8 / 8
8
しおりを挟む
僕と源は、麻樹の墓参りをした後に天馬の墓前に来た。
この前のように、秋の風が竹林をざーっと鳴らした。ずっと強い風だ。すっかり秋の色が深まった空を僕は見上げた。どこまでも高く青い空だ。
風が揺らす竹林のてっぺんに鷹が止まっていた。
――あの時の鷹か……?
鷹は一瞬バサリと翼を広げた。翼と尾羽に縞模様が見えた。力強く美しい。
ふと気づくと、源の隣りに麻樹が立っていた。僕は一瞬息を呑んだがたぶん源には見えていない。彼女が空を仰ぐと、鷹は羽音も立てずに宙に舞った。そして風に乗りどんどん高く舞い上がって行った。
「天馬、麻樹……ごめん……」
僕は未だに出ない涙にとまどいながら、二人に謝罪の言葉を述べた。
すると麻樹は音もなく源の身体をすり抜け、僕の胸に手を当てた。そのぬくもりを、僕は確かに感じた。
――麻樹。天馬には逢えたのか?
と同時にあの鷹が、風をつかみながら竹林近くまで降りてきて、ゆっくりと優雅に旋回し始めた。
それを見た僕は急に胸が苦しくなり、喉元を締め付けていた何かがするりとほどけたような気がした。そして知らぬ間に、天馬の墓前で声を上げて泣いていた。
「ごめん! ごめん……天馬……麻樹……ごめん……」
源が地面に突っ伏して泣く僕の肩を強くつかんだ。そして言った。それは天馬の声だった。
『陽太。おまえのせいじゃない。だからもう自分を責めるのはやめろ』
天馬の声に顔を上げると、目の前の源は微笑んだ。
「陽太。俺らはこれから生きていかなきゃダメなんだ。もちろん天馬と麻樹も一緒だ」
涙でぐしゃぐしゃの僕と源は空を見上げた。そこには、僕らが手を伸ばしても届かない遥か上空を旋回する二羽の鷹と、果てしなく高く青い秋の空があった。
**おわり**
この前のように、秋の風が竹林をざーっと鳴らした。ずっと強い風だ。すっかり秋の色が深まった空を僕は見上げた。どこまでも高く青い空だ。
風が揺らす竹林のてっぺんに鷹が止まっていた。
――あの時の鷹か……?
鷹は一瞬バサリと翼を広げた。翼と尾羽に縞模様が見えた。力強く美しい。
ふと気づくと、源の隣りに麻樹が立っていた。僕は一瞬息を呑んだがたぶん源には見えていない。彼女が空を仰ぐと、鷹は羽音も立てずに宙に舞った。そして風に乗りどんどん高く舞い上がって行った。
「天馬、麻樹……ごめん……」
僕は未だに出ない涙にとまどいながら、二人に謝罪の言葉を述べた。
すると麻樹は音もなく源の身体をすり抜け、僕の胸に手を当てた。そのぬくもりを、僕は確かに感じた。
――麻樹。天馬には逢えたのか?
と同時にあの鷹が、風をつかみながら竹林近くまで降りてきて、ゆっくりと優雅に旋回し始めた。
それを見た僕は急に胸が苦しくなり、喉元を締め付けていた何かがするりとほどけたような気がした。そして知らぬ間に、天馬の墓前で声を上げて泣いていた。
「ごめん! ごめん……天馬……麻樹……ごめん……」
源が地面に突っ伏して泣く僕の肩を強くつかんだ。そして言った。それは天馬の声だった。
『陽太。おまえのせいじゃない。だからもう自分を責めるのはやめろ』
天馬の声に顔を上げると、目の前の源は微笑んだ。
「陽太。俺らはこれから生きていかなきゃダメなんだ。もちろん天馬と麻樹も一緒だ」
涙でぐしゃぐしゃの僕と源は空を見上げた。そこには、僕らが手を伸ばしても届かない遥か上空を旋回する二羽の鷹と、果てしなく高く青い秋の空があった。
**おわり**
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
偶然なんてそんなもの
桃井すもも
恋愛
偶然だなんて、こんなよく出来たことってある?
巷で話題の小説も、令嬢達に人気の観劇も、秘めた話しの現場は図書室って相場が決まってる。
けれど目の前で愛を囁かれてるのは、私の婚約者なのだけれど!
ショートショート
「アダムとイヴ」
「ままならないのが恋心」
に連なります。どうぞそちらも合わせて二度お楽しみ下さい。
❇100%妄想の産物です。
❇あぁ~今日も頑張った、もう寝ようって頃にお気軽にお読み下さい。
私も、あぁ~今日も妄想海岸泳ぎ切った、もう寝ようって頃に書いてます。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
性癖の館
正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる