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二階の奥部屋

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シンディーに案内を頼んだ俺は、
なぜ、これほどまでに気になるのかが
自分自身わからなかった。

来る前から俺は早々にスーラ公爵邸を
立ち去るつもりだったはずなのに……。

スール公爵の、末娘に魔力を与えていた?
どういう事だ?

閑散となったパーティ会場には、
無表情の使用人が、後片付けを
しようと出てきたのか、俺と目が合い
慌てて頭を下げ、奥に引っこんで
しまった。

「まぁ~あの子ったら、照れちゃって。
あらら。私のヴィル様が素敵だから
仕方がないわね~。」
「違う…あれは怯えてるだけだろう。」

「違いますわ。私のヴィル様の素敵さに、
負けた結果ですわ。」
「その私のってやめてくれ。」
「あら?なんでです?」
「俺はお前…シンディーと付き合うつもりも
ましてや弟子も無理だ。」

「いや~ん、ひどいお方。こんなにも
わたくし、ヴィル様をお慕い
申してるのにぃ~。恋心は止められないわ。」
「ハア~。」

1階のパーティー会場から、2階への
階段を我が物顔で歩く、シンディー。
ここに来て、長いのか?
たまに会う使用人が、俺を見て怯えたあとに、
シンディーに頭を下げている。

「シンディー、君はここに来て長いのか?」
「う~ん、長いと言えば長いかも。
あれは、だいたい1年半ちょっとかなぁ?」
「1年半は、まあまあ長いなあ。」

「えぇ。そうね。あの頃はこの国に
来たばかりで内情を知らなかったけど、
デルラン王国で高給なお仕事が
あるってきいて、飛びついたのが、
ここなの。」
「高給?」

「そう、公爵様に"影が薄くなる魔法"を
毎日かけるのと、末娘を癒してくれっていう内容。」
「……。」

「癒しの力はあまり自信がなかったから、
一回目の仕事が終わった後に、
そう言うと、あのハゲ…。」
シンディーは、プルプル震えなが
怒りを我慢していた。

「高給を覆すような薄給しかくれなくて、
ムカついたから、公爵の頭がさらに
薄くなる魔法使いたくなったけど、
弱ってる、奥様とあの子たちを、
ほっとけなくてね~。」

「頭はもともと薄いし、時間の問題だから
放置したわ。そんなのに使う私の魔力が、
勿体なく感じたのよ。」
「……。」

「影が薄くなって、たまーに、
使用人にも気づかれなくて、
ぶつかられたり、踏まれたりしてる時も
あるくらい強~く、かけすぎた事も
あるけどねー。」
ずいぶん、うっぷんが溜まっているらしい。

「まっ、使用人にも魔法かけているから、
誰に当たられたとか、踏んづけれたかとか
わからないから、怒って顔を真っ赤にしている
スール公爵の顔、面白かったわよ。」
シンディーは、してやったぜっという
表情で笑っていた。

「…それは、すごいな…。」

話していたら、いつのまにか二階の
奥の部屋に着いていた。
壁には、無数の大小の穴が空いていた。

「暴発か?」
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