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34、レイラとテルとオレオール

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6日ぶりに目覚めたレイラはテルに
べったりくっついて、文字通り離れなかった。
「レイラ、テル君から離れなさい。
さあ、お父さんの所においで。」
「いや~!!」
レイラちゃんは可愛い、可愛いのだが
オレオールさんのお兄さんであり
レイラちゃんのお父さんである
フェニーチェさんになぜか睨まれてしまった。
オレオールさんはオレオールさんで
俺に睨んでくるフェニーチェさんに
威嚇(いかく)するし、なんだか疲れてしまった。

日本にいた頃の俺は人との関わりは
最低限にしていたし、親には捨てられ
親戚からも嫌われていた俺はほぼ1人だった。
1日1食、多くて2食だった俺は
お腹はすくし、いつ死んでもいいと思ってた。
だけど一人はさみしいと思った事も
あったが、今なんだか無性に1人の
時間が欲しいと思ってしまうのは
贅沢な事なのかな?
それにしても一歳半の女の子の
ぎゅっ!ぎゅー!と握りしめてくる力は、
地味に痛いものがある。これは、自分の腕に
新たなアザがまた出来そうだと思った。

「レイラ!はしたない事はやめなさい。
こう見えてテル"君"は男の子なんだぞ。
淑女たるもの家族以外の男の子に
べたべたしたりそんなにも…ぺったり
くっついたらダメなんだぞ!!
くっつくならお父さんにくっつきなさい!!」
「まぁ、あなたったら…ふふっ。レイラはまだ
一歳半ですよ。それにテルさんは、
男の子ではなくちゃんと成人した"子"
なんですからね。」
あ、あのぉ次期公爵様と次期公爵夫人様?
2人ともどっちもどっちです。
ちゃんと成人してますし、俺は21歳の
立派な大人の男性です。こう見えてとか、
男の子とか成人した"子"の子に、
子どもという意味が含んでませんでしたか?
俺が不服そうにしてると
「テルは可愛いからな、あきらめろ。」
「そう、にぃにぃかわいいのっ!」
オレオールさんとレイラちゃんに言われ
2人からぎゅーっとされてしまった。
「マリー、なんだかオレオールと
テル君と私たちの可愛いレイラが
親子に見えてしまうんだが
変な魔法…そう、そうだあれは幻覚だ
幻覚が見えてるだけなんだよな。」
「あらあら、あなたったら。ふふっ
レイラとテルちゃんの髪の色と目の色
似てますもんねぇ。」
21歳のテル、1歳半のレイラ親子でも
おかしくない年齢だと思った時、
テルはオレオールの年齢を知らない事に
気づいてしまった。
テルは、オレオールが記憶を取り戻してから
すぐに呼び捨てにしてほしいと言われたものの
呼び捨てと"さん"付けが混合した状態だった。
いまだになれないものの、頑張って
オレオールを呼び捨てにしたテルは
「あ、あの~、今更ながらオレオール…って
何歳なの?そして、お仕事って何?」
「「「「「えっ?」」」」」
その場に居た者はもちろん、オレオール本人も
驚いてしまった。
「私はテルに自分の仕事も年齢も
伝えてなかったのか……。」
「ご、ごめんなさい。」
「いや、テルが謝ることではない。私が
伝えてなかったから私が悪いんだ。
すまない。年は26で赤の騎士団に所属している。
今は、魔物討伐がメインの仕事だが
町や村での揉め事など介入する時もある。」
「うわぁ、人が相手だと魔物より疲れそうだね。」
「ふっ、確かにそうかもしれない。
テルはすごいなあ。」
「ニィニィしゅごい、しゅごい。」
「……えっ?何が?」
「レイラァァ!!お父さんもすごいんだぞ!!
お父さんにも、"しゅごい"って可愛い
レイラに褒められたいぃぃ。」
「あらあら。」
また、フェニーチェさんに睨まれてしまった。
そしてオレオールもフェニーチェを
威嚇していた。

テルは知らなかったが、レイラちゃんが
生まれた時と今では髪の色と目の色が
黒く変化してしまったそうだ。
あと、闇属性の事や魔力が高すぎる事、
闇属性の者は国に保護される事とか色々、
聞かされてしまったのだった。
それに関して、話した後に他の者に
話そうとすると沈黙の魔法が
かかるという契約書を書く羽目になったのだ。
ある意味、オアイコなのか?
俺の回復薬の誓約書には、薬を
誰が作ったとか効能の事などに関して
話せないようになるというか、話そうとすると
沈黙どころか、回復薬の事そのものの事の
記憶が無くなる事が記されていた。
すごい高度な魔法が組み込まれた
(ドワーフ族マルチダお母さんが作った)
契約書らしく、レイラちゃんは
まだ文字が書けないが、代筆で
フェニーチェさんとマリーさんが
レイラちゃんの名を書き、針でチクッとした
その血を契約書に落としたのだった。

ここ数日、オレオールさんとレイラちゃんが
俺にべったりくっついているのだが、
お風呂やトイレまで入ってくる始末だった。
お風呂まではまだいいものの、
*テルはマモノのお店ハキダメ、その他
オネェ様がたと一緒に、ドワーフ族の
洞窟内の露天風呂に入っているので、
ある意味他の人と一緒にお風呂に
入ることは慣れていた。
さすがにトイレは恥ずかしいのでドアごしに
服のスソを掴む程度にしてもらっていた。

      ***

フェニーチェとマリー、レイラの両親は
悩んでいた。
闇属性と高い魔力を持つレイラは
ドゥペールが好意で作ってくれた
魔道具だけでは対応しきれない域に
達していたのだった。
高い魔力よる魔力過多、自分の意志で
魔力放出出来ない事、テルと相性が
いい事など……。
「テル君に、レイラを…いや、まだ早すぎる。
嫁には出したくない。21歳と1歳半
年齢差はあるが、貴族社会なら
年齢差は当たり前だが……レイラ…
レイラは可愛いし、まだ…嫁には…
婿養子なら……ぐぬぬぬっ……。」
5歳の魔法属性と魔力測定までに
なんとかせねばレイラは、テル君どころか
国にとられてしまう。
コンコン

               ***

*オレオールとテルとレイラ

フェニーチェ兄上は、レイラの
闇属性をなくす事は出来ないのかと
以前から色々調べている様だった。
見かけは元気そうに振る舞っているが
あからさまに態度もおかしな所が多々あった。
フェニーチェ兄上とマリー義姉上との子どもに
長男であるテオドール4歳半がいるが
レイラとは真逆の性格で子どもの割には
素直で大人しすぎる子どもだった。
レイラを嫌ってるわけではないだろうが
目が合うだけで避けようとするし
皆での食事も早く食べようと思っているのか
口いっぱいに詰め込み、咳き込んだりしていた。
自室では、ゆっくりお茶やマナーや勉強など
4歳半にしては優秀だと先生たちから
高評価だった。
ところがレイラだけではなくテルに対しても
怯(おび)える様子を見せ始めたのだった。
さすがに何かあると思いはじめ、考えてみると
あの日、フェニーチェ兄上に
話をしようと思った内容だった。

"相性の良い属性または、同じ属性同士なら
魔力の譲渡、交換が出来る場合がある。"
"危険が伴うので、緊急の場合を除き
成人である15歳以上推奨。"
学生時代に習ったごく当たり前こと。
学生時代は成人前だったので、実技はなく
サラッとなぞる程度の知識、
"テル"とレイラは同じ属性を
持っているのか?!という疑問だった。
「テルは闇属性を持ってるのか?」
「うん。聖、闇、火、水、地 あと
なんだったかな?一通りの生活魔法
は使えるし、他の魔法は微弱って
マルチダお母さん…あっ、ドワーフ族の
族長が教えてくれたんだ。
テディーさんとフレディーさんも
魔法の使い方教えてくれるんだけど
攻撃魔法はニガテで、薬草や鉱石掘りの時
防御魔法や回復魔法、あとは
補助、支援かな。この前、召喚魔法で
もぐらに似た可愛い召喚獣も友達になったし、
空間魔法使える友達も召喚したんだ。」
「……テル、君は…。」
テルはオレオールに気をゆるしていたので
自分の属性やスキルなど言わないようにする
っという、マルチダお母さんとの約束を
すっぽり忘れていたのだ。
「召喚魔法まで使えるのか。」
「うん、もぐらに似たモグちゃんは
ココ地面じゃないから可哀想だから
呼べないけど、くーちゃんなら
大丈夫だけどくーちゃんを紹介するね。」
「にぃにぃすごい!!」
「くーちゃん?召喚獣なのか?」
「ん~、くーちゃんは人型にも
可愛いねこの姿にもなれるんだよ。」

【主(ぬし)我を呼んだか?】
「あっ、くーちゃん久しぶり。ちょうど
呼ぼうと思ったんだけど、忙しくなかった?」
【クックク、主(ぬし)は優しいの。まあ
忙しいといえば忙しいが、他にもあるから
大丈夫だ。】
「そうなんだ、でも、無理しないでね。」
ちゃんとした召喚の仕方で呼ぼうと
思ったテルだったが、ちょうど暇していた
くーちゃんが名前を呼ばれたことに
嬉しくて勝手に出てきたのだった。
【主(ぬし)は"モグ"は何度も呼ぶのに
我は初めての召喚以降、ちっとも呼ばんとは
どういう事だ?】
「だって、くーちゃん忙しいとか、暇がない
とか言ってたから、さみしいからって
呼ぶのはちょっと…と思ってたんだ。
ごめんね、くーちゃん」
【さみしいなら、我を呼べ。】
「ありがとうくーちゃん。」
【ふっ。】
テルは知らなかった。
くーちゃんがオレオールに軽い
威圧を使ったのを……。
「……。」
レイラは目の前のキレイな中性的な
顔立ちの召喚された者に言葉を失っていた。
【ほぉ~。主(ぬし)の周りには我と同類の
者がちらほらいるな。なかなか面白い。】
「同類?くーちゃんと同じ召喚獣?」
【なっ!!召喚獣だと!!】
突然、ドアップに迫ってきたくーちゃんに
驚き、テルとテルにしがみついていた
レイラは倒れそうになり、その2人を
オレオールは支えたのだった。

【主(ぬし)よ、我は主に真名(マナ)を
教えて対等になったのはわかるか?】
「うん、あの時も今もくーちゃんは可愛いね。」
【ふふふっ、我の事"可愛い"と言ってくれたのは
主が初めてだったし、気にいったのだ。】
「ありがとうくーちゃん。」
【ふははは、主はおおものじゃな。】
「……?」
*テルは気づいていなかった。
召喚魔法を使い召喚されるのは
召喚"獣"だけではない事を。
テルは、2回目の召喚魔法の"練習"で
精霊王である"ユグドラシル"を召喚したのだった。
『黒髪に、同じ黒い目?』
『…は、初めまして精霊王様。』
『こんにちは、精霊王様。』
「「!!!」」
「せ、精霊王?くーちゃん???」
【なんじゃ?主は気付いておらんかったのか?
我の真名まで教えて契約したのに、ふふっ。
主は、面白いなぁ。】
『面白い!』
『可愛い。』
『楽しそー。』
『つけて、つけて!』
「えっ?」
ふわふわと、精霊王のくーちゃんより
透き通った白と黒、青と緑、そして赤い色の
手のひらサイズのお人形のように
可愛い子がよってきた。
【テルよ、その子らにも名を付けてやると
喜ぶぞ。緑のは、まだ幼いが気にいったのか?】
『……。』
無言でうんうんと頷いていた。
話が進んでいると、冷静になった
オレオールが口をはさんだ。
「精霊王様、私オレオール・ノア・ハーフン   
と申します。こちらのレイラの叔父に
あたります。レイラはまだ1歳半と幼く
重大な決断、契約となりますので
レイラの父母を交えての話し合いを
希望したいのですが、よろしいでしょうか?」   
【ふむー、まあ、人族ではそうなんだろうが
この"緑"のがそちらの人族を気に入り、
そちらの人族がこの"緑"を気に入れば
契約成立、立場は対等なんだがな。
親は関係ない、と言いたいが、レイラとやら
そちはどうしたいんだ?】
「……。」
レイラはテルとオレオール、そして
緑色にキラキラ光る子を見つめて頷いた。
「お名前、おとーしゃんとおかーしゃんと
考えりゅ。」
にっこり微笑んだのだった。
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