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運命の二人

5-3 最悪の乱入者(前編)

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 突如として発生した強大な魔力を感じ取った幸夫達と喰魔。
 それからほんの少しだけ前のこと。

「ふぅー、これでやって来た喰魔イーター達は全部倒したわね」

 辺りを見渡しながらそう呟く愛笑。
 愛笑が率いるB班は深奥部へと繋がる通路の途中にある開けた場所でやって来た喰魔達を足止め、殲滅する任務についていた。
 そしてたった今、百体を超える喰魔達を殲滅したのだった。

「軽傷者は多いみたいだけど、重傷者は誰も居ないみたいね」

 辺りを見渡し、状況を確認した愛笑。
 喰魔は一体も居らず、死者や重傷者は見当たらなかった。
 あれだけの混戦でこれだけの被害で終わったことに愛笑は小さく笑顔を浮かべる。

 しかし、もしものことを考えて負傷者に対しての指示とこれからの行動について指示を飛ばす。

「怪我を負った人は可能な限り治療をしてください! 何かあれば追って指示を出しますので、それまで動ける人は辺りを警戒しつつ今のうちに休息を取ってください!」

『はい!』

 愛笑の指示に隊員達は大きな声で返事をすると、言われた通りに各々で休息を取り始める。
 緊張感が張り詰めた刺すような空気感から、疲労感が漂う淀んだ空気へと一気に変わった。
 しかし、その淀んだ空気の中にも張り詰めた緊張感が残っていた。

 それもそのはず。隊員のほとんどが周囲への警戒を解いてはいない。
 喰魔を退けたからといって場所は異界ボイドのまま。
 嫌な空気と魔力が漂う場所で安心など隊員達にはできなかった。

「ふぅー」

「お疲れさま、春」

「ああ、耀もお疲れさま」

 春がほんの少し緊張を解くと、そこへ耀が剣を鞘へと収めながら労いの言葉を掛ける。
 耀の声に春は安心感を覚え、笑顔で同じように労いの言葉を掛けた。
 そして、耀は春の全身を見るように頭から足へ、足から頭へ視線を動かした。

「怪我は………無さそうだね」

「ああ。耀の方こそ怪我は無い?」

「私も無いよ。まあ、爆風の砂やら煤やらで凄く汚れちゃったけど」

 そう言う耀は確かに砂と煤で酷く汚れていた。
 しかし、それは耀だけに限った話ではなく、この場に居る隊員全員がそうであった。

「それはここの全員がそうだろ」

「フフッ、確かに」

 クスクスと小さく笑う二人。
 異界の世界、それも戦いの直後とは思えないほどに幸せそうな空気を漂わせる中、十六夜と篝の二人がそこへ合流する。
 そして、二人の楽しげに話す姿から大した怪我はしていないだろうと十六夜は判断した。

「その様子だと二人とも大した怪我は無いみたいだな」

「ああ。二人の方こそ怪我は無いか?」

「どこか痛むなら私が回復しようか?」

「大丈夫よ。私達も怪我は無いわ」

「なら良かった」

 十六夜と篝の二人も砂や煤で汚れ、疲労感が漂ってはいるが怪我をしている感じはしない。
 二人の様子からなんとなく分かってはいたが、改めて篝の口からそう告げられたことで耀は安堵する。
 そこへ他の隊員が耀の元へと近づいて行き、声を掛ける。

「白銀さん、少しいいかな?」

「はい? 何でしょうか?」

「実は右腕を怪我しちゃってさ。出来れば回復魔法を掛けて欲しいんだけど」

 そう言うと隊員は右腕を耀に見えるように前へ突き出す。
 その右腕には巨大な獣の爪で引っ掻かれたような、四本の大きな引っ掻き傷があった。
 血こそ止まっているが見るからに痛そうであり、大きな怪我であることに間違いは無かった。

「はい。いいですよ」

「ありがとう! 助かるよ」

 耀が首を縦に振って治療を了承すると隊員は笑顔でお礼を言う。
 そして、耀は差し出された右腕に両手を翳し、白い光を放つことで回復魔法を掛けていく。
 ほどなくして、隊員の腕の傷は完全に無くなっていた。

「おお! ありがとう白銀さん」

「いえいえ、これくらいならお安い御用です」

 隊員が腕の傷を治しってもらったことで、改めてお礼を述べる。
 すると、耀の治療の様子を見ていた他の隊員達も耀へと近づいてきた。

「白銀さん、私も治療してもらっていいかな?」

「白銀さん、僕もいいかな?」

「俺も俺も!」

「白銀さん! 俺もお願い!」

 次々に隊員達が耀へと集まっていく。
 純粋に治療をお願いする人も居るのだが、中には美少女である耀と話したいという下心を持った者達もちらほら見えた。

「え、え!? え!!?」

 いきなり集まって来た隊員達に困惑する耀。
 そして、耀に群がる隊員達を篝が呆れた目で見ていた。

「あれ、絶対に治療目的じゃない人も混じってるわよ」

「だろうな。まあ、白銀は美少女だし、男ならお近づきになりたいって思っても不思議じゃないだろ」

「まったく、耀にはもう春君が居ることを知ってるでしょうに。ねえ? 春く―――」

 春に同意を求めようと名前を呼びながら春の方へ顔を向ける篝。
 しかし、途中で名前を呼ぶのが止まり、ギョッとした表情で固まってしまう。
 篝の視線の先に居たのは耀に群がる隊員達のことをゴミを見るような目で見つめ、殺意すら感じるほどの黒いオーラを放つ春であった。

「…………………」

 何も言わず、ただただ冷え切った目で隊員達を見る春。
 そんな春に対して篝は僅かに距離を取り、反対側に居る十六夜へ助けを求めるように話しかけた。

「十六夜君十六夜君」

「無理」

「即答!?」

「というか嫌だ。確実に面倒くさいことになる」

 篝の助けを求める声を即座に断る十六夜。
 人をいじるのが大好きな十六夜ではあるが、今の春に関わるのは愉悦よりも面倒くさいが勝っていた。

 そして、春はとうとう堪忍袋の緒が切れたのか早歩きで耀の元へと向かい、耀と隊員達の間に割って入った。

「は、春」

 耀は割って入って来た春に驚くも、助かったと安堵の表情を浮かべる。
 一方で騒いでいた隊員達はというと、彼氏である春の乱入に顔が青ざめていた。
 春は耀と隊員達の間に立つと、隊員達に向けてかつてないほど爽やかな笑顔を向ける。
 しかし、こんな状況での爽やかな笑顔は不気味であり、春が放つ威圧感がさらに隊員達の恐怖を煽った。

「皆さん、そんな風に詰め寄られると耀が困ってしまうのでちゃんと並んでください。それと、耀の魔力にも限界があるので掠り傷などの軽傷は我慢してください。いいですか?」

『は、はい………』

 丁寧に隊員達へと話しかける春。
 しかし、その声には隠し切れない怒りを感じ、隊員達は先程までの騒がしさが嘘のように小さな声で返事をする。
 おとなしくなった隊員達だったが、春の隊員達へのお話はまだ終わっていない。

「それと、今はまだ任務中ですのでそのように騒ぐのはどうかと思います」

『はい。仰る通りです………』

 隊員達の返事に元気が無い。
 大人達が年下、しかも中学二年生の春から説教を受けるのは中々にこたえていた。
 完全に意気消沈とした大人達。
 そこへ、春がトドメの言葉を告げる。

「あと一番伝えたいのは、耀は俺の『彼女』なので手を出したら冗談抜きでブラック魔弾ブレット叩き込むからそのつもりで」

『すいませんでしたっ!!!』

 彼女の部分を強調し、耀へとちょっかいを出そうとする隊員達を強く脅す春。
 その脅しに下心を持っていた一部の隊員達がしっかりと頭を下げ、大声で謝罪するのだった。
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