関西桃産太郎

なおちか

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太郎がみたものと桃石

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神主の家の布団で1時間程眠っていた太郎は目を覚ましました。

「おぉ、目覚めたか」横にいるおじいさんは言いました。その声を聞いて、囲炉裏のそばにいた神主は立ち上がり太郎の横まで来ました。

「大丈夫か」神主が太郎に聞くと、太郎は頷いて体を起こしました。

「ほんまに鬼がおった・・・」太郎は視線を1点に集中させながら言い、その言葉に驚いたおじいさんと神主は顔を見合わせました。

「鬼ってなんや」おじいさんは太郎に聞きました。

「赤い大きな化け物・・・。そいつに村が襲われてた」

「じゃあ、鬼に襲われたって書かれとったんはほんま言うんか」神主は言う。

「うん。赤い鬼が目の前に出てきた所で終わってしもたけど、お母はんは、そいつに殺されたんやと思う。」

「どんなもんを見たんや」おじいさんは聞きました。

「お母はんの記憶。お母はんの死ぬ前の記憶・・・。お父はんも殺されてもうたんや」

「お父はんも見たんか」

「うん。お母はんが見つけた時には死ぬ直前やった。最後に、お腹の子供と刀を頼むって言うてた」

「刀?」神主が聞く。

「なんか、刀を埋めた。ワシの最後のひと振りやって言うてた」

「ワシの最後のひと振りいう事は、刀工なんか」とおじいさん。

「さっきと違う紙には村の刀工の死体も横穴を掘り埋めたと書かれておった。けど、どこの場所に埋めたかはわからんし、他にも刀工がおったかもしらん」

「ほなら、調べようはないんか。他に手掛かりになるようなもんは見てないんか?」おじいさんは太郎に聞きました。

太郎は腕を組み天井を見ました。「走って、お父はん見つけて・・・。あ、なんか石があったわ」

「石?」おじいさんは首を傾ける。

「うん。お父はんの懐に入っててん。なんか見た事あるような気もするんやけど」

「うーん。石はさすがに何もわかりまへん」神主は言う。

「そうですわなぁ。石なんかその辺にぎょうさんあるし、あんまり意味はないんかもしれんな」おじいさんは言いました。

「うん。でも、お母はんの声は聞けたし、お父はんの顔も見れたから良かった」

「せやな。それで十分やな」おじいさんはそう言うと、神主に体を向けて頭を下げました。「今日はほんまに、ありがたいことでした」

「いやいや。こちらこそ、おもろい話を聞かせてもらいましたわ」

太郎とおじいさんは暗くなる前に山を下りないといけなかったので、神主に別れを告げるとあまり休むことなく歩きました。目印もたくさん作っておいたので迷う事もなく無事に家に帰る事が出来ました。おばあさんは夕食を作っている最中で、2人はつまみ食いをしようとしましたが、おばあさんに見つかり叱られました。笑いながら2人は部屋の床に座り、おばあさんに今日あった事を話しました。

「それじゃあ、太郎は150年前の赤子って事なんか?」おばあさんは質問しました。

「神主さんの言うてた事と、太郎の見たものを合わせるとそういう事になるな」おじいさんは答えました。

「凄い不思議な話やけど、こうやって太郎は生まれてこれたんや。神様に感謝せなあかんな」そう言って、おばあちゃんは神棚に向けて手を合わせました。それを見て、おじいさんも手を合わせ、太郎も同じようにしようと思い神棚に目をやった時、神棚に祀ってある桃が目に飛び込んできました。

「あ!」太郎は大きな声を出しました。「あの石!お父はんの懐に入っとったやつや!」

「あれは、石やなくて桃やで」おじいさんは言いました。

「ワイもそう思とったから気付かんかったんやけど、あれで間違いないで。お母はんが最後に自分の懐に入れとったやつや」

おじいさんは神棚の前まで行き、そっと桃石を手に取りました。「なんやようわからんな。石なんか桃なんかもわからへん」

「そんなんどっちでもええんちゃう?その中に太郎がおった事と、それが2人の形見やって事は間違いないんや。大切なもんに変わりない」おばあさんは言いました。

「まぁ、せやねんけどな。ほんじゃあ、あとは埋めた刀の事か。どこに埋めたかとかは全くわからんのやろ?」おじいさんは太郎に聞きました。

「うん。わからへん」太郎は首を横に振りました。

「今日はもうこの辺でええんちゃうか?」そう言うと、おばあさんは夕食を器に盛り付け始めました。「疲れたやろうし、飯食べて、早よ寝たらええ」
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