奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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平和

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目の前で寝息を立てている少女。
さっきまでのテンションマックスではしゃいでいたから疲れたんだろう。なんせ騎士ごっこで一時間程部屋の中を走り回ったのに加えほぼずっと話してたのだ。
私は訓練をしてるからまだしもまだまだ体が成長しきっていない五歳児にはきついだろう。むしろよくもったなという感じだ。

マントを脱いでかけてあげる。少し身動ぎしたから起こしたかとドキッとしたが寝返りをうっただけだったらしく起きる気配はない。
そっと息をついて私も床に寝そべる。

白の天井に小さい染みを見つけてそれを見ながら今までのことを思い返す。今まで余り思い返す機会とか無かったから。改めて思い返すと色々あったな。一年前の私に今の私の現状を伝えたらきっと信じないだろうな。

それぐらいこの一年で生活が劇的に変化した。美味しい食べ物を好きなだけ食べれる。ふかふかのベットでほぼ毎日決まった時間に寝ることができる。怪我をしたら手当てして貰える。自分の意見を言っても許される。それが反映される。

こんな生活を送っていいのだろうか。疑問に思うと同時に少し怖い。
もしも元の生活に戻ったら…この素敵な生活が壊されたら。奴隷のチョーカーを見るたびに私はまだ解放されていないのだと実感する。
お前のいるべきところは此処ではないのだと。お前には従うべき主人がいてそれに歯向かうことなど許されないのだと。心に訴えかけてくる。

だからこういう時。一人でゆっくり考え事をしている時。此処にいてもいいのか。私にはこの生活を送る権利なんて無いはずなんじゃないか。だってもしその権利があるって認めたら…何て馬鹿馬鹿しいんだよ。
私が、私達奴隷が頑張って…命を削って生きてきた今までの人生は何の意味があるんだよ。何の意味もなく命を削って、亡くして…そんな人生無駄だってことかよ。私達の人生は何の価値もなかったってことかよ。

こんなこと今更考えても仕方ないし、私は彼らを…今だ解放されていない同胞達を少しでも救いたい。でも行動するのは今ではないから。今も失われている命に目を背けてやれることをやっている。その"やれること"が間違いでないことを祈りながら。

…今は時ではないけれど。その時が来たら私も…解放されるのだろうか。あわよくば…いつ戻されるのかという漠然とした不安から早く逃れたい…このチョーカーが私の首に鎮座している以上私の身分は奴隷のままなのだから。私だけではない。リンさんのことも…解放したいな。

「…ん…おね、ちゃん?」

「リアちゃん。起きた?」

「うん!…これ、お姉ちゃんのマント?ありがとう!」

「いいんだよ。風邪引いたら大変だからね」

リアちゃんが起きた。ちょっとネガティブになっていた事がわかったのだろうか。少し不安そうな顔をしている。
子供は案外そういう事にすぐ気付くと聞いていたが本当だったんだな。さっきまでの気持ちを押し隠すようにリアちゃんの頭をそっと撫でれば目を細めながら笑顔で受け入れてくれる。

「なんかお姉ちゃん、ママみたい!」

「…リアちゃんのお母さんもこうやって撫でてくれたの?」

「うん!ママね。とっても優しいんだよ!美味しいご飯も毎日作ってくれるし、寂しい時は一緒に寝てくれるの!」

「…そっか」

頭の中がハテナで埋まってる。
どういう事だ?リアちゃんの母親はリアちゃんに酷いことをしているのではないか?ご飯も用意して一緒に寝て…なのに暴力を振るうなんて…母親はリアちゃんの事どう思っているんだ?
大切だと思っているなら暴力を振るう訳ないし…暴力を振るう程嫌いなのであれば態々リアちゃんが寂しがっている時一緒に寝るだろうか?

「…リアちゃんはお母さんの事好きなんだね」

「うん!大好きだよ!特にね!リアが平仮名書けるようになった時とかはね、大好きなオムライス作ってくれるの!ママのオムライス超超超美味しいんだよ!」

「そっか。私も食べてみたいな~」

「いつか一緒に食べよ!ママに言ったら作ってくれると思うよ!」

「そっか…楽しみにしてるね」

本当に訳が分からない。
今のところ考えられる中で一番可能性が高いのはリアちゃんの母親の人格が別にある解離性同一症…俗に言う多重人格者であるということだ。
ただそうだったらリアちゃんの母親は何で昨日や一昨日の取り調べの時何も言わなかったんだ?仕方無いことで済むわけではないが理由が理由ならこちらもそれなりの配慮はするのに。

「じゃあまた来るね」

「来てくれてありがと!またね!」

見送ってもらうのは申し訳なかったので部屋の中で別れを済まして部屋を出る。施設の人に挨拶を済ましてまた来ることを伝えて敷地を出る。予定より滞在時間が長くなってしまったが優しく見送ってくれた施設の人に感謝しつつ本部に戻る。
戻ったらさっきの事報告書に書かないとな。バッジを貸したことを怒られるかもしれないという不安よりリアちゃんの母親の事が気になりすぎて本部に向かう足を早めるのだった。
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