20 / 20
第20話
しおりを挟む
マロンとウサギ獣人は中年男性を連れて俺の横に来る。
ジリジリと男達が迫って来る。
その中には俺が手を捻じ切ったブブガル達も混じっている。
その手にはどす黒い色をした液体が塗られたナイフ。
……毒か?
そして、嫌らしい視線の先には、マロン。
……剣を持つ手を奪ったところで、反対の手を使う。
恐らくこういう連中は、両手を奪ったところで、口を使い、足を使い、人を使い、襲ってくるのだろう。
俺の認識は、未だに甘すぎるようだ。
この世界ではもっと楽しく生きるつもりであったが……。
ウサギ獣人達とこの男達の関わりは知らない。
だが、俺はダンジョンマスターとは名乗っていない。
という事は、見た目が人間である俺とマロンを、人間として襲ってきているわけだ。
何の恨みも無い、見ず知らずの、俺とマロンを。
……俺だけでなく、マロンを。
今の瞬間までも、俺はやはりどこか前世の記憶をまだ引きずっていたのだろう。
いい部分もあるだろうが、そうで無い部分は、今度こそ本当に覚悟を決め、決断しなくてはいけない。
この世界のルールに対する認識を、もう一度変えよう。
剣を持つ手だけ無力化しても無駄だ。
剣を向けてきた以上は、命のやり取りだ。
そうしなければ今は生き残っても、敵意ある強者を相手にすれば、無残に死ぬだけだ。
それに逃げて自分の命は守れても、この甘い考えでは大切な者を守れない。
……分かっていた事だけど……何度だって悩んでしまう。
でも、俺だけの問題じゃないんだ。
俺が前世では感じた事のなかった、大切な繋がりある存在も関わってくる問題なんだ。
孤独だった俺の傍にいてくれる存在。
生まれた時から、愛情を向けてくる存在。
血の繋がりではないが、魂の繋がりがある存在。
この世界では、俺が持つ前世での倫理観と、大切な者を同時には守れない。
優先順位が明確に必要な世界のようだ。
だから俺も、敵意と悪意に対する明確な基準と覚悟を決めよう。
俺は拳を握り締め、決意を新たに、目をつぶり、天を仰ぐ。
「我が君?」
しばし固まっている俺に、マロンが心配そうに声をかけてくる。
俺はマロンを見て、無理やり笑顔を作る。
そして、
「大事無い。安心せよ」
と答え、ゆっくりと周りを一瞥する。
どうやら俺が覚悟を決めている間に、囲みは蟻一匹通さないほど小さくなったようだ。
先頭の男が嫌らしく笑いかけてくる。
そして、
「男は捕まえて奴隷。女は……お前ら分かってるな?」
そう先頭の男が言うと、周りの男達から嫌らしい笑いが起きる。
「我が君」
「どうした?」
「我が君がこのような連中を相手にする必要はありません。どうか私にお任せいただけないでしょうか?」
「それについては出発前に命じたはずだ。お前には我が背中を任せると」
「それは……」
「手出しは無用。この世界を知るために、今は出来るだけ我が直接行動すべき時期と判断したのだ。異を挟むな」
「出すぎた事を申しました。……申し訳ございません」
マロンが頭を下げようとするが、俺は謝罪は不要とそれを手で制する。
そんな俺とマロンのやり取りを見ていた先頭の男が、
「ふんっ! 女に縋り付かないのは良い根性だが……俺はそういう馬鹿を泣かすのが好きでな。くくくっ!」
と言うと、剣を振り上げながら、大きく口を開けて、
「かかれっ」
と言った瞬間!
ドンッ!!!
と大きな音を出しながら、首が千切れ飛んだ。
「はひっ?」
首が飛んだ男の横に居た者が、声にならない声を上げる。
他も男達も同様に、呆気にとられて微動だにしない。
「我に剣を向けた時点で、覚悟はしているのだろうな?」
俺がそう言うと、男達は弾かれたように視線を俺に戻す。
「……剣を向けたばかりか俺の大切な眷属を手にかけようとし、配下を奴隷として売ろうとしている」
俺の言葉に圧倒されたのか、男達が一歩下がる。
……やはり、この程度で威圧されるような相手か。
結果的に戦いとも言えないようなものだったが、俺は二度の命を懸けた戦闘をした。
その影響か、相手との力の差、特に明らかに実力差がある事は何となく分かるのだ。
……命がけの戦闘をした者が自然と得る、勘であろうか?
ともかく、この連中にはダンジョンモンスターであるゴーレムほどの力強さも無い。
「貴様らは我らが抵抗していなければ、どうするつもりだ? その剣で脅し、行動不能にするか? 抵抗すれば腕の一本でも落すか? それでも抵抗すれば、面倒だから殺すか? 」
俺は話しながらも、圧倒されて逃げようとする者達を『念動』で固定する。
「人の命や自由を奪いに来るのなら、己も同じ事になる覚悟をして来い。……もし、その覚悟があったなら、あんな下卑た笑いは出来まい。……屑どもめ」
言っても無駄だと思いつつも、つい言ってしまう。
……たぶん、これは仕方ない事なのだと、自分で自分に言い聞かせているのだ。
この世界は、目には目を、歯に歯にを、命のやり取りには命を……。
「我は敵対する者には容赦はしない。敵対する事すなわち、悪夢であると知れ!」
ドドドドドドッッッッッン!!!!!!!
俺の声と同時にあたりに大きな音が響き渡り、男達の首が跳ね上がる。
一瞬にして、男達の命が失われる。
……まだ幾らかの罪悪感があるが、仕方ないと自分に言い聞かせる。
そしてもう一度、俺はこの世界で生き残るのだと言い聞かせる。
そしてもう一度、……俺は大切な者を守るのだと言い聞かせる。
その為には、俺は敵対者に対して悪夢となるのだ。
そう決めたのだ。
……でも。
でも、だからこそ……。
だからこそ、身内になった者に対しては、極甘でいようとも決意した。
ジリジリと男達が迫って来る。
その中には俺が手を捻じ切ったブブガル達も混じっている。
その手にはどす黒い色をした液体が塗られたナイフ。
……毒か?
そして、嫌らしい視線の先には、マロン。
……剣を持つ手を奪ったところで、反対の手を使う。
恐らくこういう連中は、両手を奪ったところで、口を使い、足を使い、人を使い、襲ってくるのだろう。
俺の認識は、未だに甘すぎるようだ。
この世界ではもっと楽しく生きるつもりであったが……。
ウサギ獣人達とこの男達の関わりは知らない。
だが、俺はダンジョンマスターとは名乗っていない。
という事は、見た目が人間である俺とマロンを、人間として襲ってきているわけだ。
何の恨みも無い、見ず知らずの、俺とマロンを。
……俺だけでなく、マロンを。
今の瞬間までも、俺はやはりどこか前世の記憶をまだ引きずっていたのだろう。
いい部分もあるだろうが、そうで無い部分は、今度こそ本当に覚悟を決め、決断しなくてはいけない。
この世界のルールに対する認識を、もう一度変えよう。
剣を持つ手だけ無力化しても無駄だ。
剣を向けてきた以上は、命のやり取りだ。
そうしなければ今は生き残っても、敵意ある強者を相手にすれば、無残に死ぬだけだ。
それに逃げて自分の命は守れても、この甘い考えでは大切な者を守れない。
……分かっていた事だけど……何度だって悩んでしまう。
でも、俺だけの問題じゃないんだ。
俺が前世では感じた事のなかった、大切な繋がりある存在も関わってくる問題なんだ。
孤独だった俺の傍にいてくれる存在。
生まれた時から、愛情を向けてくる存在。
血の繋がりではないが、魂の繋がりがある存在。
この世界では、俺が持つ前世での倫理観と、大切な者を同時には守れない。
優先順位が明確に必要な世界のようだ。
だから俺も、敵意と悪意に対する明確な基準と覚悟を決めよう。
俺は拳を握り締め、決意を新たに、目をつぶり、天を仰ぐ。
「我が君?」
しばし固まっている俺に、マロンが心配そうに声をかけてくる。
俺はマロンを見て、無理やり笑顔を作る。
そして、
「大事無い。安心せよ」
と答え、ゆっくりと周りを一瞥する。
どうやら俺が覚悟を決めている間に、囲みは蟻一匹通さないほど小さくなったようだ。
先頭の男が嫌らしく笑いかけてくる。
そして、
「男は捕まえて奴隷。女は……お前ら分かってるな?」
そう先頭の男が言うと、周りの男達から嫌らしい笑いが起きる。
「我が君」
「どうした?」
「我が君がこのような連中を相手にする必要はありません。どうか私にお任せいただけないでしょうか?」
「それについては出発前に命じたはずだ。お前には我が背中を任せると」
「それは……」
「手出しは無用。この世界を知るために、今は出来るだけ我が直接行動すべき時期と判断したのだ。異を挟むな」
「出すぎた事を申しました。……申し訳ございません」
マロンが頭を下げようとするが、俺は謝罪は不要とそれを手で制する。
そんな俺とマロンのやり取りを見ていた先頭の男が、
「ふんっ! 女に縋り付かないのは良い根性だが……俺はそういう馬鹿を泣かすのが好きでな。くくくっ!」
と言うと、剣を振り上げながら、大きく口を開けて、
「かかれっ」
と言った瞬間!
ドンッ!!!
と大きな音を出しながら、首が千切れ飛んだ。
「はひっ?」
首が飛んだ男の横に居た者が、声にならない声を上げる。
他も男達も同様に、呆気にとられて微動だにしない。
「我に剣を向けた時点で、覚悟はしているのだろうな?」
俺がそう言うと、男達は弾かれたように視線を俺に戻す。
「……剣を向けたばかりか俺の大切な眷属を手にかけようとし、配下を奴隷として売ろうとしている」
俺の言葉に圧倒されたのか、男達が一歩下がる。
……やはり、この程度で威圧されるような相手か。
結果的に戦いとも言えないようなものだったが、俺は二度の命を懸けた戦闘をした。
その影響か、相手との力の差、特に明らかに実力差がある事は何となく分かるのだ。
……命がけの戦闘をした者が自然と得る、勘であろうか?
ともかく、この連中にはダンジョンモンスターであるゴーレムほどの力強さも無い。
「貴様らは我らが抵抗していなければ、どうするつもりだ? その剣で脅し、行動不能にするか? 抵抗すれば腕の一本でも落すか? それでも抵抗すれば、面倒だから殺すか? 」
俺は話しながらも、圧倒されて逃げようとする者達を『念動』で固定する。
「人の命や自由を奪いに来るのなら、己も同じ事になる覚悟をして来い。……もし、その覚悟があったなら、あんな下卑た笑いは出来まい。……屑どもめ」
言っても無駄だと思いつつも、つい言ってしまう。
……たぶん、これは仕方ない事なのだと、自分で自分に言い聞かせているのだ。
この世界は、目には目を、歯に歯にを、命のやり取りには命を……。
「我は敵対する者には容赦はしない。敵対する事すなわち、悪夢であると知れ!」
ドドドドドドッッッッッン!!!!!!!
俺の声と同時にあたりに大きな音が響き渡り、男達の首が跳ね上がる。
一瞬にして、男達の命が失われる。
……まだ幾らかの罪悪感があるが、仕方ないと自分に言い聞かせる。
そしてもう一度、俺はこの世界で生き残るのだと言い聞かせる。
そしてもう一度、……俺は大切な者を守るのだと言い聞かせる。
その為には、俺は敵対者に対して悪夢となるのだ。
そう決めたのだ。
……でも。
でも、だからこそ……。
だからこそ、身内になった者に対しては、極甘でいようとも決意した。
0
お気に入りに追加
334
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる