上 下
11 / 25
ルーハドルツ編

貴女の方がよっぽど悪女ね

しおりを挟む


「つまり、魔力強化の薬をダミクは既に購入していて、学園本部建物内の倉庫に保管されている。そして、ダミクが雇った魔術師が倉庫を守っている。そういうことね?」


 アンナはカルムから聞いた話をまとめた。


「そう。アンナは可愛い上に賢いんだね。話の理解が早くて助かるよ。」


 カルムがいつもの調子を取り戻した様子でアンナは安堵していた。


「私は、ロキと購入された薬の回収に向かう。カルムには売人との交渉を終了するよう動いてもらいたい。せっかく今あるものを処分しても新しくまた買われたらたまったものじゃないもの。」


「わかった。雇われた魔術師の詳細までは聞かされていない。くれぐれも気をつけて。」


 アンナはええ、と頷く。窓の外は日が落ちて真っ暗になっていた。


「決行する日だけど、明日にしましょうか。明日は学園が休みの日なのよね?やっぱり人目につきにくいとなると夜かしら?」


「そうだね。僕も日中は行事の準備で出ないと行けないから、夜の方が動きやすい。」


「分かった。じゃあ明日の夜にロキと学園本部に潜入するわ。」


 アンナは欠伸を噛み殺した。朝から動き回って疲労が溜まっていた。


「いづれにしてもさ、ミレイちゃんの記憶は消しちゃおうよ。」


 部屋の隅で立っているミレイの方を指差してローラが言った。ミレイが慌てて口を開く。


「待って!学長の悪事を止めるんでしょう?だったら私も協力させてほしい!
シュナン先輩には到底及ばないけれど、私も二年生の中では一番って言われてる魔術師なの。シュナン先輩、お願いします!」


 ミレイの黒い目は澄んでいて何の打算も感じられなかった。ミレイの人柄をあまり知らないアンナでも本心からの言葉だと一目でわかった。


「父さんはこの秘密を守るためならどんな手だって使ってくる。危険を伴うことだから、これ以上この件で君を巻き込むわけには……」


「承知の上です。」


 カルムの言葉を遮ってミレイが答えた。


「わかった。でもくれぐれも無理はしないでくれるかな?君みたいな綺麗な子が僕のせいで怪我をしてしまったら悲しいよ。」


「きっ、キレイって……そんなことないです!」


 あからさまに照れた様子のミレイにローラが白けた視線を投げている。


「はぁ、あの坊ちゃんはま~た息をするように口説いてる。まぁカルムがいいならアタシはいいんだけどさ。」


 アンナは内心ほくそ笑んだ。正義感の強いミレイなら、カルムの父親を止めるという方向で話が進めば協力を名乗り出てくるのではないかとアンナは予想していた。無理を押してカルムにミレイの記憶を消すのをやめさせたのはそのためだ。
 そういえば気になっていることがあったんだと、アンナは思い出した。


「ねぇ、貴女ってカルムとどういう関係なの?」


 アンナが尋ねるとローラは口元に手を当てて少し考えてから答えた。


「んとー、恋愛感情通り越して親衛隊になってる感じかな。カルムのためなら何でもするよーみたいな。学園に何人かそういう子がいるの。」


「へぇ。」


 さながらアイドルね、と思いながらアンナは乾いた返事をした。



 
✳︎✳︎✳︎✳︎



「どうして悪女である貴方が学長を止めるようなことをするの?」


 学園本部への潜入前、ミレイがアンナに尋ねてきた。協力を申し出たミレイは、アンナとロキと共に薬の回収へ向かうことになった。

 ミレイの敵意がこもった質問に、アンナはやれやれと頭を振る。


「……悪女ってどこで聞いたの?」


「どこでって、みんな噂してるし。罪を犯して脱獄してるくせにしらを切るつもり?」


「貴方はみんなの噂で言われてる悪女の話と今の私の姿を見て、そこに矛盾を感じてる訳よね。そして私のことを悪女と決めつけ、私の行動に裏があるんじゃないかって疑ってる。」


「そ、そうよ!どうせ何か企んでるんしょう!」


 人が一番残酷になるのは自分が正義だと確信した時。アンナはそんな言葉を思い出した。


「貴女はそういうものの考え方をするのね。……いいわ。貴女は私が何を企んでいるのか考え続ければいい。だけど、もし私が世間で言われるような罪を犯してなくて、今回の件もただ違法薬の蔓延を止めたいだけだとしたら、勝手に私を悪者呼ばわりした貴方の方がとんだ悪女ね。」


 ミレイは馬鹿にしたように笑う。


「はっ?何それ?
悪女って言われたくなくて必死なのね……!」


 もっと言い返してくるかと思ったけれど、ミレイはそれきり何も言ってこなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...