関西桃産太郎

なおちか

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三日月

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太郎達は朝餉を食べ、旅の支度を整えて吉之助の家へ向かいました。
今見ている光景はいつもの村と同じで、明日もこれからも続いていくんだと太郎は思いました。吉之助の家の前に着くと、太郎は扉を叩きました。中からはつの返事が聞こえてきたので扉を開け中に入りました。

「お早うございます」太郎が挨拶すると、2人も返し、そしてわずかに沈黙が流れました。奥に座っていた一斉が立ち上がり、その右手には刀が握られています。太郎の前までゆっくりと歩いてくると、スッと刀を差し出しました。

「ありがとうございます」太郎は刀を受け取り、鞘から刃を抜き出しました。刃の側面は鏡のように綺麗で外の光に照らすと刃文が浮かび上がり、強く輝く模様は角張があり不均一で美しい物でした。

「この刀は三日月と名づけました」吉之助はそう言うと座っていた椅子に戻り、また座りました。「鬼がまた出たようですね」

「はい。松川殿が倒してくれているはずですが」

「太郎殿も行くのですか?」

「この刀ができ、村にも異変が無ければ松川殿の後を追う事になってます」

「一ノ江村やね?」はつが聞きました。

「はい。そういえば逃げてきた男はどこ行ったんですか?」太郎は質問を返しました。

「この村を抜けて遠くへ逃げると言うてたみたいやよ」はつが答えます。

「この村のモンは鬼の存在を知らん方が多い。あの男の言う事も信じてはいないでしょう。鬼なんておらん。それが1番幸せな事です。太郎殿、よろしく頼みます」吉之助は膝に両手を置いて頭を下げました。

「はい」

「あ、せや」はつが奥へ歩いて行き、おはぎや団子を持って戻ってきました。「好きやろ?おはぎも団子も。お供の子たちの分もあるし、松川はんの分もあるから届けてや」

「ありがとうございます。あいつらも喜びますし、松川殿にも必ず届けます」

はつに貰った団子やおはぎは量が多かったので、少しハナの首に下げて運んでもらう事にしました。サスケも持ちたそうにしていましたが、盗み食いの前科があるので持たせませんでした。

「それでは鬼退治に行ってきます」太郎はそう言うと吉之助らに背を向け歩き出しました。2人は太郎たちが見えなくなるまで見送りましたが、太郎たちは1度も振り返りませんでした。

「全くこっち向く事なかったなぁ」はつは笑いながら言いました。

「あぁ。鬼しか見てないんやろう」吉之助はそう言うと家の中に入ろうとしました。しかし立ち止まって、「はつ、どこに鬼がいるかわからん。せやから、いつでも逃げれる準備をしておきなさい」と言いました。

太郎たちは一ノ江村の方へ歩きました。木々を揺らす風は心地いい柔らかさで、太陽の日差しも包み込んでくれるような温かさでした。それでも警戒を怠ることなく歩いていると、突然道の脇の草がガサガサッと揺れました。

全員が2歩程距離をとり緊張が走りました。しばらく凝視していると、その草むらから出てきたのは野ウサギでした。ホッとした太郎たちは愛らしい野ウサギに癒されました。しかし、その向こうにおぞましい気配を感じ、野ウサギを見ていたその視線を上げるとこちらを見ている鬼が立っていました。


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