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帰城 1

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スール公爵邸の前に、馬車が二台
到着した。
それぞれの幻影を作り出した後
全員に認識阻害やシンディーが
かけている、存在を薄くする魔法を
強化、補助する魔法を使った。

魔力コントロールもすこぶる調子が良く
自分自身、このまま魔術師として
やっていけそうだと思うほど、
うまくいった。

俺、オリービア、スール公爵の妻の
3人と、長男と成人を迎えた次男と
シンディーの3人に
分かれて馬車に乗り込だ。

当然のようにシンディーは、この
分け方に文句を言っていたが
「嫌なら(馬車に)乗らなくていい。」
「えっ?じゃあ、私はヴィル様の
おそばに……。」
「短い付き合いだった。達者で暮らせよ。」
「きゃー、イヤ~ン、私を捨てないでぇ
私の王子様~。」
「……。」
「んっもぉ…わかったわよ。今回は大人しく
向こう側に乗るわよ。シンディーは、
王子様と乗りたかった。寂しい。」

馬車に乗り込んだ後、何だか疲れたのか
無意識にため息を付いてしまった。

「ふふっ。お疲れ様です。」
「あ、あぁ。すまない。」
スール公爵の妻がほほえんでいた。
オリービアが歳を重ねたらこんな感じに
なるんだろうか?

「あの~、ヴィル王子、私の顔に何か
ついてるんでしょうか?」
不安そうな顔で問いかけるスール公爵の妻を
俺は、つい見つめすぎていた。

「あ、ああ、すまない。オリービアは、
貴方に似たのですね。綺麗です。」
「あら。ふふっ、ありがとうございます。」

「魔術師様は、ヴィル王子が
本当に大好きなんですね。
私、あの方のあんな楽しそうで
穏やかな顔、初めてみましたわ。」
「いつも、あんな感じじゃないですか?」
「いいえ、いつもは辛そうで……。
毎日、思い詰めた表情をしていました。」
「……。」

毎日ただ働きの上、ごっそり魔力を
使うし、助けなきゃ下手したら
死んでしまう母子たち、立ち去るに
立ち去れなかったんだろうな。

「魔術師様は、私達を守りながら
毎日部屋に詰めてくれていて、
本当に助かりました。息子達にも、
本当に悪かったわー。」

城に着くまで、主にシンディーの事や
スール公爵がおかしくなってしまった
時期など話しながら、城に戻った。

オリービアを産んだ直後、物が
浮かんだり、ソファーやベッドまでが
浮かんだらしい。
それに対してスール公爵は、悪魔払いを
するとか言い出して、次々と魔術師や
怪しい者を家に引き込むように
なったらしい。
癇癪もちで、金払いも悪いスール公爵。
なんらかの、なんくせをつけては、
提示した給与を与えられたものは
いない。酷い時には、魔力を削るだけ
削り取られ、枯渇寸前状態で
放り出された者もいるらしく、
同情した妻や息子が介抱すると、
暴力を振るったりされたそうだ。

最初の高給に釣られる者は
たくさんいた。
犠牲者、恨みつらみがあの黒いモヤの
正体なのかはわからないが、
可能性はある。

弱っている者のとこへ矛先が
いっている。
なんとかせねばならない。
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