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第7話 ~初めての生産
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ーティルー
シアルの街の一流鍛冶師であるバルトの親方、彼の下でやってやると決めたその日から始まる鍛冶修行。シグルゥの宿屋から武器屋の二階へ、男臭いこの場所で寝泊まりしての修行に気が滅入る。…が、やるからには全力でというのが俺の流儀。
まず最初に炉の調整、親方曰く…火を見て判断しろとのことだが分かる筈がない。そもそも初心者が火を見て判断出来る筈もなし、この炉もどんなモノか? そういう初歩すら分からんのだよ俺は。そこんとこどうなのさ! といった感じのことを聞いてみると、
「客人に初歩など不要だ! 考えるな…感じろ! お前に才能があるのなら感じる筈だ、炉のナニカをよ!」
初歩不要で感じろとかって無茶を言う! だがやるしかないこの状況、これも修行…なんだよな?
炉から発せられる熱に堪えながら、俺は炉の中を見詰める。赤く染まる炉の中は、ユラユラと空間が揺らいでいる。その揺らめきは激しく、何となくだが熱すぎる気がする。ふむ、…ならば下げるとしようか。そう思ったのだが、
「…………?」
…温度の下げ方が分からん、どないせぇっていうのか? …ちらりと親方を見れば、親指を立てて頷くだけ。……教えろよ! 感じる前に教えろよ! …そう思った俺は悪くない筈だ。
温度を下げようと炉の周りを見るも、火を調整するナニカが見当たらない。水の入った桶はあるが、これは違う。他に…他に何かないのか!? …鉄鉱石、魔石、金槌、鉄床。その他…鍛冶で使うであろう物ばかり、決して火を調整するナニカではない。故に調整が出来ない、どうすれば? …悩む俺に親方が、
「感じろ、…考えるな感じろ! 炉の迸りを…! 感じて繋げるんだよ、自身の感覚を!」
そんなアドバイス、やはり感じなければならないのか。しかし、今回のアドバイスは…。
炉のナニカを感じ取り、自身の感覚を繋げる? よく分からんことではあるが、何となく…感じる気がする。炉のナニカ、…それは炉をきちんと認識することか? 炉の存在を、この目に映るモノを認識し考え…じゃなかった、…感じてみる。……するとどうだろう、俺の中に火が灯っているような気がする。それは激しく燃え上がる、だが…熱くはない。これは一体…、何なのだろうか?
俺の中の火を気にしながらも、炉と感覚を繋げようと四苦八苦していると気付いた。炉の火と俺の中の火、…同調しているのではなかろうかと。炉の火が熱すぎる為、下がらないかな弱まらないかなと思いながらも集中していると、炉の火が弱まるのと同時に俺の中の火も弱くなった気がしたのだ。気のせいかもしれない故、今度は上がれ強くなれと集中すれば炉の火も俺の中の火も強くなった。それを何度か試して確信した、これ…繋がっているわ。
俺の中の火を認識する前は、何を思い浮かべてもウンともスンとも言わなかった。しかし火を認識し感じることが出来た今、それなりに炉の火を操ることが出来ている。炉のナニカを感じ取り、自身の感覚を繋げることが出来たと考えていいんだよな? そう思い親方に視線を向ければ、
「炉を感じることが出来たな! こんなに早く感じることが出来るとは、…お前は才能があるぜ! とりあえず、暫くはそれを続けて身体に感覚を刻み込めや!」
とのことなので、暫くこれを続けた。お陰で汗だくですよ、……あっちぃな。
今日一日、ずっと炉と感覚を繋げていた。そのお陰で、自由自在に炉の火を調整出来るようになった。親方の話では、明日から本格的に鍛冶をするとのことだ。本格的とはいっても、やり方を教えてくれるだけだとか。何でも鍛冶のやり方は、最終的に人それぞれになるらしい。故にやり方を教えるだけで、後は自分自身で己のやり方に昇華させることが出来たら一流だとか。親方は後ろでアドバイスと、自分のやり方を見せるだけだって。それって修行になるのか? と思ったのだが、今回みたいにやり続けさせられるだろう。炉の調整をマスターするだけで、ここまで疲れたのだ。きっと、…一筋縄ではないのだろうな。
因みに、炉の調整を今回のようにマスターしなくても鍛冶は出来るらしい。俺以外のPCは、安定している炉を使うだろうとのこと。えぇ…っ!? と思ったのだが、良い物を作るには炉の調整が大事。安定している炉を使い続けていくPCよりも、確実に俺は上をいっているとのことだ。そこに一流のアドバイスと見本がプラスされるわけで、PC一の腕を持つ生産者になれるだろうと太鼓判を貰った。ちょいと嬉しい俺だが、ボソッ…と呟いた親方の言葉が耳に残る。
「…この際だから、…アイツ等にも教えて鍛えて貰うか。」
…アイツ等? …アイツ等とは一体誰を指すのか? 気にはなるが、それ以上にシャワーを浴びたい。
そんなわけで、俺はシャワーを浴びて飯を食って寝ます。所謂ログアウトですな、…リアルで仕事があるんですよ俺は。
────────────────────
炉の調整をしていたからか、リアルの仕事でいつも以上に火加減が気になってしまった俺。そんな俺は今日も元気にログイン、親方に挨拶をし朝食を食べてから鍛冶場へ。因みに食事は出前、シグルゥんとこから取っている。出前してたんだなぁ~と思いつつ、親方…料理出来なさそうと思ってみたりして。
鍛冶場へ行けば、親方が炉の前で待っていた。さて、今日一番目は何をやるのかね?
「昨日は炉の火の調整だったな! …で今日はまず、インゴットの生産だ!」
今日はインゴットの生産、…延べ棒的なアレだよな? 親方が見本を見せてくれた。まずはクズ鉄を炉の中に放り込む、ここにあるクズ鉄は大体二、三〇個で一本のインゴットが出来るらしい。放り込む量は物によって違うらしいから、そこら辺は後々自分で研究をしろと言われた。
炉の中のクズ鉄が燃える、正確にはクズの部分…不純物が燃えているそうだ。普通だったら、クズ鉄で生産されるインゴットは総じて品質が悪い。クズ鉄故に不純物が多く、全てを燃やし尽くすことが出来ずにインゴットになってしまうから。だが火の調整を的確にすれば燃やし尽くすことが出来、鉄鉱石から生産されるインゴットにも勝るとも劣らない物が生産出来るとか。
不純物が燃え尽きた後、熔け出した鉄は炉にある溝を通って専用の容器に落ちる。容器内に溜まった液状の鉄をインゴットの型に流し込み、後は冷えるのを待つだけ。待つと言ってもすぐに冷えて固まる、インゴットの型にはそういう術式が刻印されているらしい。それはありがたいことだな、大量生産出来るじゃん。
まぁとにかく、これがインゴット生産の手順。見た感じは簡単そうではあるが、品質の良い物を作ろうと考えたら難しくなるんだろう。火の調整が大事、…集中しなければならないな。
「その目でちゃんと見たな? とりあえず一回、やってみるといいぜ!」
親方にそう言われた為、俺は見よう見まねでインゴットを作ってみる。初めての生産、…どんな物が出来るかな?
………で、出来たインゴットがこれである。
〔鉄のインゴット-1〕やや品質の悪い鉄のインゴット。この程度ならば問題なく生産に使うことが出来る。【製作者:ティル】
…-1か、まぁ初めてだしこんなものだろう。生産にも使えるんだしな、…少しガッカリしたのは仕方がない。とりあえず出来たインゴットを親方に渡すと、親方は目を見開いて驚いた。
「お前の作業を見てまずまずだと思っていたが、出来た物を手にして確信したぜ。お前…才能あるわ、クズ鉄のインゴットではなく鉄のインゴットを生産出来たんだからよ!」
親方曰く…初心者はクズ鉄で生産した場合、クズ鉄のインゴットしか生産出来ない。所詮はクズ鉄、そうそう鉄にはならない。生産するには一人前か、それ以上に至るであろう才能持ちにしか鉄のインゴットは生産出来ないという。…じゃあ俺は、一人前以上になる才能があるってことか。そいつはいいな、うん。
俺に才能があるってことで、親方は俺に指示を出してきた。
「とりあえず、ここにあるクズ鉄を全てインゴットに変えまくるんだ! 慣れることが出来たら品質が上がるだろうよ! 作って作って作りまくれ! それが上達の道だ、お前なら出来る! …で、お前がそれをしている間に俺はちょいと出てくるぞ! お前程の逸材、俺だけの技術だけじゃあ勿体ない! アイツ等を呼んでくるぜ!」
インゴット生産に力を注げだって、その間にアイツ等を呼ぶとも言っていた。昨日もそんなことを言っていたよな? アイツ等って誰よ? と思いつつ、俺はインゴットを作りまくるのだった。
インゴットを作りまくってから結構な時間が経ったな、親方が使っていいと言っていたクズ鉄も無くなったし。それに作りまくったお陰で、最後のインゴットはというと…、
〔鉄のインゴット+1〕やや品質の良い鉄のインゴット。元がクズ鉄だとは思えない物である。【製作者:ティル】
鉄のインゴットを-から+に変えることが出来たのだ、かなりの進歩と言えるだろう。親方の言っていた通り、火の調整が大事だった。ある程度の火力で燃やした後、火力を数秒間だけ一気に上げること。そうすることで、不純物だけを燃やすことが出来るようだ。だがまだまだタイミングやら火力やらが分からない、要研究と日々の生産による経験が必要不可欠であろう。
ふぅ~…っ、と一息吐いた時に横から手が伸びてきた。一瞬ビビってしまった俺だが、どうせ親方だろうと思い振り向いてみれば、
「おいおいおいおい! -から+にまで腕が上がっているぞ! バルトの言う通りじゃないか!」
「何とまぁ…、客人だからでは済まされない程の才能みたいだね。」
「ほへぇ~…、客人の若者というのは凄いもんじゃのぅ…。」
親方に似てはいるがちょいと違うおっさん、眼鏡をかけたひょろ長いおっさん、金髪おさげの幼女がいた。俺の作ったインゴットを見ては盛り上がっている、…だがその前に誰ですかね? と思った時に親方が現れ、
「この短時間でクズ鉄を使いきり、インゴットを+にまで上げやがったか! そんな才能溢れるお前に、新たな師匠を呼んできてやったぞ! 二人ばかり遅れてくるがな!」
そう言って豪快に笑う親方、…新たな師だって? この人達が? 二人ばかり遅れてくると言っているが、親方を含めて六人の職人に教えを受けることになるってことだよな? …贅沢なことなんだろうけど、修行内容が充実しより辛く、拘束時間が増えるってことになるんじゃないだろうか? ………ぎゃふん。
…遅れてきた二人がこの鍛冶場へ来たので、互いを知る為に自己紹介を、…まずは俺からだな。
「俺の名はティル、皆さんの言うところの客人になるな。今回は縁があり、バルト親方に師事をすることになった。え~と…、まだ状況がよく分からんのだけど…よろしくお願いします? …でいいのか?」
と言えば、続いて親方を除いた五人の職人が名乗っていく。
「俺様はバルトと同じ鍛冶師であるアダンだ! 主に防具を作っている! 俺がお前に防具の何足るかを叩き込んでやる! 気合を入れろよ? ドゥバババババ!」
親方が髭顔なら、この人は髭無し顔。ほぼ同じ顔に見えるのだが、…種族の特徴だろうか? 防具に関しては一流の鍛冶師であるらしいアダンさん。
「私はそこで下品に笑っているアダンの相方、裁縫師のゲーツという。防具は金属だけじゃないからね? 裁縫も重要だってことを教えてあげるよ。」
眼鏡がよく似合う紳士然としたおじさん、物腰上品で知的に見える。一流の裁縫師であるゲーツさん、…ちょいと厳しそうだよね?
「ワシこそがシアル一、いや…むしろグラン王国でも一、二を争う程のアイテム師であるディーバじゃ! お主は…え~と、…ティル? じゃったな。ティルは顔に似合わず手先が器用そうじゃ、このワシが一流にしてやるわぃ! 感謝するといいぞぃ、にょほほほほほ!」
元気いっぱいの幼女様が一流のアイテム師…ディーバさん、ヒックスとウエンツが言っていたロリ婆がこのお子様だな? 奇妙な笑い方が耳に残る。
「初めましてだねティル君、私は装飾師のワイズマン。人は私を一流と呼ぶが、まだまだ高みを目指す未熟者さ。互いに高めあって良き物を残していこう、よろしく頼むよ?」
人の良さそうな優男って感じがする一流の装飾師ワイズマンさん、常に高みを目指す向上心の強い人のようだ。妥協とか嫌いそうだよね…、そこから導き出せるのは…一番厳しそうだってこと。…俺は堪えることが出来るのか?
「オッス! 俺っちはエイガー、超一流の木工師だぜ! 木工こそが最強! 木工なくして生産は出来ずってね! コイツ等が一流であり続けられるのは俺っちのお陰なのさ! そこんとこよろしく頼まぁ~っ!」
テンションが異常に高いヤンキーみたいなこの人が一流の木工師? エイガーさん、他の方々が一流であるのはこの人のお陰? 俄に信じられないが、これからそれを知ることが出来るだろう。不安はあるが楽しみである。
…とまぁ、自己紹介が終わったわけで。
「よし! 互いに自己紹介が終わったんならこれより数日間、俺達でお前をビシバシしごいていくからな? 目指すは客人最高の生産者だ、逃げることは許さねぇからなティル!」
…ジーザス、数日間の拘束が決定してしまった。しかもビシバシとしごくとかって…客人最高の称号は魅力的だが、俺は彼等のしごきに堪えることが出来るのか? 逃げることは許さないとかって、嫌な予感が……、
【クエスト】鍛冶師に弟子入り
シアルの一流鍛冶師バルトの下で鍛冶技術を学ぼう!
【追加イベント発生】職人達のしごき巡り
一流職人達のしごきを乗りきり、その技術を身に付けろ! …退路はない、踏ん張れ!
【報酬変更】専用自作職人セット
【追加報酬】???
【称号】???
…………ほらねぇーーーっ!? クエストに追加イベントがががががっ!
戦慄を覚える俺に対し、
「まずは俺っちが教えてやるぜ! 何にしてもまずは木工! 他の作業で使う道具の作り方を叩き込む! 道具は自分に合う物が一番、…いくぜいくぜいくぜいくぜいくぜぇ~いっ!!」
木工師のエイガーさんが突撃してきた、何故に突撃!? 俺は為す術もなくエイガーさんに捕まり、その技術を叩き込まれることになる。…親方の他にこんなことが数日も? …俺は生き残れるのか?
シアルの街の一流鍛冶師であるバルトの親方、彼の下でやってやると決めたその日から始まる鍛冶修行。シグルゥの宿屋から武器屋の二階へ、男臭いこの場所で寝泊まりしての修行に気が滅入る。…が、やるからには全力でというのが俺の流儀。
まず最初に炉の調整、親方曰く…火を見て判断しろとのことだが分かる筈がない。そもそも初心者が火を見て判断出来る筈もなし、この炉もどんなモノか? そういう初歩すら分からんのだよ俺は。そこんとこどうなのさ! といった感じのことを聞いてみると、
「客人に初歩など不要だ! 考えるな…感じろ! お前に才能があるのなら感じる筈だ、炉のナニカをよ!」
初歩不要で感じろとかって無茶を言う! だがやるしかないこの状況、これも修行…なんだよな?
炉から発せられる熱に堪えながら、俺は炉の中を見詰める。赤く染まる炉の中は、ユラユラと空間が揺らいでいる。その揺らめきは激しく、何となくだが熱すぎる気がする。ふむ、…ならば下げるとしようか。そう思ったのだが、
「…………?」
…温度の下げ方が分からん、どないせぇっていうのか? …ちらりと親方を見れば、親指を立てて頷くだけ。……教えろよ! 感じる前に教えろよ! …そう思った俺は悪くない筈だ。
温度を下げようと炉の周りを見るも、火を調整するナニカが見当たらない。水の入った桶はあるが、これは違う。他に…他に何かないのか!? …鉄鉱石、魔石、金槌、鉄床。その他…鍛冶で使うであろう物ばかり、決して火を調整するナニカではない。故に調整が出来ない、どうすれば? …悩む俺に親方が、
「感じろ、…考えるな感じろ! 炉の迸りを…! 感じて繋げるんだよ、自身の感覚を!」
そんなアドバイス、やはり感じなければならないのか。しかし、今回のアドバイスは…。
炉のナニカを感じ取り、自身の感覚を繋げる? よく分からんことではあるが、何となく…感じる気がする。炉のナニカ、…それは炉をきちんと認識することか? 炉の存在を、この目に映るモノを認識し考え…じゃなかった、…感じてみる。……するとどうだろう、俺の中に火が灯っているような気がする。それは激しく燃え上がる、だが…熱くはない。これは一体…、何なのだろうか?
俺の中の火を気にしながらも、炉と感覚を繋げようと四苦八苦していると気付いた。炉の火と俺の中の火、…同調しているのではなかろうかと。炉の火が熱すぎる為、下がらないかな弱まらないかなと思いながらも集中していると、炉の火が弱まるのと同時に俺の中の火も弱くなった気がしたのだ。気のせいかもしれない故、今度は上がれ強くなれと集中すれば炉の火も俺の中の火も強くなった。それを何度か試して確信した、これ…繋がっているわ。
俺の中の火を認識する前は、何を思い浮かべてもウンともスンとも言わなかった。しかし火を認識し感じることが出来た今、それなりに炉の火を操ることが出来ている。炉のナニカを感じ取り、自身の感覚を繋げることが出来たと考えていいんだよな? そう思い親方に視線を向ければ、
「炉を感じることが出来たな! こんなに早く感じることが出来るとは、…お前は才能があるぜ! とりあえず、暫くはそれを続けて身体に感覚を刻み込めや!」
とのことなので、暫くこれを続けた。お陰で汗だくですよ、……あっちぃな。
今日一日、ずっと炉と感覚を繋げていた。そのお陰で、自由自在に炉の火を調整出来るようになった。親方の話では、明日から本格的に鍛冶をするとのことだ。本格的とはいっても、やり方を教えてくれるだけだとか。何でも鍛冶のやり方は、最終的に人それぞれになるらしい。故にやり方を教えるだけで、後は自分自身で己のやり方に昇華させることが出来たら一流だとか。親方は後ろでアドバイスと、自分のやり方を見せるだけだって。それって修行になるのか? と思ったのだが、今回みたいにやり続けさせられるだろう。炉の調整をマスターするだけで、ここまで疲れたのだ。きっと、…一筋縄ではないのだろうな。
因みに、炉の調整を今回のようにマスターしなくても鍛冶は出来るらしい。俺以外のPCは、安定している炉を使うだろうとのこと。えぇ…っ!? と思ったのだが、良い物を作るには炉の調整が大事。安定している炉を使い続けていくPCよりも、確実に俺は上をいっているとのことだ。そこに一流のアドバイスと見本がプラスされるわけで、PC一の腕を持つ生産者になれるだろうと太鼓判を貰った。ちょいと嬉しい俺だが、ボソッ…と呟いた親方の言葉が耳に残る。
「…この際だから、…アイツ等にも教えて鍛えて貰うか。」
…アイツ等? …アイツ等とは一体誰を指すのか? 気にはなるが、それ以上にシャワーを浴びたい。
そんなわけで、俺はシャワーを浴びて飯を食って寝ます。所謂ログアウトですな、…リアルで仕事があるんですよ俺は。
────────────────────
炉の調整をしていたからか、リアルの仕事でいつも以上に火加減が気になってしまった俺。そんな俺は今日も元気にログイン、親方に挨拶をし朝食を食べてから鍛冶場へ。因みに食事は出前、シグルゥんとこから取っている。出前してたんだなぁ~と思いつつ、親方…料理出来なさそうと思ってみたりして。
鍛冶場へ行けば、親方が炉の前で待っていた。さて、今日一番目は何をやるのかね?
「昨日は炉の火の調整だったな! …で今日はまず、インゴットの生産だ!」
今日はインゴットの生産、…延べ棒的なアレだよな? 親方が見本を見せてくれた。まずはクズ鉄を炉の中に放り込む、ここにあるクズ鉄は大体二、三〇個で一本のインゴットが出来るらしい。放り込む量は物によって違うらしいから、そこら辺は後々自分で研究をしろと言われた。
炉の中のクズ鉄が燃える、正確にはクズの部分…不純物が燃えているそうだ。普通だったら、クズ鉄で生産されるインゴットは総じて品質が悪い。クズ鉄故に不純物が多く、全てを燃やし尽くすことが出来ずにインゴットになってしまうから。だが火の調整を的確にすれば燃やし尽くすことが出来、鉄鉱石から生産されるインゴットにも勝るとも劣らない物が生産出来るとか。
不純物が燃え尽きた後、熔け出した鉄は炉にある溝を通って専用の容器に落ちる。容器内に溜まった液状の鉄をインゴットの型に流し込み、後は冷えるのを待つだけ。待つと言ってもすぐに冷えて固まる、インゴットの型にはそういう術式が刻印されているらしい。それはありがたいことだな、大量生産出来るじゃん。
まぁとにかく、これがインゴット生産の手順。見た感じは簡単そうではあるが、品質の良い物を作ろうと考えたら難しくなるんだろう。火の調整が大事、…集中しなければならないな。
「その目でちゃんと見たな? とりあえず一回、やってみるといいぜ!」
親方にそう言われた為、俺は見よう見まねでインゴットを作ってみる。初めての生産、…どんな物が出来るかな?
………で、出来たインゴットがこれである。
〔鉄のインゴット-1〕やや品質の悪い鉄のインゴット。この程度ならば問題なく生産に使うことが出来る。【製作者:ティル】
…-1か、まぁ初めてだしこんなものだろう。生産にも使えるんだしな、…少しガッカリしたのは仕方がない。とりあえず出来たインゴットを親方に渡すと、親方は目を見開いて驚いた。
「お前の作業を見てまずまずだと思っていたが、出来た物を手にして確信したぜ。お前…才能あるわ、クズ鉄のインゴットではなく鉄のインゴットを生産出来たんだからよ!」
親方曰く…初心者はクズ鉄で生産した場合、クズ鉄のインゴットしか生産出来ない。所詮はクズ鉄、そうそう鉄にはならない。生産するには一人前か、それ以上に至るであろう才能持ちにしか鉄のインゴットは生産出来ないという。…じゃあ俺は、一人前以上になる才能があるってことか。そいつはいいな、うん。
俺に才能があるってことで、親方は俺に指示を出してきた。
「とりあえず、ここにあるクズ鉄を全てインゴットに変えまくるんだ! 慣れることが出来たら品質が上がるだろうよ! 作って作って作りまくれ! それが上達の道だ、お前なら出来る! …で、お前がそれをしている間に俺はちょいと出てくるぞ! お前程の逸材、俺だけの技術だけじゃあ勿体ない! アイツ等を呼んでくるぜ!」
インゴット生産に力を注げだって、その間にアイツ等を呼ぶとも言っていた。昨日もそんなことを言っていたよな? アイツ等って誰よ? と思いつつ、俺はインゴットを作りまくるのだった。
インゴットを作りまくってから結構な時間が経ったな、親方が使っていいと言っていたクズ鉄も無くなったし。それに作りまくったお陰で、最後のインゴットはというと…、
〔鉄のインゴット+1〕やや品質の良い鉄のインゴット。元がクズ鉄だとは思えない物である。【製作者:ティル】
鉄のインゴットを-から+に変えることが出来たのだ、かなりの進歩と言えるだろう。親方の言っていた通り、火の調整が大事だった。ある程度の火力で燃やした後、火力を数秒間だけ一気に上げること。そうすることで、不純物だけを燃やすことが出来るようだ。だがまだまだタイミングやら火力やらが分からない、要研究と日々の生産による経験が必要不可欠であろう。
ふぅ~…っ、と一息吐いた時に横から手が伸びてきた。一瞬ビビってしまった俺だが、どうせ親方だろうと思い振り向いてみれば、
「おいおいおいおい! -から+にまで腕が上がっているぞ! バルトの言う通りじゃないか!」
「何とまぁ…、客人だからでは済まされない程の才能みたいだね。」
「ほへぇ~…、客人の若者というのは凄いもんじゃのぅ…。」
親方に似てはいるがちょいと違うおっさん、眼鏡をかけたひょろ長いおっさん、金髪おさげの幼女がいた。俺の作ったインゴットを見ては盛り上がっている、…だがその前に誰ですかね? と思った時に親方が現れ、
「この短時間でクズ鉄を使いきり、インゴットを+にまで上げやがったか! そんな才能溢れるお前に、新たな師匠を呼んできてやったぞ! 二人ばかり遅れてくるがな!」
そう言って豪快に笑う親方、…新たな師だって? この人達が? 二人ばかり遅れてくると言っているが、親方を含めて六人の職人に教えを受けることになるってことだよな? …贅沢なことなんだろうけど、修行内容が充実しより辛く、拘束時間が増えるってことになるんじゃないだろうか? ………ぎゃふん。
…遅れてきた二人がこの鍛冶場へ来たので、互いを知る為に自己紹介を、…まずは俺からだな。
「俺の名はティル、皆さんの言うところの客人になるな。今回は縁があり、バルト親方に師事をすることになった。え~と…、まだ状況がよく分からんのだけど…よろしくお願いします? …でいいのか?」
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「俺様はバルトと同じ鍛冶師であるアダンだ! 主に防具を作っている! 俺がお前に防具の何足るかを叩き込んでやる! 気合を入れろよ? ドゥバババババ!」
親方が髭顔なら、この人は髭無し顔。ほぼ同じ顔に見えるのだが、…種族の特徴だろうか? 防具に関しては一流の鍛冶師であるらしいアダンさん。
「私はそこで下品に笑っているアダンの相方、裁縫師のゲーツという。防具は金属だけじゃないからね? 裁縫も重要だってことを教えてあげるよ。」
眼鏡がよく似合う紳士然としたおじさん、物腰上品で知的に見える。一流の裁縫師であるゲーツさん、…ちょいと厳しそうだよね?
「ワシこそがシアル一、いや…むしろグラン王国でも一、二を争う程のアイテム師であるディーバじゃ! お主は…え~と、…ティル? じゃったな。ティルは顔に似合わず手先が器用そうじゃ、このワシが一流にしてやるわぃ! 感謝するといいぞぃ、にょほほほほほ!」
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「初めましてだねティル君、私は装飾師のワイズマン。人は私を一流と呼ぶが、まだまだ高みを目指す未熟者さ。互いに高めあって良き物を残していこう、よろしく頼むよ?」
人の良さそうな優男って感じがする一流の装飾師ワイズマンさん、常に高みを目指す向上心の強い人のようだ。妥協とか嫌いそうだよね…、そこから導き出せるのは…一番厳しそうだってこと。…俺は堪えることが出来るのか?
「オッス! 俺っちはエイガー、超一流の木工師だぜ! 木工こそが最強! 木工なくして生産は出来ずってね! コイツ等が一流であり続けられるのは俺っちのお陰なのさ! そこんとこよろしく頼まぁ~っ!」
テンションが異常に高いヤンキーみたいなこの人が一流の木工師? エイガーさん、他の方々が一流であるのはこの人のお陰? 俄に信じられないが、これからそれを知ることが出来るだろう。不安はあるが楽しみである。
…とまぁ、自己紹介が終わったわけで。
「よし! 互いに自己紹介が終わったんならこれより数日間、俺達でお前をビシバシしごいていくからな? 目指すは客人最高の生産者だ、逃げることは許さねぇからなティル!」
…ジーザス、数日間の拘束が決定してしまった。しかもビシバシとしごくとかって…客人最高の称号は魅力的だが、俺は彼等のしごきに堪えることが出来るのか? 逃げることは許さないとかって、嫌な予感が……、
【クエスト】鍛冶師に弟子入り
シアルの一流鍛冶師バルトの下で鍛冶技術を学ぼう!
【追加イベント発生】職人達のしごき巡り
一流職人達のしごきを乗りきり、その技術を身に付けろ! …退路はない、踏ん張れ!
【報酬変更】専用自作職人セット
【追加報酬】???
【称号】???
…………ほらねぇーーーっ!? クエストに追加イベントがががががっ!
戦慄を覚える俺に対し、
「まずは俺っちが教えてやるぜ! 何にしてもまずは木工! 他の作業で使う道具の作り方を叩き込む! 道具は自分に合う物が一番、…いくぜいくぜいくぜいくぜいくぜぇ~いっ!!」
木工師のエイガーさんが突撃してきた、何故に突撃!? 俺は為す術もなくエイガーさんに捕まり、その技術を叩き込まれることになる。…親方の他にこんなことが数日も? …俺は生き残れるのか?
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しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。
意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
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俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
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