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2、見知らぬ者

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*リアム・ノア・クロート目線

仕事が思いのほか早く片付き、夕刻ではあったが久しぶりに庭に出てみた。
庭師が整えた名も知らない花がちらほら咲く季節。
草花に興味はないが、荒れ地だったこの場所にこれだけの青々とした緑が復活した時には皆に感謝しかなかった。
少しずつ暖かくなり、剣を振っていると花の香りが強くなった気がした。
こんな小さな花から香りがするのか?
それとも向こう側に新しい何かを植えたのか?
庭の奥にシンプルなベンチをいくつか置いてあるうちの一つに頭巾?フードを被った小さな者がいた。
誰だ?
なぜここに入れた?!
顔はベンチの背もたれの方を向いていた。
気配を消し近づいた。
甘い花の香りがした。
なんの香りだ?もしや、毒系の香り……刺客か?!
口元を抑えながら、足早に近づいた。
「何者だ?!」
「……。」
「さっさと答えろ!!女子どもだとしても容赦はしないぞ!!」
首あたりに剣を当てた。
小さな子どもだろうが刺客は刺客。
「頭巾をかぶるあやしいやつ、動くな!!」
手足をほぼ無抵抗で拘束した。
違和感を感じたが、手慣れた刺客かもしれない。
油断は禁物だ。
「殺されるの?」 
!!!
「……お前次第だ。何が目的だ?」
思わず息をのんでしまった。
魅力的な黒い瞳に、子ども独特の高い声。
目を見てしまったから魅了されてしまったかもしれない。魅了の解き方を思い出しながら、とりあえず目をそらし、深呼吸……。
花の香り!!
深呼吸もダメだ!!
落ち着け、落ち着くんだ。
魅了に花の香りの毒?!
まだまだ死ねない。
落ち着け。
この子の言葉を思い出した。
"殺されるの?"
任務に失敗したということか?
何かの任務……これだけ幼いなら初仕事なのか?
「夢?ここはどこ?私は……(眠い)死ぬ……。」
死ぬな!!
「……仕事。」
仕事?やはり仕事で失敗したのか?
私を殺しにきたのか?
意識を失った刺客を抱き上げたその時、頭巾がずれ髪が見えた。
サラサラとした黒髪。
「美しい。」
もう魅了にかかってしまったのだろう。

この国、クロート王国では髪や目の色が濃ければ濃いほどいいとされている。
身体的に小柄な者が好まれ美人とか美形とされている。
兄は藍色の髪に青い瞳、華奢で小柄な身体。
色的にも濃く小柄で魔力も多く美形。
それに対して私は身長も高く、髪の色や目の色も淡いい色。
10歳を過ぎた辺りから身長はグングン伸び始めたと同時に、兄と私の派閥争いが激しくなった。
色素は薄いが魔力は同等か少し私の方が、魔力コントロールなどが上手く出せた。
王になるつもりはなかったので、この国の騎士として兄の臣下となる為身体を鍛えた。
騎士団は、栄養ある仕事だが華奢(きゃしゃ)で小柄が美しいとされている事から、かけ離れた存在。
だが、なくてはならない仕事。
身体が大きく筋肉質は当たり前の騎士団。
嫌われ者の集団。
魔物の討伐あとは血や汗の匂いなどでかなり汚れているので、臭い。
見た目の体格だけでも嫌われているのに、そこに臭いまで加わるのだから更に嫌われるのは当たり前。
騎士団が必要だとわかってはいても、よほどの変わり者かお金に困ってる者、兄弟が多い者が仕方がなく就く仕事。
それなりに給料もよく、寮もあり食事もつくから生活に困った者などが騎士見習いとして雇われる場合もある。
そんな騎士団のトップであり、公爵である私が、この小柄で神聖な黒をまとう方に触れてしまった。
しかも刃物を向けながら威圧的に……。
嫌われた!!
怯(おび)えさせてしまった。
髪の短い"少年"の愛らしさに私はもうやられてしまった。
服に付いている見た事がない形状の服。
ボタンもないが、分厚く丈夫なのに柔らかい布地。
ズボンは少し硬めだがしっかりとした生地。
どちらも何の素材かわわからない。
ましてや靴の素材もわからない。
特殊な魔物の皮なのか?紐で結ぶタイプだが、靴を脱がした時靴の軽さに驚いた。
付与付きの靴?
もしや高位貴族?
使用人に湯を用意させた。
生活魔法で綺麗にする事が出来るが、武器を隠し持ってるかもしれないと言い聞かせ身体検査だと自分を納得させた。
「旦那様、代わります。」
家令のマシューは、滅多に表情を崩さないのだが、手足を拘束した怪しい者を私が抱えてるのを見て怪訝(けげん)な表現を一瞬だけ浮かべた。
マシューの申し出を断り、夜着でもいいから飾り気が少ない服を準備させた。
なぜ、あの時、"夜着"でもいいと言ってしまったのだろうか!
後悔する事となった。

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