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16、おっチャン、何かを忘れる

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俺たちは注目を浴びていた。
なぜなら、オスカルお兄様と
ハロルドさんになぜかお姫様抱っこ
された俺が食堂に現れたからである。

食堂奥にある、広めのキッチン。
広さで言えば、コンビニ2つ分。
広いと思ったら、そうでもない。
ちょっとむさ苦し……ゴホッゴホッ。
デカイ、ゴツい、イカツイ、毛深い、
決っして獣人族ではないらしい、
騎士団を引退した元騎士団の、料理長を
筆頭に、現、騎士団メンバーのシフト制
料理当番を入れて、約20人の
むさ苦し……。身体の大きな、たくましく、
えーっと、なんだっけ?
そういう男性が、料理長の指示で、
ちまちま、ちまちま、料理の盛りつけや、
何かを焼いたり、何かを切ったりしていた。

「ジャガー料理長これでいいすっか?」
「ばかもん、もうちょっと丁寧に、
皮を剥け。食材がもったいないじゃろ。」
「ジャガー料理長、このくらいの量で
いいですか?」
「それじゃあ、足りんじゃろ。その隣のは、
多すぎじゃ。へちらせ。」
「ジャガー料理長、こっちもお願いします。」
「おー、まっちょれ。今行く。」

「「「……。」」」
「い、忙しそうですね。」
「あぁ、忙しそうだ。」
「食事時間の、2時間前だというのに……。」
「人手不足というか、使えないものばかり
寄越しやがって……って怒ってたけど
ハロルド団長、あれは、酷いですね。」
「ああ、ジャガー様が怒るのも無理ないな。」
「出直しましょうか?」
「そうだな。」
「……。」
「ナオキ、昼過ぎにまた来ような。」
「は、はい。」
俺はハロルドさんに抱っこされたまま
オスカルお兄様も食堂の入り口を
出ようとした時じゃった…じゃなく、だった。

「おお、団長に軍師どおしたんじゃ?
おかず、足りんかったか?」
「あ、いえ…。」
あれ?2人ともひいてる?
「おっ、かわい子連れてなんじゃ?
こちらはにゃんこちゃんの手を借りたいほど
忙しいし、使えんやつばかりじゃから、
てんてこまいじゃ、用件を手短にな。」
「す、すみません、ジャガー様、
スキマ時間でよろしいので、この者に
キッチンスペースをお借りできないかと
思いまして、お願いしにきました。」
やっぱり、ハロルドさん、ジャガーさんを
様って言ってるし、すごい人?なんだよね?

「あぁ?こんな細っこいまだ……!!
あっ、料理出来るなら手伝ってくれたら
うれしいが、お主できるんだじゃな?」
「い、一応、たぶん…。自炊した経験も
あるから……。」
「ナオキ、苦労したんだな。ハロルド
お兄ちゃまが、面倒みてあげるから、
うーんと、甘えていいぞ。」
「ぐっ……。」
ぎゅーと締め付けられ、息が絶えそうに
なった時、助けてくれたのがオスカル
お兄さ……までは、なかった。

がんっ。
「ウッ。」
フ、フライパン……。
そ、それ、凶器になりますし、ハロルドさん
俺を抱っこしたままだったから、
至近距離の攻撃に、正直、恐ろしかった
ナオキであった。

「だ、大丈夫?ハ、ハロルドさん?
お、お兄ちゃん?」
ガバッと起き上がるハロルドさん。
急激な浮遊感に、思わずしがみ付いてしまった。

「お兄ちゃまを心配してくれてるんだな。
ナオキ、かわいいぞ。多少、頭は痛すぎるが
お兄ちゃまは大丈夫だぞ。あはは。」
「……。」
「じゃあ、もう一発くらわしちゃろか?」
「ジャガー侯爵、もうその辺で…。」
ギロって、睨んでるよ。ジャガーこうしゃく。
エッ?こうしゃくってあの、こうしゃく?
どっちのこうしゃく?公爵、侯爵?
「どっち?オスカルお兄様?」
「あ、あ、ごめん、あとでね。」
オスカルお兄様は、居心地悪そうに
ジャガー料理長に睨まれていた。

     ***

「そこの木箱、ほら、そこに並べてやれ。」
「ほら、それじゃあダメだ。」
「あっ、団長と軍師もう少しまっちょれ。」
数分もしないまま、キッチンスペースを
空けてくれたジャガー料理長。
床には木箱が並んでいて、背の低い
俺が料理出来る高さになっていた。
「手伝いは必要か?あんたの国、異国の
料理作ってもらおうじゃないか?」
ニカッと、迫力満点に笑う毛深い
ジャガー料理長。

なんか忘れているが、ナオキは
何の料理を作ろうか思考を巡らしていた。

ハロルド団長、赤い炎獅子。
彼の赤い竜がはく炎で敵を蹴散らし
焼き尽くす事が多く、人々からは
嫌煙、怖がられている人物。
オスカル軍師、女性と見間違うくらいの
美形。冷静、沈着、優雅な彼と
同じく、笑顔をほぼ見せたことの無い
団長に抱かれた、双黒のナオキ。
食堂は、ある意味カオスになっていた。
"団長が、子どもを抱え笑っている。"
"軍師が、微笑んだ。"
"双黒の少年は何者か?"
保護された兎人族の女性も、それを
偶然、目撃したのだった。

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