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双子の兄弟

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その日の俺(ヴィル)は、朝から何故か
寒気が止まらなかった。
「やばい、風邪をひいたかな?」

書類整理や雑務をこなしたあと、
趣味程度の魔術研究をしたり、
オリービアへのサプライズ(贈り物に)
する為、お守りがわりの魔石や、
姉に聞いて、女性が好みそうな
アクセサリー作りにハマっていた。
寝不足…。寝るのを忘れたまま
アクセサリーを作っていると、
フッと香り高いコーヒーの香りと
美味しそうな匂いがしていた。
気がつけばミニテーブルには、
手で軽くつまめる小さくカットされた
サンドイッチや軽食があり、最近
俺の側仕え見習いになったという
男性が立っていた。
「ヴィル様、お邪魔してしまい申しわけ
ございません。」
「いや、いい香りがしたから……。」
すると、俺のお腹がなった。
「よろしければ、お召し上がり下さい。」
「ああ、ありがとう。」
礼をしながら下がろうとする、なぜか
男性に声をかけてしまった。
「見ない顔だけど、俺が怖くないの?」
「いいえ。私もある程度の魔力持ちで
ある方に助けていただいたおかげで
今がありますし……。」
うん?!
「確かに気配がほとんどしなかった。
コーヒーの香りで気づいたからね。
これ美味しいね。君が作ってくれたのかな?」
「はい。ご挨拶が遅れて申しわけございません。
先日、ヴィル様付きの執事見習いに
昇格しましたククルと申します。」
「見習い?確かに若そうだけど何歳だ?」
「もうすぐ16歳でございます。少し
遅い見習いですが、よろしくお願いします。」
「あ、あぁ、こちらこそ…よろしく。」

確かに見習いにしては、育ちすぎ感はあった。
この国では、使用人に子どもが出来たら
ほぼ同じ様な職に付き、幼少の頃から
親と同じような事をする。
ククル……。
執事の誰かの子ども?養子か?

誰もが訪問を拒む部屋だったヴィルの
部屋には、誰かが摘んでくれた
綺麗な名も知らない花が生けられたり
オリービアが遊びに来る事も増えた。

女性の使用人もたまに、見かけるようにも
なったが反応は、イマイチだ。
やはりまだ、怖がる者が多かった。

オリービアのおかげで、俺は魔力
コントロールもしやすく、細かな作業も
グングン上達する様になっていた。
今は大きな魔石に、物理、魔法防御、
状態異常自動回復など付与していた。

またしばらくすると、ククルが用意
してくれた軽食を食べ終えた位に、
来訪がある事を告げられた俺は、
大広間に向かっていた。

「愛しのわたくしのヴィル様ぁーー!!」
野太い声を久々に聞き、突進してきた
よく見知った相手を寸前でかわした。

相手は目標を失い、バランスをくずし
顔面からこけた。
見事な顔面こけのおかげで、
痛々しい。鼻血を垂らしながらの
満面の笑みは怖かった。

「相変わらず元気そうで良かったな。」
「いや~ん。イケズゥ。ちょっとくらい
久々の再開なんだから、あつ~い
抱擁とあつ~いキッス位、いいじゃなーい。」
はあ~。

「そちらの、顔だけは似ている落ち着いている
彼が弟君なのかな?」

「申し訳ございません。お初にお目見え
させていただき……。」
「ヴィル様~これ、私の可愛い双子の弟
シヴィー・カテドラルです。顔だけは
私に似て可愛いんだけど、少し固っ苦しい
性格で面白みに欠ける性格なのよ~。」

「シヴィー、性格まで兄のシヴァーディー
・カテドラルに似なくて良かったな。」
「はい。ありがたい事に似る事なく
育ちました。」
「もう、なんなのよ~。私に似た方が
楽しい生活、スリリングな生活できるわよ。」
「……。」
「安定した平凡な生活が一番しあわせなんだよ。
シヴァーディー兄さん。」
「シンディーよ。」
……まだ、その名前名乗っていたんだ。


騒がしい兄と落ち着いた弟が登城した翌日、
シヴァーディー・カテドラル28歳
正式にデルラン王国の魔術師として
王都に住む事になった。
双子の弟シヴィー・カテドラル 28歳は
無事に辺境伯が爵位継承された。
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