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運命の二人

4-1 春のお姉ちゃん

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 春、耀、十六夜、篝の四人が異界での任務を終えてから四日が経った。
 防衛隊員に多数の負傷者と殉職者が出たことは世間に知れ渡っており、テレビのニュースや新聞、ネット記事などで大きく取り上げられる事態になっている。
 その影響は春達にも及んでいた。
 家や学校ではそのことでみんなから心配され、事件の詳細が知りたい者から質問攻めに遭う。
 支部の前には時折、マスコミが取材のために待ち伏せしていることもあった。

 しかし、今回の事件については調査中であり、箝口令が敷かれている。
 よって春達が答えられることは何もなく、家や学校はそれとなくやり過ごし、マスコミについては素通りや会釈程度で対応。
 そんな四日間が続いた。

 そして現在、春達は星導市支部の講堂のような大きな会議室に隊服を着て集まっていた。
 会議室の前方には巨大なスクリーンがあり、室内の構造は大学の教室のような造りになっていた。
 会議室には春達の他にも多くの隊員が集まっており、席に座って話している者達と席には座らずに複数人で話す者達の二つに分かれていた。
 春達は後者であり、会議室の後ろの壁際に立って集まっていた。

「結構な人が集まってるな」

「ざっと百人くらいか? 派出所や他の支部からも人が来てるな」

 春が会議室に集まっている人数に驚く中、十六夜は見慣れない顔が多いことから星導市支部所属ではない隊員が集まっていることを推察する。

「それだけの人数を集めるような事態となると………」

「間違いなくこの間の事だよね」

 耀の言葉に四日前の異界での出来事が三人の脳裏に蘇る。
 喰魔の群れによる待ち伏せ、喰魔から感じる何者かの魔力、突如として進化した二体のCランク喰魔。
 そして、その二体の喰魔との死闘。
 その記憶に自然と四人の表情が険しいものへと変わる。
 近寄りがたい威圧感を四人が放つ中、その空気に臆さず近づく者が居た。

「やっほー、みんな」

 明るく可愛らしい女性の声が四人に掛けられる。
 耀は知らない声に心の中で首を傾げながらゆっくりと振り返るが、春達三人は慣れ親しんだ声に普通にその声の方へ顔を向ける。

「なんか凄い威圧感出してるね」

 四人に声を掛けた主であろう女性。
 隊服は春と十六夜と同じ基本の型で、黒い隊服に黄緑色で刺繍を施していた。
 長い黒髪を頭の後ろで纏めてポニーテールにし、顔は全体的に可愛らしい。
 特筆すべきはその身長であり、一六九センチという女性にしては高い背丈が美しさを演出し、可愛らしさと美しさの二つを両立させていた。

 見覚えのない女性に耀は小さく首を傾げてしまう。

(誰?)

 耀が首を傾げる中、他の三人、特に春は女性を見ると険しい表情から一転して明るい表情を見せた。

「姉ちゃん! 帰ってきてたんだ」

「姉ちゃんって………!」

 春が駆け寄りながら驚いたように女性に話しかけたとき、耀は春の女性の呼び方に数日前の会話を思い出す。
 春に告白されたあの帰り道で、春が秘密を話した人物の一人として名前を挙げていた。

(この人が喜多支部長の孫で、春のお姉さん………みたいな人)

 耀はそのことを思い出し、まじまじと女性のことを見つめてしまう。
 そして、改めてその容姿の良さを認識し、キラキラとしたオーラを幻視していた。
 女性はというと、春の方を向きながら笑顔で話しかけていた。

「うん、つい昨日帰って来たんだ! そ・れ・で―――」

 その女性は春の方から耀へと視線を向け、キランッとその瞳を輝かせる。
 耀は突如として向けられた視線に驚き、びくりと肩を震わせた。
 そして、女性は耀へと詰め寄ると嬉々とした表情で話しかけた。

「君が春の彼女かぁー! 聞いてた以上の可愛らしさだね! あ! 私、喜多愛笑まなみ! よろしくね!」

「し、白銀耀です。よろしくお願いします」

 愛笑の圧にたじろぐも、春のお姉さんが相手という緊張感からしっかりと頭を下げて挨拶する耀。
 その姿に愛笑は感心したように目を見開いた。

「うん、よろしくね! にしても、こんなに礼儀正しくて可愛い子が春の彼女かぁー。なんか信じられないなぁー」

「姉ちゃん!? それどういう意味!?」

「ゴメンゴメン。なんか実感が湧かなくて、つい………」

「ついって………」

 手を合わせて謝る愛笑に春は若干呆れる。
 そんな二人のやり取りに耀は目を点にさせて眺める。
 呆然と二人を眺める耀の様子を不思議に思った篝は声を掛けた。

「どうかしたの耀?」

「………なんか、あんなに子供っぽい春、初めて見たなって」

 春は十六夜や篝と話すときにも若干子供っぽくなることはある。
 しかし、今はいつにも増して幼く見える。
 そして、篝は子供っぽい春と聞いて悲し気に表情を曇らせた。

「………そうね。血の繋がりこそ無いけれど、春君にとって愛笑さんは本当のお姉さんみたいな人だもの。両親が亡くなって、祖父母の他に唯一子供っぽくなれる相手なんじゃないかしら」

 小学三年生のとき、両親を亡くした春。
 そんな春にとって物心がつく前から遊んでくれていた愛笑は、間違いなく祖父母の他に遠慮なく甘えることができる相手だった。
 悲し気なのにどこか羨ましそうに話す篝の姿に十六夜は少し表情を暗くさせる。
 そして、春と愛笑を見つめる耀の瞳にも悲しみの色が宿った。

「………そっか」

 自分の家族は健在だ。両親を目の前で殺された春の気持ちを間違っても分かるなどとは言えない。
 しかし、家族が死ぬことを想像するだけで、強い恐怖と悲しみが襲ってくる。
 実際にそれを体験した春は本当に辛かっただろう。
 だからこそ、今目の前で子供のような無邪気さを見せる春が本当に幸せなんだろうと耀は思った。

(私には、あんな風には笑ってくれないんだろうな)

 幼いころから一緒に居る姉のような存在だからこそ、見せることのできる子供っぽさ。
 例えこれから死ぬまで一緒に居たとしても、春はあのようには接してくれないことを耀は悟る。
 春が自分以外の女性に対し、自分には見せない姿を見せる。
 そのことが耀にはたまらなく悔しく、羨ましかった。

(嫌なヤツだなー、私。こんなこと思っちゃうなんて………)

 そして、そんなことを思う自分に対して嫌悪感を抱く。
 春が幸せそうにしているのは嬉しい。
 けど、それが自分以外の女性なのは嫌。
 そして、そんなことを思う自分に嫌気が差す。

 そんな複雑な感情が胸中に渦巻く。
 胸の苦しさを抑えるように胸元に右手を持っていき、拳を作ると強く胸を押さえつけた。

 そんな耀の様子の変化に気づく十六夜と篝。
 最初は何事かと首を傾げるが、耀の視線の先に居る春と愛笑を見てその理由を大雑把にだが察する。
 篝はことことなだけにどんな言葉を掛ければいいのか分からずあたふたし、十六夜はやれやれと言いたげな表情で耀を眺めていた。

「アー、キズツイタナーオレー」

「わざとらしいなー。………ん?」

 明らかに棒読みな話し方とニヤついた口元に、愛笑は春が百パーセントふざけていることを察する。
 そんな春のふざけた喋り方に愛笑は小さく笑って言葉を返した。
 そんなとき、自分に向けられる奇妙な視線に愛笑は気づく。
 視線の気配を追うと、耀が複雑な表情で自分を見ていることに気が付いた。

(あー、なるほどね)

 耀のその表情の理由を察するのに、そう時間は掛からなかった。

(いやー、愛されてるなー春)

 大切な弟がここまで愛されていることに悪い気はせず、自然と頬を綻ばせる。
 そして、ゆっくり且つ軽快な足取りで耀へと歩いていく。
 愛笑の行動に春は首を傾げ、耀は笑顔を浮かべたまま徐々に近づいて来る愛笑に気圧されていた。

「な、何ですか………?」

 ほんの少し後ずさる耀に愛笑は優しい笑顔で一言告げる。

「私、春のことったりなんてしないよ」

「っ!」

 その一言に耀は驚き、固まったように動かなくなる。
 愛笑はその表情を見ると輝くような笑顔を浮かべた。

「フフッ、可愛いね耀は!」

 そのとき、耀は悟った。
 あ、私この人に勝てない気がする―――と。

 耀がそう悟る中、愛笑は笑顔で春を奪わない理由を述べ始める。

「私にとって春は弟みたいなものだし、そういう対象としてはそもそも見てないからね」

「なんだろう。嬉しいはずなのになんかムカつく」

「まあまあ」

 いつの間にか十六夜と篝の側に立っていた春。
 弟として思ってくれていることは嬉しいのだが、男として見てないという発言には魅力が無いと言われているようで少し腹が立つ。
 冗談半分にそう述べる春を篝が宥めていた。
 そんなやり取りがされる中、愛笑は耀に一番伝えたかった春を奪わない理由を述べる。

「それに私、“好きな人”が居るから」

「え! そうなんですか!?」

 好きな人が居る。
 知り合って間もないとはいえ、春の姉とも呼べる存在の人にそんな相手が居るのならば気にならないわけがない。
 それに加えて愛笑はとても美人であり、そんな人が想いを寄せる相手というのが耀の興味に拍車をかけていた。

 愛笑は話に食いついてくれた耀の反応に目を輝かせる。
 そして、両頬に手を当てて照れながらも嬉しそうに話し始めた。

「そうなのー! その人の名前は月島恵介つきしまけいすけって言うんだけど、背も高くて凛々しくて、すっごくカッコいいんだー! ちょっと冷たいところがあるんだけど、本当は凄く優しくて熱血なところが本当に素敵なのー! あとあと―――」

 激しい勢いで饒舌に自身の想い人について語り始める愛笑。
 その勢いに耀は目を点にして戸惑いを見せていた。
 一方、それを見ていた春達三人は何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

「始まったか」

「ああなると止まらないからな。姉ちゃん」

「久々にあの話を聞き返してくれる人が現れたものだから、尚更激しいわね」

 三人もこの話は耳に胼胝たこができるほど聞かされており、それゆえの微妙な表情であった。
 どうでもいい話なら一蹴するだけでいいのだが、好きな人の話で相手も無下にできない愛笑ということもあり、三人はこの話が始まると黙って聞き続けることになる。
 ゆえに、三人が耀に助け舟を出すことはよっぽどのことがない限り不可能だった。

「それでね!」

「お前達」

 そのとき、男性の落ち着いた声が響く。
 その声が聞こえた方へと全員が振り向こうとしたとき、その声にいち早く反応したのは愛笑であった。
 饒舌な語りを途中で止め、即座に目を輝かせて声の主へと駆けて行った。

「もうすぐ会議が―――」

「恵介さーーーん!」

「うお!」

 声の主である男性に勢いよく抱き着く愛笑。
 その勢いは凄まじく、ドンッという衝撃音が小さくではあるが聞こえてくるほどであった。
 その男性は飛び掛かって来た愛笑とその衝撃に驚く。
 しかし、倒れることなく愛笑を受け止めたのは凄いと言えるだろう。

 男性は目線を下げて自身へと抱き着いてきた愛笑を見る。
 すると、目を鋭くさせて愛笑の左肩と頭を掴むと強引に引き剥がそうとした。

「喜多! お前はまた性懲りもなく………!」

「いいじゃないですか! 私と恵介さんの仲なんですからー!」

「貴様とそんな仲になった覚えは無い! 離れろ!」

 恵介と呼ばれる男性は強い口調で離れるように言うが、愛笑はそれに従う様子は一切見せない。
 恵介が力づくで引き剥がそうとしても離れず、それどころかその行為を愛笑は嬉々として受け入れていた。

「えへへー、けーいすけさーん!」

「はーなーれーろー!」

「………えっと」

 そんな二人に対し、耀は再び目を点にする。
 その様子を見た春、十六夜、篝の三人はクスリと小さく笑った。

「ま、初見じゃそうなるわな」

「私達には見慣れた光景だけどね」

「え? そうなの?」

「ああ。姉ちゃん普段はどこか落ち着きがある感じがするんだけど、月島さんの事とああなるんだよなー」

 春達三人にはこの光景は見慣れたものであり、特に動じることはない。
 それは周囲の隊員達も同じであり、動じている者はほとんどいない。
 ざわつくのは見慣れない顔ぶれの隊員ばかりなので、派出所や別の支部の隊員と察する。
 そして、耀はこれまでの会話と愛笑の行動で一つのことに気が付く。

「月島………ってことはやっぱり」

「そう。あの人が姉ちゃんが好きな月島恵介・・・・さんだよ」

 短めの青い髪に、一八〇以上はあるだろう高身長。
 四角い黒縁くろぶち眼鏡とその奥の鋭い目つきの中で輝く水色の瞳。
 隊服は基本の型で刺繍は十六夜と同じく青色で施されている。
 そして、さきほど愛笑が語っていたように顔は整っており、間違いなくイケメンと呼ばれる人たちに分類されるだろう。
 醸し出す雰囲気も見た目も普通の人より大人びているように感じる。

「ちなみに、二人とも星導市支部所属の隊員で月島さんはAランク。姉ちゃんはBランクの隊員だ」

「AランクとBランク………!」

 二人のランクに耀は息を呑む。
 二人の正確な年齢は分からないがおそらくは二十代だろう。
 その若さでそんな高ランクに成ったことに驚き、尊敬した。
 しかし、ここでふとした疑問が耀の胸中に湧き上がる。

「すっごく今更なんだけど、あの二人って今までどこに居たの? 支部で見かけたことないんだけど」

「ああ。あの二人は任務で遠征に行ってたから、見かけないのも無理ないよ」

「二人一緒に?」

「「「二人一緒に」」」

「………そうなんだ」

 微妙な反応を示す耀。
 目の前で未だに騒いでいる二人を見て、その間の出来事を想像する。
 今のように愛笑が恵介に抱き着くなりしてちょっかいを掛ける姿がありありと浮かんでくる。

(月島さん、大変だったろうなー)

 出会って十分も経っていないが、そんなことを思ってしまう耀だった。

 耀が同情の視線を恵介へ送る中、十六夜は若干呆れ気味に笑ってツッコみを入れる。

「白銀。自覚無いかもしれないが、お前が春にやってることと愛笑さんが月島さんにしてることはほぼ変わらないと思うぞ」

「え!?」

「「確かに」」

「ふ、二人まで………!」

 さすがにあそこまではと思う耀。
 だが、出会った瞬間に告白して抱き着いたり、転校初日で付き合ってることを暴露して周りにアピールしたり、かなり色々とやらかしてきているので三人は耀と愛笑の行動に近いものを感じていた。

「けど、俺と耀は付き合ってるし、嫌というよりは嬉しいからそこは違うかな」

「春………!」

 少し照れ臭そうではあるが、笑顔で嬉しいと言ってくれる春に耀も嬉しそうに笑う。
 その様子を十六夜と篝は驚いたように見ていた。

「春君も最初に比べて積極的になったわよね」

「バカップル化してる気がするな」

「誰がバカップルだ!」

「えへへ、そうかな?」

「喜んじゃダメだって耀! 間違いなく馬鹿にされてんだから!」

 最初の張り詰めた空気はどこへやら、ワイワイと楽しそうに騒ぎ始める。
 そんな中、恵介はようやく愛笑を離れさせることに成功する。

「もう満足だろ! 離れてくれっ!」

「はーい」

 満足げに恵介から離れる愛笑。
 恵介はどこか疲れたように息を吐き、右手を広げて親指と人差し指で眼鏡の端をクイッと押し上げる。
 そして、騒いでいる春達四人へ声を掛ける。

「はあー。おい、お前達」

 恵介に声を掛けられたことで騒ぐのをやめ、一斉に恵介の方へと向く。
 恵介は四人が聞く姿勢になったことで本来の目的を果たしに来た。

「後少しで会議が始まる。どこでもいいから席に着くようにな」

「「「「「はーい、先生」」」」」

「誰が先生だ!」

 席に着くように言って来る恵介が先生のように思えた五人はお決まりとも言えるボケをする。
 そのボケに恵介は見事に引っかかり、強烈なツッコみを入れる。
 恵介は再び息を吐いて心を落ち着かせると、耀に向けて話しかける。

「お前が異動してきた白銀耀だな」

「あ、はい。日本本部から異動してきました、白銀耀と言います。よろしくお願いします」

「俺は月島恵介だ。同じ星導市支部の隊員として、これからよろしく頼む」

 何気に挨拶をしていなかった二人はここで挨拶を交わす。
 頭を下げる耀に対し、恵介は右手を差し出す。
 耀は頭を上げると差し出された右手に同じように右手を差し出した。

「よろしくお願いします」

 そう言って軽くではあるが握手を交わす。
 握手を終えて手を放すと、恵介は帰って来て耳にした噂について尋ねる。

「そういえば、お前と黒鬼は付き合い始めたそうだな。なんでも互いに一目惚れだとか」

「はい」

「まあ、そんな感じです」

 星導市支部ではかなり知れ渡っている噂。
 もう一目惚れということまで広まっている。
 その話を二人は幸せそうな笑顔を浮かべて肯定する。
 その笑顔に、恵介も優しい笑顔を浮かべて祝いの言葉を贈る。

「そうか。二人ともおめでとう」

「「ありがとうございます」」

「ときに白銀。この事をお前の父親である一輝いっきさんは知っているのか?」

「「「「「………え?」」」」」

 恵介の言葉に驚いたのは耀だけでなく、それを聞いていた他の四人も驚く。
 五人は揃って間抜けな声を上げ、目を見開いて固まる。
 なぜ恵介が耀の父親を知っているのか。
 その疑問が五人の思考を一斉に支配する。
 そして、いち早く驚きから回復した耀が恵介へと疑問を投げかけた。

「ど、どうして月島さんがお父さんのこと知ってるんですか!!?」

「ああ。過去に二回ほど一輝さんと共に任務にあたったことがある。そのとき、お前とお前の兄について嫌というほど自慢されてな。それで知っているというわけだ」

「なるほど。それで………」

 恵介の説明に耀は納得する。
 しかし、今の話を聞いて他の四人は余計に謎が増えてしまう。
 一人納得する耀に十六夜がその謎を口にした。

「ちょっと待て白銀。お前の父親は魔法防衛隊員なのか?」

「うん。そうだよ」

 特に気にした様子もなく答える耀。
 その様子から特別に隠していたわけではないことを察する。
 話を広げてもよさそうな雰囲気に、篝は驚きの心情を吐露した。

「知らなかったわ。春君は知ってた?」

「全っ然。今初めて聞いたから驚いてる」

「まあ聞かれなかったし、話す機会も無かったからね」

 耀はどこか申し訳なさそうにぎこちない笑みを浮かべる。
 そして、この際だから話そうと父親について話し始めた。

「私のお父さん、本部所属のAランク隊員・・・・・・なんだよね」

 Aランク隊員。
 その一言に恵介を除いた四人は再び驚きに襲われる。

「Aランクって………! 凄いわね耀のお父さん!」

「えへへ、まあね。ちなみに、お兄ちゃんもBランクの隊員なんだよ」

「お兄さんも隊員なのか。しかもBランクって凄いな………」

「てことはお前の家、防衛隊の中じゃかなりのエリート一家だな」

「自慢の家族です」

 家族が褒められて悪い気はせず、耀はふふんっと上機嫌そうに鼻を鳴らして胸を張る。
 そして、元々の恵介の質問であった父親が春との交際を知っているのかについて話し始める。

「それと、春と付き合ってることについては家族みんな知ってると思いますよ。『機会があればうちに連れてきなさい』ってお父さんとお兄ちゃんが言ってるって、電話でお母さんから聞いたので」

「そうか。一輝さんはお前とお前の兄を随分溺愛しているようだからな。反対されて無いならいいのだが………」

「だってよ、春」

「………おう」

 十六夜がケラケラと笑い、からかうように肘で春を小突く。
 その春はというと、青ざめた表情で目線を下に落としていた。
 それも仕方ない。
 耀が言ってる『家に連れてきなさい』は歓迎の意味ではなく、春を品定めすることが目的としか思えないからだ。
 この場の全員、そのことは分かっている。
 だから十六夜は楽しそうに笑っているのだ。

(絶対に歓迎じゃない! うちの大事な娘を誑かしてくれたな的なやつだ絶っっっ対!!!)

 近い未来で起こるかもしれない修羅場に不安を抱き、心の中で絶叫する春。
 その様子に十六夜はより一層ケラケラと楽しそうに笑い、他の四人は同情の眼差しを送った。

「さて、そろそろ会議が始まる頃合いだろう。俺は戻るから、お前らも席に着けよ」

 そう言うと恵介は身を翻し、会議室の前の方へと歩いていく。
 その後ろ姿に愛笑は笑顔で別れの挨拶を贈った。

「はーい! 恵介さん、また後でー!」

「―――っ!」

 愛笑の声に恵介は足早に会議室の前の方へと消えていく。
 それを見届けると春を除いた四人も動き始める。

「さて、私たちも席に着きましょうか」

「ええ」

「そうだな」

「ほら、春。席に移動するよ」

「………あ、うん」

 耀に声を掛けられ、意識を現実へと引き戻した春。
 そのまま歩き出したみんなに続く形で席へと歩いていった。
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