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運命の二人
4-8 喜多愛笑の実力(後編)
しおりを挟む獅子顔の喰魔が愛笑に気圧され、一歩後ずさったそのとき。
愛笑は地面から感じる魔力と地面が僅かに割れたことでその場から急いで跳び退いた。
「ギャアアア!」
地面を突き破って現れる鳥型喰魔。
愛笑が元々いた位置を素早く通過し、空へと上がっていく。
気づかずに愛笑が立っていれば間違いなく体を貫いていた事だろう。
愛笑はキッと空を見上げ、回転しながら空を飛んでいる喰魔を睨む。
「その回転と硬い嘴による貫通力は凄いよ。私の魔法とも相性悪いみたい」
喰魔の火球を防いだ岩の壁を一枚だけだったとはいえ、鳥型喰魔はそれを貫いた。
火球よりも派手さや範囲は小規模だが、鳥型喰魔は単純な攻撃力と貫通力は火球を大きく上回っていた。
「でも―――!」
自分の魔法と相性の悪い相手。
それでも、愛笑の口元は余裕を示すように笑っていた。
そして、再び鳥型喰魔に向かって手を翳すと岩の槍を作り出し、即座に放った。
「ギエエエエ!」
鳥型の喰魔は回転を止め、四枚の翼を羽ばたかせて空を舞う。
飛来する岩の槍を躱し、再び愛笑に狙いを定めると魔法で回転して急降下していく。
急降下しながら岩の槍も砕いていくその様は愛笑との相性の差をさまざまと見せつける。
それでも、愛笑の笑みが崩れることは無かった。
「あなたが私の岩を砕けるのはその硬い嘴と回転のおかげ。だから―――」
愛笑はバッと両手を大きく広げる。
すると、鳥型の喰魔の周囲を囲うように岩の群集が現れる。
そして、開いた両手から見える鳥型喰魔を叩き潰すように両手を勢いよく合わせた。
「岩石の極握!」
パンッという乾いた音が響く。
それに合わせて、鳥型喰魔を囲っていた無数の岩が喰魔を中心に集まり始めた。
鳥型喰魔は降下しながら軌道を少し変えることで飛来する岩を避けようとする。
それにより幾つかの岩を避けることはできたが、すぐに岩の数に対処が追いつかなくなり左側部に被弾した。
「グギャ!」
被弾した岩で回転が止まり、苦悶の声を上げる鳥型喰魔。
残りの岩も全て鳥型喰魔へと被弾し、喰魔の姿が密集していく岩の陰へと消えていく。
「岩を砕けるのは嘴がある正面だけ。側面からや多方面から一斉に飛来する岩は砕けないし、回転してる間の動きは直線的になる。それがあなたの弱点」
「グギャアアア――――――」
やがて喰魔が完全に岩に覆われ、球状の岩石の集合体になる。
そして、聞こえていた悲鳴も聞こえなくなった。
愛笑はそれを確認するとグッと握り合わせた両手に力を込める。
その動作に合わせて、喰魔を封じ込めた岩の球のサイズが一瞬にして一回り収縮した。
そして、宙に浮いていた岩の球が地面へと落ちる。
愛笑が両手を離すと、岩の球も力が抜けたようにバラバラとその形が崩れた。
その崩れた岩からは喰魔だったであろう霧が漂い、空気へと溶けていった。
「グルゥ………!」
自分と同じBランク喰魔があっさりとやられてしまい、愛笑に対して完全に怯えてしまった獅子顔の喰魔。
悲鳴を上げるように喉を鳴らし、足を一歩後ろへと下げる。
そんな喰魔に愛笑は鋭い視線を向けた。
「次はあなたの番だよ」
「グルッ………!?」
喰魔がはっきりと愛笑の言葉を理解したわけではない。
しかし、その眼光が示すものは分かっていた。
次は自分がやられるのだと。
「グルルアアアア!」
威嚇するように雄たけびを上げ、無数の火球を連続して撃ち出す喰魔。
そこに落ち着きは無く、ただひたすらに愛笑に向かって火球を乱射していた。
自棄になった喰魔の火球を愛笑は地面から隆起させた岩の壁で防いだ。
「グルアアアアアア!」
火球がダメだと判断すると喰魔は両手を地面に叩きつける。
その様子を壁を消して見ていた愛笑はこれまでの経験と魔力感知から即座に足元を見る。
すると、足元は熱を帯びていくように赤く染まっていく。
それを見た愛笑は表情を少し険しくさせると即座に右に向かって走り出した。
そして、その直後に愛笑の立っていた場所に炎が噴き上がり、火柱を作り上げていた。
「グルウウ………!」
躱されたことに苛立ち、焦りが表情に表れる。
喰魔はその苛立ちと焦りをぶつけるように愛笑の足元へ火柱を出現させ続けた。
しかし、ときに進路を変えながら複雑に走り続ける愛笑に狙いを定めることが出来ず、その魔法は悉く躱されてしまっていた。
そして、喰魔の周囲を走り続けるだけだった愛笑が突如としてその進路を喰魔へと変えた。
「グギャッ!?」
突然のことに驚く喰魔だったが、すぐに愛笑への攻撃に全意識を集中させる。
先ほどの火柱に加え、少量ではあるが火球も同時に放ち始めた。
それでも愛笑の足は止まらない。
飛来する火球は避けるか魔法で相殺し、噴き上がる火柱はその間を縫うように進んでいく。
その動きと対応力に喰魔は怯えるように目を見開く。
愛笑は喰魔の猛攻を潜り抜け、その懐に潜り込んだ。
「ッ!?」
懐にまで接近されたことに面食らう喰魔。
その視界に映る愛笑は右手で拳を作り、腕を大きく後ろへと引いていた。
そして、握りしめた右拳に岩を纏わせ、本来の拳よりも二回りほど大きな岩の拳を作り出した。
「岩石の拳!」
「ガフッ」
愛笑は渾身の力を込め、岩の拳をアッパーのように喰魔の腹に叩き込む。
その威力に喰魔は体をくの字に曲げ、口から息を吐き出した。
しかし、愛笑の攻撃はまだ終わっていなかった。
「はあああああああっっ!」
岩の拳にさらに力を込め、大きく喰魔の腹にめり込ませる。
そして、岩の拳をロケットパンチのように自身の腕から分離し、射出した。
「ガッ………!」
岩の拳によって喰魔は上空へと打ち上げられる。
そして、体勢が整えられない状態で宙へと四肢を投げ出して浮いていた。
宙に打ち上げた喰魔へ愛笑は再び狙いを定める。
右手を高く頭上へ翳すと、宙に浮く喰魔の上に喰魔よりも大きな岩の槌が同時に形成された。
愛笑は翳した右手で拳を作り、その拳を地面に打ち下ろすように振り下ろした。
「岩石の鉄槌!」
そして、振り下ろされた愛笑の拳と連動するように岩の槌が喰魔へと振り下ろされた。
「ガッ………!!!」
巨大な岩の槌を喰魔は真正面から叩きつけられる。その威力に喰魔の顔と体は大きな歪みを見せる。
そして、岩の槌は愛笑の拳と同じ速度で地面へと落ちていき、喰魔を岩の地面へと叩き潰した。
槌が地面へと落ちるとドンッという大きな音が洞窟内で響き、土煙を上げて大きく地面を揺らす。
爆風に近い強い風が巻き起こった。
「んん゛………!」
吹き荒れる風と共に舞う砂に思わず春は目を瞑る。
周りに居る耀達も同じように目を瞑っていた。
やがて風が止むと、四人はゆっくりと目を開ける。
そして、土煙が晴れたその先に見えたのは、大きく陥没した地面に倒れるBランク喰魔が消滅していく光景であった。
「………凄い」
呆然と消えゆく喰魔と愛笑の横顔を見つめる春。
胸中を埋め尽くす驚きと尊敬を思わず言葉にする。
自分とは比較にならないほどの魔法規模と威力。
冷静な状況判断に、先ほどの火柱と火球を避けながら捌く技量と身体能力。
全てにおいて格が違っていた。
「これがBランク隊員の実力………」
改めて実感させられるBランクの実力に春は自分の非力さを再認識する。
Cランク隊員達の戦いを見たとき以上の悔しさと憧れを抱いていた。
それと同時に気になることが一つ。
これだけの強さを誇る愛笑よりもさらに強いとされる、Aランク隊員達の実力であった。
春は愛笑やAランク隊員の幸夫や恵介と手合わせをしたことはある。
しかし、春と三人では実力には大きな差があり、その真の実力を見ることはできなかった。
今日、春は初めて愛笑の実力をしっかりと目の当たりにした。
だからこそ、気になるのはAランク隊員達の実力。
(一体どれだけの強さなんだ………)
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