『天空の島』アリス王と眷属の騎士団~前世での行いが評価され転生する際の善行ポイントが信じられないほどあったので天空の島と城を手に入れた結果~

福冨月康

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第16話

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 さっそく移動のために『限定転移』を使おうと思うわけだが……。
『限定』と付く所以か、『限定転移』は幾つかの制限がある。

 その一つとして、俺と一緒に移動するものに対する制限がある。
 それと言うのも転移の際に、俺に直接もしくは俺の服など間接的に触れてなくてはいけないという制限だ。

 これに関して言えばたいした制限ではないのだが……とは言え、それでも制限は制限である。
 マロンが俺から離れていては、『限定転移』で一緒に連れて行けないわけで……。

「我が手を取れ」

 と俺はマロンに手を向ける。
 するとマロンは躊躇いがちに、

「はい。我が君」

 と真っ赤な顔をしながら俺の手をとる。

 ……。

 この反応を見る限りでは、やはり恋愛の愛情かと思ってしまう。

 マロンの俺への気持ちは恋心なのか?
 俺は調子に乗って良いのか?

 しかし俺にとってマロンは、どういう対象なのだろうか?
 今のところ、やや娘に近い存在にも思えるが……。

 出会ってから時間もあまり経っていない。
 そのせいか俺自身の気持ちもよく分からない。

 恋心を抱かれても、ちょっと嬉しいような……ちょっと不安なような……戸惑うような……。
 娘でも、そうではない存在でも、大切なのは変わらないのだが。
 ……取り敢えず、今はこのままで良いか?

 『我に惚れているのか?』と聞くわけにもいかないし。
 『愛しています』などと返答されたら、もうどうして良いかわから無い。

 ……今のところは先送りにしよう……。

 それにしても美少女との行動は、一つ一つの事ででアタフタさせられる。

 大人としてもっと余裕を持って対処したいものだが……俺はその方面に関しては、いささか経験値不足だ。
 ……まあ、その辺も徐々にかな。

 俺は取り敢えずマロンの手をとり、目的の場所まで行く事にする。

 と言っても、実際は手を繋がないで、服を掴んでいても良かったのだが。
 まあ、『我が服を掴め』では何となく格好が付かなかったため手を繋ぐ。

 そして俺は『限定転移』を意識をする。
 と、その瞬間に、俺の足下で光の魔法陣が現る。
 同時に、俺が『転移』と脳内で実行を意識すると、一瞬にして景色が変わる。
 すると、

「わあっ」

 瞬時に景色が変わって、マロンが驚きつつも感心したように声を挙げる。

 その様子を見ていると、なぜだか少し誇らしい気分になる。
 どうやらマロンは天然で、主人喜ばす事が出来るようだ。

 可愛いな!
 惚れさせる気か!



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



 眷属に対する親馬鹿はともかく、ここはすでにダンジョンの外である。
 侵入者の事もある。
 モンスター達を置いてきたので、自分達で警戒しないといけないのだ。

 そのため転移場所も、島の外周部にある森の中で、開けた比較的明るい場所にした。
 何があるか分からないので、幾つかある候補のうち明るいこの場所を選んだのだ。

 しかも、この辺りはイチゴのような実をつけた木が多数あるはず。
 これを採りながら、船がある島の外周部に、ゆっくり近づく腹積もりだ。
 ったのだが、俺とマロンが目的の木の実を予定通り収穫は出来たが……。
 ……森が終わり、天空島の端まで来ても船が無い。

「どういう事だ? 『浮遊』で見てみるか」

 俺がそう言いながらマロンに手を差し出すと、

「はい」

 相変わらず恥ずかしげにマロンが手を差し出してくる。

 俺は取り敢えずマロンと手を繋いだまま『浮遊』を使う。
 どのあたりに船がいるためか見定める為だが、慎重に浮かび上がる。

 森の上に急に飛び出して、あちらから先に見つけられたくは無い。

 しかしどれほど高度を上げても、それらしきものが見えない。
 ダンジョンコアで確認した時は、この森の向こう側に見えたはず。
 この辺りで間違いないはずなのだが……。

 場所を間違えたのだろうか?
 使い慣れてない『限定転移』の座標間違い?

 ……ダンジョンマスターとして持つ本能的感覚からして、それはないと思うのだが。

 絶対とも言えない……。

 しかしふっと思ったのだが、この場面はマロンを抱いて『浮遊』すべきなのだろうか?
 普通の物語にでてくる英雄達なら『俺は彼女の腰を抱き浮かび上がった』的な場面ではなかろうか?

 と言っても、そもそも手を繋がなくても二人同時に浮かぶ事は出来るのだ。
 『限定転移』の流れで、何となく手を差し出して繋いでしまってはいるが……。
 しかも手を繋いでマロンの顔が赤くなった時点で、俺も若干意識してしまいドキドキしている……腰を抱くのは、俺の心臓的にちょっと無理。
 ……更に言うのであれば俺は物語の英雄でもないし。

 俺がそんな益体も無い事を考えていると、

「我が君」

 マロンが俺の耳元で、恥ずかしげに囁き声を掛けてくる。

「な、なんだ? 我と手を繋ぐのは恥ずかしいか?」

 いきなり耳元に来たので、動揺してつい本音で聞いてしまう。
 するとマロンは、

「と、とんでもございません……」

 と慌てて否定する。
 そうか、手を繋ぐのは良いのか。

 と、という事は?
 こ、腰を抱いて欲しいとか?
 も、もしやマロンは大人タイムか?

 でもここは、外だ。
 城内では多少気を抜いても良いが、まだ良く知らぬ世界だ。
 警戒心は高めに保ちたい。
 耳元で囁いて、そんな事をして良い場所ではない。

 というか、俺はマロンと大人タイムする気はないぞ? ……たぶん。

「ではなんだ? 今は余計な話をしている時ではないぞ?」

 やや厳しい言い方かとは思ったが、自分への戒めも込めて、ここはハッキリと言う事にした。
 まあ、自分の行動は棚に上げ、的な部分はあるが。
 俺はマロンと意味も無く手を繋いでドキドキしている……今はそんな時では無いのに。

「はい。あちらの方向に……」

 マロンが尚も小さな声で言いながら、森の先を指差す。
 どうやら侵入者がいるようだ。

 ……だから小さい声で囁いたのか。
 脳内お花畑だったのは俺だけのようだ。
 マロンは自分の仕事をしっかりしていた。

 しかも偉そうな物言いで、普通の音量のまま返答していた俺の浅はかな事たるや……。
 戒めが必要なのは俺だけのようだ。

「確かに誰かいるな。余計な話ではなかったな。すまぬな」

 そう俺が言うと、マロンは慌てて、

「と、とんでもございません。私の言い方が紛らわしかったのでございます。……申し訳ございません、我が君」

 と、しきりに頭を下げてくる。
 いや、いや、いや、本当にマロンのせいでは無いし……。

「いや、我の勘違いだ。許せ」

「勿体無いお言葉でございます……」

 マロンは深々と頭を下げる。
 ……。
 『許せ』と上から謝ったうえ、相手に深々と頭を下げられる俺。
 ……人として大丈夫なのだろうか?
 まあ、もはや人間ではないようだが。

「しかし、よく見つけたな。お前を連れてきて正解だった」

 いつまでも頭を下げているので俺がそう言うと、

「ありがとうございます、我が君」

 とマロンは嬉しそうに応える。

 その笑顔に、言った俺が動揺しつつ「うむ」とだけ言って、ゆっくり高度を落し人影に向かう。
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