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第18話
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ウサギ獣人はナイフが動かなくなった事に驚きつつも、油断無く俺を睨み付ける。
「何をした!」
今にも掴みかからん勢いでウサギ獣人が叫ぶ。
中年男性は意識はあるようだが、ぐったりとして動かない。
このウサギ獣人が抱えて走っていたのかな?
あの速度で?
かなりの力と脚力があるようだ。
しかしそう考えると、俺は相手が少女だからと油断していたのだろうか?
冷静に考えてみれば、遭遇する相手が俺よりも強者の可能性もあったのだ。
相手を観察するのも悪い事ではない。
が、『限定転移』などで直ぐ逃げれば良かったかも知れない。
「何をしたかを言う気は無い。ただ、お前が誰かは聞く気がある。名を名乗れ。そしてここに来た目的を言え」
マロンが傍にいる影響か、俺はこの島の主としての台詞が自然と出て来た。
それにしても、俺の庭で包丁ならぬナイフを突きつけるなど言語道断なのである。
相手が、俺とマロンを誰か知っていようが知るまいが、それは問題ではない。
例え冗談でも俺と眷属にナイフを向けたら、こちらも対応しなくてはいけない。
もっとも、そのナイフがこちらに向かないように『念動』で止めているのは俺だ。
ということは、俺が助けているようなものなのだが。
まあ今回の相手は誰かから逃げていたようだし、少女と病人に見える中年男性だ。
それにすぐにナイフに手をかけるようなことも無かった。
総合的に判断して手心を加えたに過ぎない。
ウサギ獣人は、そんな俺の手心を知る由も無いので、相変わらず睨み付けてくる。
……しかし何も答える気はないようだな。
だんだん粗野な叫び声が近づいて来た。
そろそろ行かないといけないのだが。
俺がそう思っているとマロンが、
「我が君の問いに答えよ。下郎」
小さい声ながら、心が凍り付くような冷たい声を出した。
えっ? 下郎?
……いまの、マロン? だよな?
俺はおもわずマロンを二度見する。
マロンは相手を射殺すような目つきでウサギ獣人を睨み付けている。
ウサギ獣人もこれには怯んだようだ。
俺に視線を戻し、マロンと目を合わせないようにしている。
「至高なる我が君が貴様に問うている。答えろ下郎。死にたいのか?」
再びマロン……さん? がウサギ獣人に答えを促す。
ウサギ獣人は「ヒュっ!」と声になら無い声を上げる。
敬愛する主人が無視されて怒っているのかマロンよ?
それとも、マロンって他人にはこんな感じなのか?
ともあれ、俺はマロンを怒らせないようにしよう。
しかしそろそろ時間切れだ。
「もういい、マロン」
「え? わ、我が君?」
「行くぞ」
「ご、ご質問はよろしいのでしょうか?」
「この者が誰であれ、別にさほどの興味は無い。ただ、話の出来る相手かが、知りたかっただけだ」
そうすれば、色々とこの世界の情報が聞けるかも知れない。
だが、それも無理な相手のようだ。
先程から俺を睨み付けるばかり。
もうそこまで叫び声も聞こえているし、揉め事に俺から巻き込まれたい訳でもない。
俺はナイフにかけていた『念動』を解いて、マロンの手をとる。
そして『限定転移』を行使しようとした時、
「アズナ達はあんたが殺った訳じゃないのね?」
ウサギ獣人が問いかけてくる。
「問うているのは我だ。質問に質問で返すな」
「私が先にアズナ達の事を聞いた!」
「それについては、我らではないと言ったはずだ」
俺がそれだけ言うと、ウサギ獣人は「チッ」と舌を鳴らし顔を背ける。
そして、
「クソッ!」
などと拳を地面に打ち付けて悪態をついている。
が、お前その態度で大丈夫か? ウサギ獣人よ?
マロンが、『マロンさん』バージョンで怒ってるぞ?
手を繋いでいるから俺には分かっているが、ブルブル震えるほどだぞ?
ウサギ獣人の力量は何となく分かっている。
俺が『念動』でナイフの動きを止めた時、ウサギ獣人は必死にナイフを動かそうとしていた。
盗賊団の時もそうだったが、どうやら抵抗されるとその力を感じ取れるようだ。
それで思うのだが恐らくウサギ獣人の実力ではマロンには歯が立たないだろう。
まあいい、それより俺達は『限定転移』で……あ、時間切れか。
追っ手の声がする反対、すなわちウサギ獣人達がやって来た逆方向の藪が、ガサガサッと揺れる。
それと同時に男が三人現れた。
「おう、ウサギちゃん。やっと追いついたぜ、ヘヘヘッ」
「手間掛けやがって。可愛がってやるよ……って、上玉がもう一人いるじゃねーか」
「おっ! 小僧もいるな。奴隷にして売ってやるから、大人しくしてろよ」
どうやら足の速い者達が、回り込んで来たようだ。
……獣なみの賢さはあるようだ。
しかし、上玉がもう一人いるだと?
誰の事を言っている?
ウサギちゃんと一緒にいる中年の男性の事か?
もしかしてマロンの事では無いだろうな? 殺すぞ?
というか、ナイフを二本取り出してる男がいるが……。
ナイフを俺達の方に向けたら、本当にただで帰す訳には行かなくなるぞ?
最悪、犯罪奴隷的な扱いだってあるのに、分かっているのか?
話し合いなんて甘い事は言わないで、対処するって決めているのに……。
俺がそう思いつつ視線を向けると、両手にナイフを持つ男がニヤニヤと笑いながらナイフを投擲してきた。
腕をクロスするように投げた一本は中年男性の足に向かっていく。
ウサギ獣人は咄嗟に庇おうとしたが、間に合わず中年男性に刺さり、呻き声をあげる。
そして同時に、もう一本は俺に向かってきて、……俺の肩にあたる……前に、マロンが割って入ってくる!
『念動』を使って止めるつもりだったのに予定が狂った!
「マロン!」
俺は叫びつつ、咄嗟にマロンを引き倒そうとするが、間に合わない!
ナイフは飛び込んで来たマロンの肩口に突き刺さる……いや、刺さっていない!
鈍器がぶつかる『ドン』という音の後に、ナイフは地面に落ちる。
どうやら幸いな事に、マロンに着せていたローブの頑丈さでナイフが弾かれたようだ。
俺は反射的に、
「マロン!」
マロンの肩を掴み、俺の方を向かせる。
肩に手を置いて素早く確認するが、怪我も無いようだ。
……少しホッとする。
と同時に、無茶な行動をしたマロンに注意をしようと俺はマロンと目を合わせる。
が、……。
マロンの顔を見た瞬間、俺は言おうとしていた言葉を飲み込み、何も言えなくなってしまった。
俺を心配するあまりか、顔面蒼白で髪を振り乱している。
しかも、どれだけ俺を想ってくれているのだろうというほど動揺している。
さらに、
「わ、我が君。だ、大丈夫ですか?」
などと言ってくる。
マロンが割って入ったのだから、大丈夫に決まっているのに。
それでも心配だったのか?
盗賊団に襲われたときも今のように顔色を変えて一瞬で俺の下に来ていた。
……身を挺して庇うほど、俺が大切なのか?
何もなかったから良かったが、下手をすれば大怪我どころか、死んでしまったかもしれないのだ。
これはマロンの本当の想いなのか?
前世では、それほど大切に想える人には縁がなかった俺には、戸惑ってしまう純粋な想いだ。
そもそも俺は、前世で他人との繋がりの薄かった。
その俺と魂の繋がりのあるマロン。
ある意味では親的な立場であるから、本能的に大切で可愛い存在である。
ただ正直、マロンが俺を想うほど、俺がマロンを大切に想っているか分からない。
俺の気持ちを、俺が分からないのだから、マロンだって分からないだろう。
それなのに、俺を想ってくれるのか?
何の見返りも無いかもしれないのに?
なぜ出合ってそれほど時間も経っていないのに、ここまでの事が出来る?
これは親子的な愛情から来ているのか?
それとも俺に気に入られようという打算があるのか?
本当は演技なのか?
もしかしたら、俺が考え過ぎなだけで、マロンは大して何も想ってない行動の可能性もある……のか?
己の身を挺しての行動が……打算や演技、何も想ってない行動?
そんな事あり得るのか?
でも、もし本当の想いであれば、俺にはどう応えれば良いか分からない。
……こんな風に俺を想ってくれる人がいたら、どんな感じだろう……と寂しくも幸せな妄想をした事はあった。
なのに、いざ目の前にしたらどうして良いか分からない。
戸惑うだけで、心も、態度も、どう反応すべきか分からない。
「ああ。マロンのおかげで大事無い。」
「よ、よかった……」
マロンがホッとした表情で少しだけ微笑む。
俺はどうして良いか分からず、反射的に目線を逸らしてしまう。
そして付け加えるように「ああ……」とだけ短く返答する。
これ以上はどうして良いか分からない。
それに、悩んでいる時間も無い。
いま俺の視線の先には、中年男性を抱えて逃げるタイミングを計っているウサギ獣人。
そして、それを牽制しながら、俺とマロンを油断なく睨み付ける三人の男がいる。
……まずは、これをどうにかしてからの問題だ。
ナイフを放った男は中年男性にナイフが刺さっているのを見て「へへっ」と満足げに笑っている。
残りの二人は油断なく近づいてきて剣を抜く。
ナイフ男は「おいっ」と促されて、ゆっくり腰の剣を抜く。
同時に俺達の方を見て不快気に鼻を鳴らす。
マロンにどういう気持ちで接するのが正解かは正直分からない部分がある。
……もしかしたら俺は俺が一番大切で、マロンは二番以下かもしれない。
しかしそれでも、赤の他人よりは、遥かに大切な存在だ。
このナイフ男は、マロンが傷ついたかも知れない行動を行なった。
俺の中でマロンの順位が何番だろうと、それは、許されない行動である。
さらに、今度は三人そろって剣を向けてきている。
「我の庭で、我とマロンに剣を向けるな。下衆ども」
俺は自分でも聞いた事が無いような冷たい声音で男達に告げる。
と同時に『念動』を行使する。
ブチンッッッ!
嫌な音と共に、男達の剣を持つ手が捻じ切れる。
そして男達の剣が手と共に、ガシャンッと音を立てて地面に落ちた。
しかし男達は何が起きたか分からないようで、キョトンしている。
が、それも一瞬の事。
その後すぐに襲ってきた激痛で、三人ともが同時に叫び声をあげた。
「何をした!」
今にも掴みかからん勢いでウサギ獣人が叫ぶ。
中年男性は意識はあるようだが、ぐったりとして動かない。
このウサギ獣人が抱えて走っていたのかな?
あの速度で?
かなりの力と脚力があるようだ。
しかしそう考えると、俺は相手が少女だからと油断していたのだろうか?
冷静に考えてみれば、遭遇する相手が俺よりも強者の可能性もあったのだ。
相手を観察するのも悪い事ではない。
が、『限定転移』などで直ぐ逃げれば良かったかも知れない。
「何をしたかを言う気は無い。ただ、お前が誰かは聞く気がある。名を名乗れ。そしてここに来た目的を言え」
マロンが傍にいる影響か、俺はこの島の主としての台詞が自然と出て来た。
それにしても、俺の庭で包丁ならぬナイフを突きつけるなど言語道断なのである。
相手が、俺とマロンを誰か知っていようが知るまいが、それは問題ではない。
例え冗談でも俺と眷属にナイフを向けたら、こちらも対応しなくてはいけない。
もっとも、そのナイフがこちらに向かないように『念動』で止めているのは俺だ。
ということは、俺が助けているようなものなのだが。
まあ今回の相手は誰かから逃げていたようだし、少女と病人に見える中年男性だ。
それにすぐにナイフに手をかけるようなことも無かった。
総合的に判断して手心を加えたに過ぎない。
ウサギ獣人は、そんな俺の手心を知る由も無いので、相変わらず睨み付けてくる。
……しかし何も答える気はないようだな。
だんだん粗野な叫び声が近づいて来た。
そろそろ行かないといけないのだが。
俺がそう思っているとマロンが、
「我が君の問いに答えよ。下郎」
小さい声ながら、心が凍り付くような冷たい声を出した。
えっ? 下郎?
……いまの、マロン? だよな?
俺はおもわずマロンを二度見する。
マロンは相手を射殺すような目つきでウサギ獣人を睨み付けている。
ウサギ獣人もこれには怯んだようだ。
俺に視線を戻し、マロンと目を合わせないようにしている。
「至高なる我が君が貴様に問うている。答えろ下郎。死にたいのか?」
再びマロン……さん? がウサギ獣人に答えを促す。
ウサギ獣人は「ヒュっ!」と声になら無い声を上げる。
敬愛する主人が無視されて怒っているのかマロンよ?
それとも、マロンって他人にはこんな感じなのか?
ともあれ、俺はマロンを怒らせないようにしよう。
しかしそろそろ時間切れだ。
「もういい、マロン」
「え? わ、我が君?」
「行くぞ」
「ご、ご質問はよろしいのでしょうか?」
「この者が誰であれ、別にさほどの興味は無い。ただ、話の出来る相手かが、知りたかっただけだ」
そうすれば、色々とこの世界の情報が聞けるかも知れない。
だが、それも無理な相手のようだ。
先程から俺を睨み付けるばかり。
もうそこまで叫び声も聞こえているし、揉め事に俺から巻き込まれたい訳でもない。
俺はナイフにかけていた『念動』を解いて、マロンの手をとる。
そして『限定転移』を行使しようとした時、
「アズナ達はあんたが殺った訳じゃないのね?」
ウサギ獣人が問いかけてくる。
「問うているのは我だ。質問に質問で返すな」
「私が先にアズナ達の事を聞いた!」
「それについては、我らではないと言ったはずだ」
俺がそれだけ言うと、ウサギ獣人は「チッ」と舌を鳴らし顔を背ける。
そして、
「クソッ!」
などと拳を地面に打ち付けて悪態をついている。
が、お前その態度で大丈夫か? ウサギ獣人よ?
マロンが、『マロンさん』バージョンで怒ってるぞ?
手を繋いでいるから俺には分かっているが、ブルブル震えるほどだぞ?
ウサギ獣人の力量は何となく分かっている。
俺が『念動』でナイフの動きを止めた時、ウサギ獣人は必死にナイフを動かそうとしていた。
盗賊団の時もそうだったが、どうやら抵抗されるとその力を感じ取れるようだ。
それで思うのだが恐らくウサギ獣人の実力ではマロンには歯が立たないだろう。
まあいい、それより俺達は『限定転移』で……あ、時間切れか。
追っ手の声がする反対、すなわちウサギ獣人達がやって来た逆方向の藪が、ガサガサッと揺れる。
それと同時に男が三人現れた。
「おう、ウサギちゃん。やっと追いついたぜ、ヘヘヘッ」
「手間掛けやがって。可愛がってやるよ……って、上玉がもう一人いるじゃねーか」
「おっ! 小僧もいるな。奴隷にして売ってやるから、大人しくしてろよ」
どうやら足の速い者達が、回り込んで来たようだ。
……獣なみの賢さはあるようだ。
しかし、上玉がもう一人いるだと?
誰の事を言っている?
ウサギちゃんと一緒にいる中年の男性の事か?
もしかしてマロンの事では無いだろうな? 殺すぞ?
というか、ナイフを二本取り出してる男がいるが……。
ナイフを俺達の方に向けたら、本当にただで帰す訳には行かなくなるぞ?
最悪、犯罪奴隷的な扱いだってあるのに、分かっているのか?
話し合いなんて甘い事は言わないで、対処するって決めているのに……。
俺がそう思いつつ視線を向けると、両手にナイフを持つ男がニヤニヤと笑いながらナイフを投擲してきた。
腕をクロスするように投げた一本は中年男性の足に向かっていく。
ウサギ獣人は咄嗟に庇おうとしたが、間に合わず中年男性に刺さり、呻き声をあげる。
そして同時に、もう一本は俺に向かってきて、……俺の肩にあたる……前に、マロンが割って入ってくる!
『念動』を使って止めるつもりだったのに予定が狂った!
「マロン!」
俺は叫びつつ、咄嗟にマロンを引き倒そうとするが、間に合わない!
ナイフは飛び込んで来たマロンの肩口に突き刺さる……いや、刺さっていない!
鈍器がぶつかる『ドン』という音の後に、ナイフは地面に落ちる。
どうやら幸いな事に、マロンに着せていたローブの頑丈さでナイフが弾かれたようだ。
俺は反射的に、
「マロン!」
マロンの肩を掴み、俺の方を向かせる。
肩に手を置いて素早く確認するが、怪我も無いようだ。
……少しホッとする。
と同時に、無茶な行動をしたマロンに注意をしようと俺はマロンと目を合わせる。
が、……。
マロンの顔を見た瞬間、俺は言おうとしていた言葉を飲み込み、何も言えなくなってしまった。
俺を心配するあまりか、顔面蒼白で髪を振り乱している。
しかも、どれだけ俺を想ってくれているのだろうというほど動揺している。
さらに、
「わ、我が君。だ、大丈夫ですか?」
などと言ってくる。
マロンが割って入ったのだから、大丈夫に決まっているのに。
それでも心配だったのか?
盗賊団に襲われたときも今のように顔色を変えて一瞬で俺の下に来ていた。
……身を挺して庇うほど、俺が大切なのか?
何もなかったから良かったが、下手をすれば大怪我どころか、死んでしまったかもしれないのだ。
これはマロンの本当の想いなのか?
前世では、それほど大切に想える人には縁がなかった俺には、戸惑ってしまう純粋な想いだ。
そもそも俺は、前世で他人との繋がりの薄かった。
その俺と魂の繋がりのあるマロン。
ある意味では親的な立場であるから、本能的に大切で可愛い存在である。
ただ正直、マロンが俺を想うほど、俺がマロンを大切に想っているか分からない。
俺の気持ちを、俺が分からないのだから、マロンだって分からないだろう。
それなのに、俺を想ってくれるのか?
何の見返りも無いかもしれないのに?
なぜ出合ってそれほど時間も経っていないのに、ここまでの事が出来る?
これは親子的な愛情から来ているのか?
それとも俺に気に入られようという打算があるのか?
本当は演技なのか?
もしかしたら、俺が考え過ぎなだけで、マロンは大して何も想ってない行動の可能性もある……のか?
己の身を挺しての行動が……打算や演技、何も想ってない行動?
そんな事あり得るのか?
でも、もし本当の想いであれば、俺にはどう応えれば良いか分からない。
……こんな風に俺を想ってくれる人がいたら、どんな感じだろう……と寂しくも幸せな妄想をした事はあった。
なのに、いざ目の前にしたらどうして良いか分からない。
戸惑うだけで、心も、態度も、どう反応すべきか分からない。
「ああ。マロンのおかげで大事無い。」
「よ、よかった……」
マロンがホッとした表情で少しだけ微笑む。
俺はどうして良いか分からず、反射的に目線を逸らしてしまう。
そして付け加えるように「ああ……」とだけ短く返答する。
これ以上はどうして良いか分からない。
それに、悩んでいる時間も無い。
いま俺の視線の先には、中年男性を抱えて逃げるタイミングを計っているウサギ獣人。
そして、それを牽制しながら、俺とマロンを油断なく睨み付ける三人の男がいる。
……まずは、これをどうにかしてからの問題だ。
ナイフを放った男は中年男性にナイフが刺さっているのを見て「へへっ」と満足げに笑っている。
残りの二人は油断なく近づいてきて剣を抜く。
ナイフ男は「おいっ」と促されて、ゆっくり腰の剣を抜く。
同時に俺達の方を見て不快気に鼻を鳴らす。
マロンにどういう気持ちで接するのが正解かは正直分からない部分がある。
……もしかしたら俺は俺が一番大切で、マロンは二番以下かもしれない。
しかしそれでも、赤の他人よりは、遥かに大切な存在だ。
このナイフ男は、マロンが傷ついたかも知れない行動を行なった。
俺の中でマロンの順位が何番だろうと、それは、許されない行動である。
さらに、今度は三人そろって剣を向けてきている。
「我の庭で、我とマロンに剣を向けるな。下衆ども」
俺は自分でも聞いた事が無いような冷たい声音で男達に告げる。
と同時に『念動』を行使する。
ブチンッッッ!
嫌な音と共に、男達の剣を持つ手が捻じ切れる。
そして男達の剣が手と共に、ガシャンッと音を立てて地面に落ちた。
しかし男達は何が起きたか分からないようで、キョトンしている。
が、それも一瞬の事。
その後すぐに襲ってきた激痛で、三人ともが同時に叫び声をあげた。
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