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松川一斉という男
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女に教えてもらった方へ歩きながら太郎はハナに話しかけました。
「ハナが喋ってるのをあの人はわからんかったみたいやな」
「うん。なんでやろ」ハナが答えます。
「うーん。ようわからんな」そう言いながら右前方に目を向けると1人の男が歩いていました。「ハナ、ちょっとあの人に話しかけてみてや」
ハナは「そこのお兄さん、こんにちは!」と話しかけました。男はチラッとハナを見ましたが驚く様子もなくそのまま歩いて行ってしまいました。「やっぱり話しかけてるってわからんみたい」
「せやなぁ。ハナと話できるのはオレだけなんかも」
「キキッ」
「いや、お前は元に戻ったから何言うてるかわからんで」
そうこうしている間に一斉の道場の前までやってきました。弟子はもういないと女が言っていましたが、確かに人の気配はなく、しんと静まり空気は凛としていました。太郎達は開いていた門から中へ入り辺りを見ましたが誰もいませんでした。
「ここで待っとって」太郎はハナ達にそう告げて1人で道場の入口の前まで歩き、一礼をしました。中を少し覗くと、剣道着と袴を身に付けた男が立っていました。入口からは男の顔は良く見えませんでしたが、痛いほど張り詰めた空気を発しているのを感じます。太郎が声を出そうと息を吸った瞬間、
「何の用や」男は全く動かずに言いました。
「え」
「じじいの所のモンが何の用や」
「じじいって、俺は守和流の・・・」
「用を言えいうとんじゃ!!」男の声が道場一杯に響きわたりました。「そんなもんわかっとる言うとんねん」
「・・・師匠より松川殿と剣を交えて来いと」
太郎の言葉を聞いた一斉は首を横に回し太郎を見ました。「真剣はそこへ置け。持って入るな。木刀はそこにあるやつならどれつこてもええ」
太郎は持っていた剣を腰から抜き、道場の外に置きました。そして、一斉に言われた通りに木刀を手にし、道場の中央の方へ歩いて行きました。無音の中で一斉が木刀をかまえました。それに合わせるように太郎もかまえます。わずかな間の後、一斉が動き2mほどあった距離が一瞬にして0になります。カンッ!と木刀が当たる音が響き、太郎は1歩下がりました。その下がった足の反動を利用し、前へ勢いよく踏み出し低い体勢をとった太郎の刀は、床すれすれから右斜め上に振りぬかれました。一斉の道着をわずかにかすめましたが、太郎の振りは空を切りました。
一斉は太郎の木刀を右斜め後ろに上体を傾け避けつつ、太郎の速さに感心しました。「なかなか」そう一斉が思った瞬間、太郎は重心をわずかに上げると、そのままもう1歩踏み込んで打ち込んでいきました。一斉は木刀で受け流すと、右方向へ飛び太郎と距離を取りました。
体勢を整え太郎と正対した一斉はじりじりと距離を詰めていきます。一斉の目が変わり太郎は殺意を肌で感じました。互いが打ち込める間合いまで来て一斉は足を止め太郎を睨みます。微動だにしない一斉ですが太郎への圧力は凄まじいもので、太郎の額から汗が滲み出てきます。一斉から出る威圧感は太郎の経験してきた稽古では感じた事の無いものでした。動きたくても動けない太郎。一斉はもう10cmほど距離を詰めます。このままではやられる。本能的にそう感じた太郎は前に打ち出そうとしました。
その瞬間、一斉も動きました。木刀同士が重なりガガッと鈍い音が鳴ります。硬くなっていた太郎は一斉の速さと力に負け後方へ押されていき、あっという間に壁に背をぶつけました。その衝撃に意識をにとられた太郎が次に状況を把握した時には天井が見えていました。一斉が足払いをし太郎は倒されていたのです。
倒れた太郎の顔の前に刃先を向けていた一斉は木刀を下ろし「お前がここに来た理由がわかったわ」そう言ってニヤッと笑いました。
「ハナが喋ってるのをあの人はわからんかったみたいやな」
「うん。なんでやろ」ハナが答えます。
「うーん。ようわからんな」そう言いながら右前方に目を向けると1人の男が歩いていました。「ハナ、ちょっとあの人に話しかけてみてや」
ハナは「そこのお兄さん、こんにちは!」と話しかけました。男はチラッとハナを見ましたが驚く様子もなくそのまま歩いて行ってしまいました。「やっぱり話しかけてるってわからんみたい」
「せやなぁ。ハナと話できるのはオレだけなんかも」
「キキッ」
「いや、お前は元に戻ったから何言うてるかわからんで」
そうこうしている間に一斉の道場の前までやってきました。弟子はもういないと女が言っていましたが、確かに人の気配はなく、しんと静まり空気は凛としていました。太郎達は開いていた門から中へ入り辺りを見ましたが誰もいませんでした。
「ここで待っとって」太郎はハナ達にそう告げて1人で道場の入口の前まで歩き、一礼をしました。中を少し覗くと、剣道着と袴を身に付けた男が立っていました。入口からは男の顔は良く見えませんでしたが、痛いほど張り詰めた空気を発しているのを感じます。太郎が声を出そうと息を吸った瞬間、
「何の用や」男は全く動かずに言いました。
「え」
「じじいの所のモンが何の用や」
「じじいって、俺は守和流の・・・」
「用を言えいうとんじゃ!!」男の声が道場一杯に響きわたりました。「そんなもんわかっとる言うとんねん」
「・・・師匠より松川殿と剣を交えて来いと」
太郎の言葉を聞いた一斉は首を横に回し太郎を見ました。「真剣はそこへ置け。持って入るな。木刀はそこにあるやつならどれつこてもええ」
太郎は持っていた剣を腰から抜き、道場の外に置きました。そして、一斉に言われた通りに木刀を手にし、道場の中央の方へ歩いて行きました。無音の中で一斉が木刀をかまえました。それに合わせるように太郎もかまえます。わずかな間の後、一斉が動き2mほどあった距離が一瞬にして0になります。カンッ!と木刀が当たる音が響き、太郎は1歩下がりました。その下がった足の反動を利用し、前へ勢いよく踏み出し低い体勢をとった太郎の刀は、床すれすれから右斜め上に振りぬかれました。一斉の道着をわずかにかすめましたが、太郎の振りは空を切りました。
一斉は太郎の木刀を右斜め後ろに上体を傾け避けつつ、太郎の速さに感心しました。「なかなか」そう一斉が思った瞬間、太郎は重心をわずかに上げると、そのままもう1歩踏み込んで打ち込んでいきました。一斉は木刀で受け流すと、右方向へ飛び太郎と距離を取りました。
体勢を整え太郎と正対した一斉はじりじりと距離を詰めていきます。一斉の目が変わり太郎は殺意を肌で感じました。互いが打ち込める間合いまで来て一斉は足を止め太郎を睨みます。微動だにしない一斉ですが太郎への圧力は凄まじいもので、太郎の額から汗が滲み出てきます。一斉から出る威圧感は太郎の経験してきた稽古では感じた事の無いものでした。動きたくても動けない太郎。一斉はもう10cmほど距離を詰めます。このままではやられる。本能的にそう感じた太郎は前に打ち出そうとしました。
その瞬間、一斉も動きました。木刀同士が重なりガガッと鈍い音が鳴ります。硬くなっていた太郎は一斉の速さと力に負け後方へ押されていき、あっという間に壁に背をぶつけました。その衝撃に意識をにとられた太郎が次に状況を把握した時には天井が見えていました。一斉が足払いをし太郎は倒されていたのです。
倒れた太郎の顔の前に刃先を向けていた一斉は木刀を下ろし「お前がここに来た理由がわかったわ」そう言ってニヤッと笑いました。
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