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ユキさん

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第6話 ~朝食と鍛冶職人

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ー由樹ー



妹から貰ったVR機一式と『F.E.O』というゲーム。言われた通り始めてみたのだが…、これがめっちゃ楽しい! まだ始めてばかりだというのに、俺は『F.E.O』の虜となっている。昨日はあの後、宿屋に戻ってログアウトをしたからな。夕方から仕事だったし、…現実を忘れちゃいかん。十分楽しんだからか、仕事も楽しんでやることが出来た。親父もお袋も、俺のテンションに驚いていたな!



…で翌日を迎えた俺は、朝食を食べて万全の状態。すぐにでも『F.E.O』へと飛びたいのだが、



「うぅ~…! 学校サボって『F.E.O』がしたいよあんちゃん! 月曜日は憂鬱だ!」



朝一で引っ付いてくる芹菜が鬱陶しい、コイツが学校へ行くまではお預けとなっているのだ。この状態の芹菜を放置して『F.E.O』をやったのなら、確実にイタズラを仕掛けてくる。故にまだやることが出来ない、…腹が立つのは仕方がないよな?



………早く芹菜の登校する時間にならんかね?



────────────────────



ーティルー



リアルでの朝イベントを消化した俺は、分身であるこの身体に戻ってきた。リアルで朝食を食ってきたけれど、こちらではまだ食べていない。…腹が減った、空腹である。こういう生理現象も再現されているVR、…マジでパネェ。とにかく飯だ飯! そんなわけで部屋を出て、一階の食堂へと行きますか。



食堂に顔を出すとシグルゥがいて、俺に気付くと…、



「昨日は戻ってから静かだったねぇ、疲れていたのかな? 夕食…食べたの? お腹減ってないの?」



と聞いてきた。俺は少し考えてから、



「寝る前に戦利品を鑑定していたんだよ、後はまぁ…草原で暴れたからな。疲れたから夕食も食べずに寝てしまった、目覚めはいいけど腹が減っている。そういうわけだからシグルゥ、朝食をくれ。」



そう言うと、シグルゥはしたり顔で頷いてから奥へと消えていった。…何だかイラッ! ときたのだが、気のせいだろうか?



シグルゥが奥に消えてから、改めて考える。俺は昨日、宿屋へ戻ってから戦利品を鑑定した後にログアウトをした。今日は朝早くからログインし、朝食を待つ身。…で今日の予定はまず武器屋、そこで投げナイフを買う予定だ。初心者用投げナイフは弱いからね、〈投擲〉のLVを上げる為には良い投げナイフが必要である。そして出来るのであれば、鍛冶の経験を積みたいと考える。そこらのことは分からないから、武器屋の親父さんに聞いてみるのがいいんだろうな。まずは地図で武器屋の位置を確認しておこう、え~と……。













今日の予定を考えていると、奥からトレイを持ったシグルゥが戻ってきた。



「お待たせぇ~。今日の朝食はパン、ハムエッグ、サラダ、スープにしたよぉ~。ティル君はかなりの空腹だと推測したけど、朝は軽めにした方がいいかと思って。」



…コイツ、…能力者か!? 確かに腹が減っている、…それもかなり。故にガッツリいきたいところだが、腹が減っていたとしても朝でそれをやると確実にくだす、…それはもうガッツリと。それをシグルゥが見抜いただと!? …シグルゥ、…お前は一体何者なんだ!



だがそれと同時に、



「…やるじゃないか、シグルゥ。」



軽めとはいえ、この朝食…かなりの美味! ハムエッグのハム、これは一体何の肉だろうか? 噛めば噛む程口内に拡がる旨味、それをこの卵が邪魔をするわけではなく逆に、旨味を抑えてしつこさを消し飽きさせない。パンもふっくらとしていて舌触りも良く、ハムエッグと共に食すとその絶妙さに言葉を失う。スープを口にすれば野菜の旨味、そして甘味が口内を幸せで満たしてくれる。そのスープにパンを浸して食せば、口内で溶けて無くなり残るのは圧倒的な幸福感。幸福感に包まれながらも手にしたサラダ、葉物のシャキシャキ感、ベーコン? のカリカリ感、果物と思われる甘味。それを一つに纏めるこのドレッシングは一体…!



美味い、美味すぎるぞこの朝食! ガツガツ食べたら腹をくだしそうだが、…止めることが出来ないんだよ! リアルでもそう食べることの出来ない美味に、俺は我を忘れて貪るのみ。嗚呼…食の素晴らしさをも実感出来るとは、VR…いやさ『F.E.O』…、恐るべし!



リアルでも料理をするが、ここでも料理をする。…いいかもしれんな、余裕があれば料理をしてスキル取得、それかスキル屋で購入を検討しよう。自分がやりたいと思うことが増えた、喜ばしいことである。そんなことを考えながらも、朝食を綺麗に食べ尽くした。そして俺はシグルゥに向かって、



「かなりの美味だった、…やるじゃないかシグルゥ!」



惜しみ無い称賛を贈った、シグルゥは…、



「どやっ!」



………見事なドヤ顔を披露、…イラッ! ときた。



────────────────────



苛立ちを抑えながら食事代を払い、宿屋を出た俺は地図を見ながら武器屋へ。一度ヒックス達に案内されているし、地図を見ながらだから迷わずに辿り着いた。やはり地図は役に立つな、と思いつつ武器屋の中へ。入ってみれば当たり前ではあるが、見事な武器達が迎えてくれる。剣・槍・斧等の定番がメインで、弓・投げナイフ等の世間でいうゴミ武器がメインを外れて脇に。それでも自己主張が激しいのは俺が〈鑑定〉持ちだからか? それとも一流の職人が作った武器だからだろうか?



まぁとにかく、ヒックス達の言う通り…値段は高いが質は良いみたいだ。置かれている投げナイフを見る。



〔鉄の投げナイフ+2〕:熟練の技で鍛え上げられた鉄製の投げナイフ。量産を主にした為に、若干の手抜きが見え隠れする。 STR+6



手抜きでこれですよ、一流…ハンパねぇ。俺如きの目では完璧な逸品にしか見えないが、一流にとっては取るに足らない物なのであろう。本来ならばこの投げナイフは店頭に並ぶ程ではない物だと思う、だがあえて並べて初心者用、或いは駆け出し用として並べてあるのだろうと推理する。一流の優しさが滲み出る、…勿論買いだな。まだまだ未熟な俺には、この店で一番安いこの投げナイフで十分だろう。安いと言っても一本50G、初心者の俺にとっては高級品である。



とりあえずは…、



「親父さん、この鉄の投げナイフを一〇本くれ。」



そう言って、カウンターにいる親父さんの下へ投げナイフを一〇本持っていく。親父さんは俺をギロリと見て、



「兄ちゃん。…見た所初心者のようだが、この店を何処で知った? 場所的に初心者、しかも客人にはそうそう辿り着くことが出来ねぇ店だぞ。」



と言われた。確かに親父さんの言う通りだ、この店は来たばかりの俺達PCには辿り着けんだろう。何故かというとこの店は、メインから離れているし位置的に南西の場所にある。普通なら絶対に見付けることが出来ない、そんな場所にあるのだから。だがしかし、運が良いことにヒックス達と知り合い、そして紹介されたのだ。そのことを親父さんに伝えると、



「ほう…、あの馬鹿二人に紹介されたのか。なるほどなるほど…、なら分かるわな。……よし! 本来ならば10本で500Gだが、紹介であるならば400Gでいいぜ!」



と、太っ腹なことを言ってきたのだった。一流職人の親父さんカッケー! そしてヒックス&ウエンツありがとう!



「マジでか! …ありがとう親父さん、初心者の俺にはありがたい申し出だ。」



そう言って俺は、親父さんに400Gを手渡した。



「毎度あり! 兄ちゃん顔に似合わず素直だし、将来有望だな! おまけで5本、付けてやるぜ!」



親父さん超カッケー!



おまけ付きで鉄の投げナイフを買った俺は、親父さんに聞いてみる。



「親父さん、鍛冶仕事は何処で出来るのだろうか? 何か知らない?」



本職ならば知っているだろう。こんな良い物を見てしまったら、自分でも作ってみたいと思うのが男というもの。元々そのつもりだったが、更にその想いが強まった。早く鍛冶仕事をしたい、してみたいと気持ちが逸ってしまう。そのように考えている俺に対し、親父さんは…、



「兄ちゃん、鍛冶スキルを持っているのか?」



鋭い目で此方を見ながら聞き返してくる。俺はそんな目で見てくる親父さんに視線を合わせて、



「ああ、俺は後にギルドへ行き冒険者となる。…で自分の望む武器が見付かるとも限らない、ならばとるべきことは一つ。本職から見れば無謀と思うかもしれんが、自身で武器作り…鍛冶仕事に挑戦してみたい。」



俺の気持ちを言った。



親父さんは腕を組んで何やら考えている、…そして、



「本気で鍛冶をやりてぇみたいだな、兄ちゃんみたいな奴は初めてだぜ。…客人てぇのは、不思議な存在だな!」



…俺の考えは不思議なんか? 俺の考えが初めてってことは、NPCでこんな考えを持つ者がいないってことか? 冒険者は冒険者、生産者は生産者ってことなんだな? …なるほど。



「…でどうだい兄ちゃん。提案なんだけどよ、…俺ん所で鍛冶修業をやってみねぇか? 客人一の腕にしてやるぜ?」



親父さんが何とも魅力的な提案をしてきた、…修業だと? 一流の親父さんの下での修業、客人一の腕にしてやるとかって…。う~む…と考えていると、



【クエスト】鍛冶師に弟子入り

シアルの一流鍛冶師バルトの下で鍛冶技術を学ぼう!

【報酬】携帯鍛冶セット

このクエストを受けますか? YES/NO



ポンッ! と頭の中に、クエスト発生の知らせが届く。…クエストか、そうなると更に魅力的になるな。報酬も貰えるし、鍛冶の腕も上がる。自給自足の冒険者を目指そうかと考える俺には、このクエストは非常にありがたいモノである。そう考えると当然、YESを選択する。



「親父さん、…いや親方! よろしく頼む、俺を一端の者にしてくれ!」



気合十分に親父さん、いやさ親方に修業をお願いした。親方はニヤリと笑って、



「おう、頼まれた! …そういうことだから兄ちゃん、今日から泊まり込みでみっちり仕込んでやるからな!」



「………え゛!?」



泊まり込み!? …宿屋、…シグルゥにはもう代金を払っているんだけども。…それを親方に言うと、



「シグルゥん所にいたのか兄ちゃん! コイツはなおのこと仕込まにゃならねぇな!」



…………嫌な予感がするのは、気のせいだろうか?
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