『天空の島』アリス王と眷属の騎士団~前世での行いが評価され転生する際の善行ポイントが信じられないほどあったので天空の島と城を手に入れた結果~

福冨月康

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第20話

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 マロンとウサギ獣人は中年男性を連れて俺の横に来る。
 ジリジリと男達が迫って来る。
 その中には俺が手をじ切ったブブガル達も混じっている。

 その手にはどす黒い色をした液体が塗られたナイフ。
 ……毒か?

 そして、嫌らしい視線の先には、マロン。

 ……剣を持つ手を奪ったところで、反対の手を使う。
 恐らくこういう連中は、両手を奪ったところで、口を使い、足を使い、人を使い、襲ってくるのだろう。

 俺の認識は、未だに甘すぎるようだ。
 この世界ではもっと楽しく生きるつもりであったが……。

 ウサギ獣人達とこの男達の関わりは知らない。
 だが、俺はダンジョンマスターとは名乗っていない。
 という事は、見た目が人間である俺とマロンを、人間として襲ってきているわけだ。
 何の恨みも無い、見ず知らずの、俺とマロンを。

 ……俺だけでなく、マロンを・・・・

 今の瞬間までも、俺はやはりどこか前世の記憶をまだ引きずっていたのだろう。
 いい部分もあるだろうが、そうで無い部分は、今度こそ本当に覚悟を決め、決断しなくてはいけない。

 この世界のルールに対する認識を、もう一度変えよう。
 剣を持つ手だけ無力化しても無駄だ。
 剣を向けてきた以上は、命のやり取りだ。

 そうしなければ今は生き残っても、敵意ある強者を相手にすれば、無残に死ぬだけだ。
 それに逃げて自分の命は守れても、この甘い考えでは大切な者を守れない。

 ……分かっていた事だけど……何度だって悩んでしまう。
 でも、俺だけの問題じゃないんだ。
 俺が前世では感じた事のなかった、大切な繋がりある存在も関わってくる問題なんだ。

 孤独だった俺の傍にいてくれる存在。
 生まれた時から、愛情を向けてくる存在。
 血の繋がりではないが、魂の繋がりがある存在。

 この世界では、俺が持つ前世での倫理観と、大切な者を同時には守れない。
 優先順位が明確に必要な世界のようだ。

 だから俺も、敵意と悪意に対する明確な基準と覚悟を決めよう。

 俺は拳を握り締め、決意を新たに、目をつぶり、天を仰ぐ。

「我が君?」

 しばし固まっている俺に、マロンが心配そうに声をかけてくる。
 俺はマロンを見て、無理やり笑顔を作る。
 そして、

「大事無い。安心せよ」

 と答え、ゆっくりと周りを一瞥する。

 どうやら俺が覚悟を決めている間に、囲みは蟻一匹通さないほど小さくなったようだ。
 先頭の男が嫌らしく笑いかけてくる。
 そして、

「男は捕まえて奴隷。女は……お前ら分かってるな?」

 そう先頭の男が言うと、周りの男達から嫌らしい笑いが起きる。

「我が君」

「どうした?」

「我が君がこのような連中を相手にする必要はありません。どうか私にお任せいただけないでしょうか?」

「それについては出発前に命じたはずだ。お前には我が背中を任せると」

「それは……」

「手出しは無用。この世界を知るために、今は出来るだけ我が直接行動すべき時期と判断したのだ。異を挟むな」

「出すぎた事を申しました。……申し訳ございません」

 マロンが頭を下げようとするが、俺は謝罪は不要とそれを手で制する。
 
 そんな俺とマロンのやり取りを見ていた先頭の男が、

「ふんっ! 女に縋り付かないのは良い根性だが……俺はそういう馬鹿を泣かすのが好きでな。くくくっ!」

 と言うと、剣を振り上げながら、大きく口を開けて、

「かかれっ」

 と言った瞬間!

 ドンッ!!!

 と大きな音を出しながら、首が千切れ飛んだ。

「はひっ?」

 首が飛んだ男の横に居た者が、声にならない声を上げる。
 他も男達も同様に、呆気にとられて微動だにしない。

「我に剣を向けた時点で、覚悟はしているのだろうな?」

 俺がそう言うと、男達は弾かれたように視線を俺に戻す。

「……剣を向けたばかりか俺の大切な眷属を手にかけようとし、配下を奴隷として売ろうとしている」

 俺の言葉に圧倒されたのか、男達が一歩下がる。

 ……やはり、この程度で威圧されるような相手か。
 結果的に戦いとも言えないようなものだったが、俺は二度の命を懸けた戦闘をした。

 その影響か、相手との力の差、特に明らかに実力差がある事は何となく分かるのだ。
 ……命がけの戦闘をした者が自然と得る、勘であろうか?

 ともかく、この連中にはダンジョンモンスターであるゴーレムほどの力強さも無い。

「貴様らは我らが抵抗していなければ、どうするつもりだ? その剣で脅し、行動不能にするか? 抵抗すれば腕の一本でも落すか? それでも抵抗すれば、面倒だから殺すか? 」

 俺は話しながらも、圧倒されて逃げようとする者達を『念動』で固定する。

「人の命や自由を奪いに来るのなら、己も同じ事になる覚悟をして来い。……もし、その覚悟があったなら、あんな下卑た笑いは出来まい。……屑どもめ」

 言っても無駄だと思いつつも、つい言ってしまう。
 ……たぶん、これは仕方ない事なのだと、自分で自分に言い聞かせているのだ。
 この世界は、目には目を、歯に歯にを、命のやり取りには命を……。

「我は敵対する者には容赦はしない。敵対する事すなわち、悪夢であると知れ!」

 ドドドドドドッッッッッン!!!!!!!

 俺の声と同時にあたりに大きな音が響き渡り、男達の首が跳ね上がる。

 一瞬にして、男達の命が失われる。
 ……まだ幾らかの罪悪感があるが、仕方ないと自分に言い聞かせる。

 そしてもう一度、俺はこの世界で生き残るのだと言い聞かせる。
 そしてもう一度、……俺は大切な者を守るのだと言い聞かせる。

 その為には、俺は敵対者に対して悪夢となるのだ。

 そう決めたのだ。

 ……でも。

 でも、だからこそ……。

 だからこそ、身内になった者に対しては、極甘でいようとも決意した。

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