよなら。コレ書いて出しといてね。
あと、余った福引き券あげるわ。」
と殴り書きされたメモと離婚届、そして
なぜかスーパーの福引き券だけが残されていた。

空っぽの部屋でしばらくほうけていたが、
お腹が空いたので、いつものスーパーに行き
数日分のご飯や適当な物をカゴに放り込んでいった。
会計を済ませると、持っていた福引き券と同じような
福引き券を貰った。
「最終日ですので、お早めに。よろしければ
こちらで福引きして下さいね。当たりますように。」
福引きの金額には足りなかったはずなのに、
合わせて3回分の福引きが出来る券を
おまけしてくれたのだ。
あと家から数えずに持って来たものだったが
「おまけですよ。」
と小声で言われたあと
「4回分ですねー。さあー、どうぞ。」
変にテンションの高い男性店員に、
勧められるままに、ガラガラをまわした。
当たった物は、タッパー、アルミホイル、
懐中電気、そして…
カランコロン、カランコロン。
昔ながらの鐘の音が店内に鳴り響いた。
「おめでとうございます。特賞の旅行券です。」
と言われてしまった。

注目を浴びた俺は恥ずかしさや怖さが
ごちゃごちゃになり、中身を確認しないまま
テンションの高い店員から商品を受けとった。
視線を感じながら店を出た。

あと、少しで空っぽの家にたどり着く。
足取りが急に重くなり、クラクションの
音に気づいた頃には、意識を手放していた。

辺りはざわめきと、悲鳴につつまれていた。

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