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9、サウレの町長ヒビーキ様

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「わぁ~、お宿初めてだぁ。」
小さなチアキのつぶやきは
クロード達の心をえぐった。
「「「「「……っ!!」」」」」
「……チ、チアキ。」
「……クッ。」
「チアキちゃん……。」
「……苦労したのね。」
「こんなことなら大きな町の
高級宿に行けばよかった。」
いや……。
な、なんで泣いてるんだよ。
ど、同情されてるのか?
日本にいた頃は旅行で宿どころか
ホテルも泊まったことあるけどなぁ?
たぶん?あれ?
また、何か忘れた気がする。
"異世界"では初めてって
意味だったんだけど……。
日本とここ。
あれ?
とりあえずさっき呟いた言葉
今更取り消し…できそうにないなぁ。
チアキはこっそりため息をついた。

討伐隊の全ての人数は入らないので
それぞれ細かく分かれ民家や
小さな町の広場にテントを張ったりした。

この町の町長がそこそこのやり手で
初心者冒険者にも優しい町なのだ。
町の名は"サウレ"。
町長の名前はヒビーキ・レムサウレ。
あれ?日本人っぽい?
ヒビーキ、ひびき、響き……。
クロード様は何度かこの町に来ているので
町長のヒビーキ様とは顔見知りだそうだ。
青い髪が印象的な人だった。
なんでも兄弟でダンジョンにも
潜ってたCランクの冒険者であり、
ドロップアイテムを"家宝"として
大切にしているそうだ。
見せてもらった家宝はな、なんと
バイオリン、しかもスケスケ。
スケスケのバイオリンで
弾いてもらったら落ち着く曲から
童謡や子守唄まであった。
弾いてもらっている間、不思議なことに
小雨が降っていた。
なんでもこのレアドロップ品、
"潤い"が備わっているらしい。
子守り歌になったとたん俺は
なぜか寝てしまったらしいが
かなり強力な神具だと思った。
お昼ご飯あとだったし、
お昼寝時間だったとも言えるが
クロード様たちも眠くなったから
町長のヒビーキ様は慌てて
演奏をやめたらしい。

年々大きくなっていてそのうち
町から街、大都市になりそうだ。
小さいながらギルドや孤児院を兼ねた
教会もある。
色々な種族も集まるからか
この教会の壁にはさまざまな
模様が描かれていた。
「えっ?まんじ、トリイ、じゅうじか……。」
チアキは教会を見て、クロード様には
通じない言葉を呟きながら驚いていた。
そう、壁には日本でお馴染みの
お寺のマーク、神社を表す鳥居
そして教会を示す十字架が
描かれていたのだった。
祭壇には鏡っぽい像、木彫りの
仏像っぽい像、動物や人を象った像、
石を削ったお地蔵様に似た像……。
白いヒラヒラがついた大幣(おおぬさ)?
お祓いなどの時に神主様や巫女様が
ふさふさぁーとしてくれるアレだ。
木魚っぽいのや、大きな鈴?
ちーんって鳴らすリンっていうのもあった。
チアキはツッコミを入れたがった。
なんでもありかよ!
この町のお宿のそう祖母さん
影響力ありすぎ!!

あっ、お宿の夫婦は町長のヒビーキ様の
両親で、本館と新館、そしてもう一軒は
ヒビーキ様の妹が経営しているそうだ。
だけど、俺が見た女性って…皆。
うおぉぉ~。落ち着こう!!
鼻から吸って口から吐く、深呼吸深呼吸。
『……混乱・修正・統合・再起動……ザザッ…ピピッ……ピーッ。』

んっ~んっ?よしっ?!
教会のツッコミだ。
たしかに八百万の神様がいる
日本のように……いやいやいや、
日本でもこんなにも多くの神様を
しかも色々な神様をぎゅっと
一箇所に寄せ集めてはいない。
ここはお蕎麦で有名なアノ県なのか?
ずーっと10月なのか?
わかる人はわかって貰える、
ビミョーなツッコミをしたチアキだった。
この教会、異世界だからか宗教観まるっと
無視した総合的な場所だった。

ヒビーキ町長のそう祖父母の代は
まだ小さな村だったそうだ。
町長のそう祖母が珍しい色を持っていた。
黒にほぼ近い濃い茶色の髪と瞳だったそうだ。
小柄な人で村のそばに傷だらけで
倒れていたところを助けたらしい。
やがて結婚し家族ができた。
……帰れなかったの?
『………修正中…ピーッ。』
彼女の魔力もかなりあったらしいが
隠していたそうだ。
魔力もちは、貴族や王族が囲い込むからだ。
町の門にあるゴーレムもその一つ、
彼女が作った物だった。
彼女が亡くなった後も、子どもたちの為
少ない魔力でも起動するゴーレムが
2体置かれていた。
一見かわいい犬にもみえるが
クロードたちには何の生き物か
わからなかったらしいもの。
「狛犬(こまいぬ)?!」
町に入る前、チアキがうっかり
つぶやいていたのを聞いて
クロード様とキオーナさんの
片眉がピクッとしていた。
その狛犬型のゴーレムが俺の住んでいた
国にも、似た様な物があった事を
伝えたのだった。
「彼女とチアキは、同じ国なのか?」
「………。」
クロード様の小さなつぶやきを
聞こえないフリをしてしまった。

クロード様が率いるメンバーは
メロリラさん、キオーナさん
ルーシンさん、カルパネさんで
昨日のメンバーだった。
宿に着くと小さな子ども連れだからか
宿の主人が気を使ったのか
ひと組のお客を昨年新設した
すぐ隣の宿に移したのだった。
料金もサービスすると言う粋な計らいで
移動する冒険者たちも、にこやかに
チアキに手を振りながら新設された
宿に移動して行った。
悪いなぁと思いながらもクロード様たちは
感謝とご好意に甘えた。
2階の奥部屋3部屋だった。
向かいっ側と階段を挟んだ反対側は
他の冒険者だった。
クロード様で1部屋。
メロリラさんとキオーナさんで1部屋、
ルーシンさんとカルパネさんで1部屋。
チアキが泊まる部屋の熾烈な
戦いがまた、始まろうとしていたので
今度もあみだくじにした。
「な、なぜだ!!俺とチアキで
同じ部屋でいいじゃないか!!」
くじ運悪いクロード様はうなだれた。
「独り占めはダメよ!!」
というクロード様以外のメンバー。
どこでもいいよ、という
チアキの意見は通らなかった。

「クソォ~。あんなとこに
線を入れなければ俺たちが
チアキちゃんを抱きしめて寝れたのにぃ!!」
「うふふ!!天は私たちに味方を
してくれたのね。」
「ふふっ。」
チアキはメロリラさんとキオーナさんの
部屋で過ごす事になった。
翌日はルーシンさんとカルパネさん、
3日目にやっとクロード様の予定だ。
部屋はシングルベッド2台と
小さなテーブルだけのシンプルなお宿。
宿に頼めば暖かいお湯を有料で
用意してくれるそうだ。
そうそう、この世界では
お風呂は一般的ではない。
貴族や王族には専用のお風呂があるが
一般的には水浴びをしたり
お水を温め濡らした布で身体を
拭く程度だった。
「おふりょ(風呂)はにゃいんだね……。」
ポツリと呟いたチアキの言葉に
メロリラさんたちはアイコンタクトをとった。
「あのお大きさなら、いけそうよね。」
「そうね。」
討伐隊の魔法の鞄に入れていた
トレントの木や小枝。
小出しで売る予定だったらしいが
木や土属性のキオーナさんと
鉱石を扱えるカルパネさんの合作で
深めのタライ風呂を作ってくれたのだった。
クロード様たちにとっては浅めなのか?
日本で言うなら五右衛門風呂?のような壺湯。
「クロード様、ここにお水入れて。」
メロリラさんはリーダーである
クロード様をこき使っていた。
いいのかな?
「チアキすぐにお風呂入れるからな、
待ってろよ。」
「クロード様は、3日後よ!!」
メロリラさんの言葉に、クロード様の
手から魔法で水と、目や鼻からも
ナニかが出ていた。
クロード様は水を色々なところから
出しながらチラチラとチアキに
視線を送っていた。
そこそこイケメンのはずのクロード様、
顔から出る水分……。
お風呂に、余計な物は入れないでね?!
とチアキに思われてるとは
クロード様は知らなかった。
それどころか、出来上がったお風呂に
水をたっぷり入れた事を
褒めてほしそうにしていた。
その後、メローリラさんの炎の魔法で
ほどよい熱さのお風呂となったのだ。

クロード様たちは、お風呂が完成したとたん
部屋から追い出された。
出された後も外から、鼻をすする音が
聞こえていた。

"クロード様、リーダーだよね?"
"本当にいいのかな?"
クロードたちが出ていった扉を
チアキはしばらく見つめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでくださるお優しい皆様がたへ
作者より○○を込めて♪

とある音楽ライバー、
プロのバイオリニスト
ヒビキ様♪
お名前とスケスケのバイオリン♪
確か電子バイオリンのエレキなんちゃららぁぁ……。
チューナー?とか音が変化するとか
(機械音痴と色々音痴で不器用な私に)
説明ありがとうございます。
幅広い音域、音の種類、すごいです。
お名前とスケスケのバイオリン
使用させていただき、熱く、厚く、
めっちゃ、あつく、御礼申し上げます。
すんごく助かります。
ありがとうございます。

お名前使ってもいいよ、っていう
心お優しい方、声かけお願いします。
歴代作品でずっと使わせて頂いている
おっちゃんや本物の和尚さん、
いつもありがとうございます。
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