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第17話

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 俺が人影の後まで近づくと、どうやら木を背にして死んでいるようだ。
 近づく間もまったく動かないので警戒したのだが、そういう訳であったようだ。

 辺りには傷ついて横たわっている者が二十人程いて、ここで争った跡がそこかしこにある。

 取り敢えず息のありそうな者を見つけて事情を聞きたい。
 マロンと手分けして探してもよかったが、不意打ちを喰らいたくも無いので二人で探す。

 慎重に調べたのでかなり時間がかかってしまった。
 しかも、結果としては、どうやらここには生きている者はいないようだ。
 遺体は男7女3くらいの割合で、鎧をつけた剣士、ローブを着た魔法使い、獣耳の獣人など様々いる。

 そして良く観察すれば、無精ヒゲや眼帯、気味の悪いマスクといった怪しいグループ。
 意外と身奇麗にして、装備品も手入れされたようなグループの二つがある。

 恐らくこの二つのグループで争ったのだろう。

 ただそれ以上は何も分からないようだ。
 これ以上ここで無為に時間を消費してもしょうがない。

 仕方ない……。
 装備品などは後でダンジョンモンスター達の取りに来させて、埋葬するか。

 でも、島で誰かが死んだ場合の所持品の相続権など、俺が考えないといけないかな?
 俺の島だから、俺が法律? なのか?
 
 まあ、他の街やダンジョンのルールを調べてからで良いか。

「他を捜しに行くぞ」

 俺は気を取り直しマロンと浮遊しようと手を差し出す。
 と、

「いたぞっ! あっちだ!」

「待てコラッ!」

「逃げんじゃねー! 可愛がってやるから大人しく捕まれ!」

 何処かの盗賊団のような、粗野な言葉遣いの声が聞こえてきた。
 どうやら誰かを追っているようだ。
 しかも声の近づき方からして、俺達の方に向かって来ている。

「我が君。誰か近づいて来ます。いかが致しましょう?」

「そうだな……」

 声はまだかすかに聞こえる程度だ。
 接触までは時間はありそうだし。

 いちど身を隠すか。
 追われている者を助けるか?

 ……追われている者が悪人では無いとも限らない。
 取り敢えず身を隠して様子を見ようか?

「行くぞ」

 俺は改めてマロンに手を差し出す。

 と、その瞬間。

 バッ! という音と共に前方の藪から男女が飛び出してきた。
 そして、

「くっ! 回り込まれたかっ!」

 と、女の方が吐き捨てる。

 回り込まれた? 追われているのはこの二人かな?
 しかし声の遠さから、まだ時間的猶予があると思ったが……。
 追われている者は存外足が速かったようだ。

 俺の計算ミスだ。
 手など繋いでないで、すぐに『浮遊』を使うべきだった。

 この世界では予想より足の速い者もいる。
 初めから想定すべき事柄だった。

 俺のように魔法で移動する者もいるしな……。

 それにしてもこの人間達。
 いや、一人はやや太り気味の中年男性で、普通の人間に見える。
 だが、もう一人は16,7歳くらいの少女で……獣人か?

 頭にはウサギ耳。
 尻には白い毛糸玉のようなポンポンな尻尾。
 股部分が抉れているバニーガールの水着。
 太ももまであるブーツ。
 首にはチョーカー。
 肘まであるごついグローブ。
 胸とパンツの部分に細工の細かい、メタリック補強。

 これはウサギ獣人か?
 それともコスプレか?

 ウサギ耳と尻尾はぴくぴくリアルに動いている。
 ウサギ獣人……だよな?

 俺がマジマジと見ている一方で、ウサギ獣人はサッと周りを見て、

「アズナ!」

 と叫ぶと遺体に駆け寄ろうとする。
 が、中年男性のほうが「ガッ」と咳をしながら血を吐いた。

「お父さん!」

 ウサギ獣人が叫びながら抱えなおす。
 中年男性には特段目立った外傷は無いように見えるが、どうしたのだろう?

 それにしても、お父さん?
 この中年男性が?
 やっぱりコスプレかな?

 俺がそんな事を考えていると、

「貴様がアズナ達を!」

 と大きな瞳を見開いて、睨みつけてくる。
 かなりの美形なので、睨まれると若干怖い。

 俺がやった訳では無いのだが、どう言えば良いだろうか?
 そもそもこのウサギ獣人が俺の味方かどうかも分からない。
 言い訳がましく説明するのも違う気がする。

「我らではないが……」

 とだけ答えた後、どうしたものかと考えていると、ウサギ獣人が腰にある大振りのナイフに手を伸ばす。
 そして、ナイフを抜き俺に向けようと手を動かした……瞬間、俺は『念動』を使う。

 それと同時に、ナイフを横に向けたままウサギ獣人の手が止まる。

「我にそれを向けないほうが良い。武器を向ければ容赦はしない」

 俺は出来るだけ冷たい声音で、ウサギ獣人にそう告げた。
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