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13、公爵様の生活

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* リアム・ノア・クロート目線*


マリ・クロサワ、彼女が来てから私の生活に楽しみが出来た。
朝4時過ぎ彼女は目覚める。
身支度が終わり彼女たちの食事が終わり、私を起こしに来るまでが長く感じる。
私と食事を一緒にとってもいいのに、彼女はマシューとメアリーたちとキッチンで仲良く食べている。
私はいつも1人だ。
彼女がくるまでは当たり前だったのに、なぜかひどく
味気なく感じてしまう。
食事内容は特に変わりないことはない?いや、明らかに変わったかも知れない。
まず第一にパンの大きさが変わった。
大きなパンがいくつかカゴに盛り付けられていたのだが、小ぶりなパンや少し甘みがあるパンなどが増えたのだった。スープの具材や、サラダなども若干小さめのに切られており、私が小さい時こんな感じの食事だった気がすると思った。
彼女が食べやすい大きさなのか?!
まあ、喜んで食べてるらしいが報告だけで、どう喜んで食べてるのか見てみたいものだと思った。

彼女が起きてからは、部屋にある洗面器に水を入れる音、顔を洗う音、身支度をしているのか衣擦れの音などが聞こえてくる。
同じ空間に彼女がいる事に、なぜか心が温かくなる気がした。
たまに、パシッと音がするが気合い入れで手を叩いているのかと思いきや、やわらかそうな頬が赤くなっていた事があった。
彼女はなんと、気合い入れの為自分で自分の頬をパチっとたたいてるそうだ。
気合いが入るのだろうか?彼女の前で試しにしてみたが、痛いだけで気合いどころか、驚いた表情の後、彼女に笑われてしまった。
輝くような可愛い笑顔に痛みも惹き、なぜか私の頬も緩んでしまったようだ。
「公爵様、イケメン!!」
と言って頬を抑える事をしているが、視線だけはしっかり感じる。
"イケメン"の意味はわからないまま数日過ごしたが、思い切って聞いてみたら、驚く結果だった。
「イケメンの意味ですか?公爵様のような人に対して使う言葉ですね。」
「私に対して?」
「はい、あっ、マシューさんやメアリーさんからこの世界…あっ、この国の事や信じれない美醜の事聞きましたが、私のいた所とはまったく違った感覚ですよ。」
「確かマリは、ニホンという国から来たと言ったな。」
「はい、日本でもですが、私が住んでいたところでは日本だけじゃなく、外国でも容貌(ようぼう)や容姿ともに美しい人やかっこいい男のことをイケメンって言ってました。イケメンに当てはまるのが、格好いい人、美しい人、背が高い人、周りの人をかばうことができるとか、外見だけではなく内面的にもかっこいい人、つまり公爵様の様な人をイケメン、イケてる人、イケてる顔なのです!!!」
小さな手を硬く握りしめ天井に向け拳を振り上げた彼女の力説に、思わず笑ってしまった。
彼女がいたニホンとやらでは、私はかっこいい人で"イケメン"らしい。
私にとっては住みやすい場所なのかもしれない。
いつか行ってみたいと思った。
まあ、無理だろうな。
彼女の言葉は私の心にいつも染み込み癒してくれた。
同情や慰めの言葉ではなく、本当の事を言ってくれている様にしか思えなかった。
彼女の言葉が私をどれだけ助けられているか彼女は知らないが、もう彼女なしでは私自身がもたないかもしれない。
彼女は元いた国に戻りたいのだろうか?
だが、帰って欲しくない。
すまないが、もう手放せない存在だ。
この感情の名前はわからないが、マシューやメアリーに対する感情とは違う気がする。
ニホン、ニホン人だという彼女。
この国にある本やその他を調べても、彼女がいう"ニホン"という国や、その他の外国だという国々もここでは見つからないどころか存在していない。
もしや古い村などか?と思い古い地図や文献も調べたがやはりない。
それどころか、古い文献にこの世界とはまったく異なる世界があり、私たちとは異なる衣服、食べ物、生活習慣をおくる人族がいると記されている書物を発見した。この書物、あったのか?と思えるほどの位置、普段読まない書物ばかりを集めた部屋の入り口辺りにあった。
古びた紙に、見た事がない文字、文字なのかというほど柔らかな線と模様の様な物もあった。
それらを訳すような古代文字。
書き手がふた通り、模様の様な書き手と古代文字の書き手。
なんとか読めるが、言い回しがやはり難しく所々わからなかった。
自室に持ち込み、時間の空いた時に読もうと思った。
異世界……。
彼女もたまに言葉につまったり、すぐに訂正しているが"この世界"という時折言葉を使う時があるが、まさか本当に……彼女は異世界から私のそばに来てくれた神の使いなのか?

荒れ地だったこの公爵領、公爵邸周りだけは立派だがまだまだ建物や農地などは少ない。
たった3年でそこそこの生活は出来てきたが、私の様な立場の者は相変わらず迫害され、生まれたばかりの子は殺されているのが現実だ。
色が薄いというだけで殺される者たちを助けたい。
私は王族だったから生かされただけ。
だが色なしである私がいくら働きかけても同族を助け慰め合うだけだと思われるだけだ。
現にこの公爵邸の8割は"色なし"だ。

コンコン

深夜に響くノック音。
私は就寝したと見せかけマリの仕事を終えさせたはずの時間。
マリの仕事は私の目覚め前から就寝時間までの長時間だ。マリが来てから、早寝早起きを心がけている。
マリが寝てから残った仕事をしているのだが、マリに関する報告もこの時間にしている。
「旦那様、お休みのところ申し訳ございません。」
「いや、本来なら起きてる時間だ。」
マシューがにっこり笑っている。
意味深な笑いとともに、紅茶ではなくハーブティーをいれてくれた。
マリがここに来てから約2ヶ月だが、出会いはお互い最悪だった。
私への刺客をまた送ってきたのかと思った。
しかも子どもを使い油断させる気だと思った。
ベンチに寝転ぶ不審者。
見た事のない、服の作り。
どれもこれも油断させる為だと思った。
だが、地面に押さえつけ手足を拘束をしたが、ほぼ無抵抗なのが気になった。
どんな顔なのか見た瞬間、私は魅了にかかったのかもしれない。
黒、神に愛された色。
私がどれほど望んでも叶わない色を髪の毛だけでなく、目の色まで、さらに眉毛やまつ毛まで黒だった。
染めた色ではありえない色。
部屋に連れて身ぐるみを剥いだあと、私の行動は……。
下生えまで見事な黒。
柔らかな身体、痩せ細っているのに、ほのかに色づいた頂きに柔らかな胸。
もし、あのままなら完全に彼女を襲ってしまっただろう。
まともに触れた初めての女性の身体。
離せない。離したくない。
刺客だとしても、自分のそばにいて欲しいと思った。
刺客なら、いう事をきかせるための手段はいくらでもある。
だが、彼女は刺客では無さそうだった。
身ぐるみ剥がした服を学友であるパレル・ユニ・マムーラにも、見せた。
私の知らない地域で、この生地を作っているのかも知れないと思ったから。
答えは、この国どころかこの世界にはない素材だそうだ。ズボンの生地は作る事が可能らしいが、染料も独特で、色を出すのも難しいらしい。
パレルはマムーラ侯爵の三男であり服職デザイナーのオーナー。
クロート公爵領で最初の一号店があり、王都に支店がいくつかある人気のお店。
名前もそのまま"パレルのお店"。
侯爵家の両親に仕事を反対されているが、色なしの私に対しても嫌な顔せず、斬新なデザインから昔ながらのデザインだが華やかなイメージもある服を作るとのことで、服に無頓着な私は全てお任せで、私の服を作ってもらっている。
不思議な雰囲気を持つ独特の世界観を持つ彼に、私だけでなく、使用人全員の服もフルオーダー、お任せしている。
役職による制服も彼の提案だった。
頑張っている使用人たちには仕事に使う制服以外に、一年に数回、それぞれが希望する服をパレスに作ってもらっている。
給料以外の支給におおむね好評だそうで、パレルも弟子をとることが出来るらしく、瞬く間に店や弟子もふえたそうだ。
パレルの兄や弟は宰相と文官で、侯爵も引退したものの元宰相であり前侯爵である。
私が手を貸したから店が大きくなったとの事で、色なしのくせにと私の事を恨んでるらしい。
今更、人気店のオーナー兼デザイナーに国の文官になれと言ってもならないだろう。
あいつは少々変わり者で、少しマリの感覚に似ているところもある。
見た目はゴツくてどう見てもたくましい男性なのに、花柄のワンピースを着たり女性が使う言葉、女性以上にくねくねしたり、やたらとオーバーアクション、ハグをよくしてくる。
中身が女性なのだろう。
言動がきめこまやかで理想の相手?っぽいが、私にとってはどう見ても友達にしか見えない。
彼も私のことは、友達と思っている。
見た目が怖いから、客相手にワザとこの話し方をしたら商売が上手くいく事が増えたらしい。
この口調や身なりが好きなコアな客もいるそうだ。
私にとっては未知の世界だと思った。
パレルの言動をマリがしてくれたら……。
うグッ!!
マシューマシューマシューマシューマシューマシューマシューマシューマシューマシューマシューマシュー
危うく危ない世界にイきそうになった。
顔は可愛いマリなのにカラダが、ゴツいパレル。
ゴフッ!!

マリの採寸時も、なぜヒラヒラがやたらと多いのに脇腹や背中が大胆に出ているワンピース?を着て我が公爵邸に訪れた。
チラ見してしまったパレルの膝の筋肉もすごいんだと思った。
会うたび筋肉増えてないか?
私も身体を鍛えてるのだが、服飾系の仕事は体力しごとなのか?!
マシューやメアリーはもう慣れたか諦めたのか、一瞬驚いたもののそれなりの対応をしていたが、マリはなぜかパレルのしゃべり方をそのまま受け入れていた。
その上パレルの格好の事に何も触れないどころか、
以前からの友人のような仲良さだった。
マシューがいれたお茶やお茶菓子の話、最近の流行りの物の話まで短時間で私より仲良くなっている姿に、なぜかモヤモヤ?イライラしてしまった。
「この色素敵ですねー。」とか、「このデザインはパレルさんなら着こなせるけど、私には着こせないです。」「こちらの服のような、公爵様の瞳の様な綺麗な色が好きです。」
好きです。好きです。好きです。好きです。
何度も私の頭で繰り返されたのだった。
何を言われたんだ?私は?
彼女が選んだのが私の醜い瞳の色。
水色の服だ。
しかも"好き"って!!
私の色をまとう意味をわかってるのか?!と問いたくなった。
パレルは、意味深どころかニヤニヤ笑い、わざわざ私に、この色で仕立ててもいいか確認してきた。
彼女を見ると、何かを気にしたのか「す、すみません。お給料入り次第お返しします。」となぜか、頭を下げてきたのだ。
慌てて、「これらは必要経費で、使用人全員にも支給しているから支払いは私がする!!」
と言ったら、メアリーも彼女にフォローしてくれた。
ホッとしたのか、彼女は可愛い顔で何度も「ありがとうございます。公爵様は使用人に優しくてかっこいいですね!!」と言ってきた。
優しくてかっこいい?
この私が?
そんな事言う者は、彼女以外いなかったぞ。
彼女はもしや、目が悪いのか?

「銀色も入れといてやる!」っとなぜか嬉しそうに言ってきたパレルに、「彼女は、相手の色を身につける意味は知らないはずだからやめろ!!」とコソコソと部屋のすみに連れて行き…言いたかった。
だが、淡いこの色が好きと言った彼女は、水色をベースに勧められるがまま、下着から服まで作る事になった。
既製服にも、なぜ水色や淡い色があるのかわからないが、濃い色を彼女は選ばなかった。
数々のトルソーにある淡い色の服、水色系の服、まるで自分が選ばれた気がした。
錯覚(さっかく)や幻想、私はもうあの日から彼女の神からのギフト、魅了にかかったままなのだろう。
お風呂での事件も、私が放ってしまったアレを口に含んだあと、甘くて花の香りがすると言っていた。
彼女からも、確かに甘い香りがする。
口移しの際夢中になってしまったし……。
まさか、本当に私たちは番(つがい)なのかもしれない。
彼女を離したくないからか、仕事をしたいと言った彼女に私の世話役を申しつけた。
部屋は他にもたくさんあるにも関わらず、私の部屋の空き部屋に急遽(きゅうきょ)部屋を作った。
少し手狭だが、水場やお風呂場も特別に私の部屋の物を使っていいことにした。
他の使用人がマリの裸を見るのが嫌だった。
彼女の服、私服は水色系で所々さりげなく銀色が入っている。
メイド服にも、メアリーと同じ形なのに色が完全に水色、胸元に小ぶりな銀色のリボンまである。
メアリーの時は気にならなかったのに、マリのはややスカート丈短くないか?
これでは他の男に見られてしまう。
襲われる。
女性というだけでも危ないのに、小柄な身体に黒髪に黒い瞳の彼女は"この世界"では異質だった。
愛され要素しかない彼女。
まだ、人に対して怖いのかビクビクする態度も守ってあげたいとしか思えない。
私の世話役は建前で、生活場所の意味なども他の使用人にはわかっているはずだ。
本来、私の妻になる人の部屋を与えているのだ。
一つの扉で区切られた場所。
私の広すぎるベット。
お風呂場や水回りも共同の夫婦部屋。
私はもう、彼女なしでは……。
まだ、この公爵邸に来てから日が浅いがそろそろ積極的に行動を起こすべき、だろうか?

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