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ヴィル王子の料理 1

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俺とシヴァーディーのやりとりを
あぜんとした表情をしている者
びしょ濡れだった男と、ひざに
怪我をしていた者は、震えも止まり
俺たちに、お礼を言っていた。

なんとなく予想はつくが、
シヴァーディーが何が起きたのか
理由を聞いた。
ひざを怪我していたものが
水を運ぶ途中、なにかにつまづき
びしょ濡れになっていた男に
まともに、かかってしまったらしい。
しかも、運が悪いことに、型にはめた
ケーキ生地で、後は焼くだけだったらしい。

いまから作り直すには、材料が心許ないのと
時間の勝負だった。
開催は明日からだが、遠い国からの来賓は
今日から城に宿泊していた。

総料理長と、つまづいた者、水をかぶった男は
更に凹んでるようにみえた。
「水は綺麗なんだろ?」
「は、はい。」
「材料が無事なものは、少なくなっていいから
広いバットに移してくれ。」
「バットですか?」
「そうだ。バットにバターを塗り込んで、
そこにケーキ生地いれてくれ。」
「は、はい。」
言われるがまま、動く総料理長や
数人の料理人達がいた。
「ヴィル様何を作るの?」
「普通のケーキも美味しいが、今回は、
食の細い女性も多く参加しているから、
小さめのミニロールケーキと、
ぷちクレープケーキだな。」
「ミニロールケーキとぷちクレープケーキ。
ヴィル様の手作り、私が独り占めしたいわ。」
「……。」
俺は少しだけシヴァーディーを見た。

「今度材料ある時、作ってやるよ。」
「きゃー。ヴィル様大好き。きっとよ。
きっと、必ず作ってね。ここにいる
みんなが証人よ。」
「…約束するよ。…俺、信用ないんだな。」
「いや~ん。私にヴィル様の愛情入りケーキ
うれし過ぎるぅ。もぉ~ん、大好き。」
「こらっ!くっつくな。」
「いや~。ヴィル様~。」

俺たちをチラチラ見ながら、ケーキ生地を
バットに写し終えたようで、声を
かけにくそうな表情をしていた。

「あ、あのー……。」
「ん?なんだ?流し終えたか?」
「あっ、あ……。はい。あっ…いえ…。」
「なんだ?なんか、質問か?心配事か?」
「あっ、…は…はい。」
相手は俺と対して変わらない年齢に見えた。
明らかに聞きたい事あるのに、
俺に対して聞けないのか、ビクビク
しながらも興味津々であった。

「何もとって食わないし、魔力暴走も
最近は解消できてる。魔力に関しては
落ち着いているから暴走は起こすことはない。
安心していいぞ。」
俺は胸を張り、自慢げに話した。
なんせ、俺にはオリービアという
強い味方?俺の想い人がいるからな。
オリービアの為なら、何種類もの
プチケーキ、何種類もの少量ずつの
食事を作れそうだ。

「あ、あの…。お、恐れ入りますが、
お、王子様と魔術師様は、どういった
御関係なんでしょうか?」
「「「「「……。」」」」」
俺と同年代っぽい料理人は、
質問した後、頭を伏せていた。

「……そ、そこなのぉ?」
「そっちかあ……。」
あっ、シヴァーディーと言葉が
かぶってしまった。
「「……。」」
「……。」
俺たち2人はお互い黙り合い
笑いを堪えていた。
だが、質問した相手は、違う意味で
震えていた。
「す、すみません…。お、お許し下さい
い、命だけは……。」
「「…はっ(えっ)?」」
微妙に違うが、またシヴァーディーと
言葉が重なってしまった。

「俺ってそんなに怖いのか?」
はあ~。ここまで怖がられると
なんだか凹む。
「…も、申し訳ございません。
ひ、ひらにひらにお許しを……。」
「あんたさぁ、ヴィル様と私を
恐れてるのか、そーでないのか
わざとかわからないけど、そこまで
頭下げて土下座までされると、
気分良くないよ。私なら、いますぐ
速攻やめてほしいんだけど……。」

「……わ、わかりました。お、お世話に
なりました。」
男はエプロンをとり、頭を下げて、
総料理長の方をみた。
「ちょっと待って。違う。意味がちがう。
私は、仕事をやめろって言ったんじゃなく
土下座したり、ビクビク怯えるのを
"やめて"欲しいのよ。」
「…す、すみません。」
「本気で仕事辞めたいなら、別に
とめないけど、そーじゃないなら、
目覚め悪くなるし、やめてよねー。
仕事じゃないわよ。もぉー、まったく
最近の若い子は……。」

シヴァーディーが年寄りくさい事を
言うている。
「もぉ、ヴィル様も何か言ってよねー。もぉ~。」
「あ、あぁ。年齢と名前はなんだ?」
「えっ、あ…はい。年は19歳で名前は、
ミリです。」
「19歳…ミリ?女性か?」
「は、はい…、す、すみません。」
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