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資料室にて
しおりを挟む「…失礼します」
時間がギリギリだからか資料室には誰もいなかった。そもそも資料室に立ち寄る人なんて殆どいないのだが。いるとしてもこんな施錠ギリギリの時間に来るなんて私ぐらいだろう。どう考えても明日にきた方が余裕もって探せるし。
資料を持ち出すには管理者の許可をとらないといけない。管理者は大体資料室の隣の部屋にいるからいいんだけど、問題は目的の資料が時間内に見つかるかどうかだ。
どのあたりにどの資料があるかはなんとなく頭に入ってるから大丈夫と思いたいのだが…資料といっても該当資料が沢山ありすぎて全部部屋に持って帰れない。限られた時間で最適だと思う資料を選別しないといけないのだ。
天井程まである棚にぎっしりと詰まっている資料から選別するのは苦難の技だが…やるしかないと覚悟を決め資料に手を伸ばした。
資料の選別を始めて十分後。残された時間は約十五分。手首の痛みと戦いながらも文字に目を走らせては却下していく作業を繰り返す。今のところいいと思った資料は二つ程しかない。最低でもあと二つは欲しいところだ。
「これか?…いや、違うな…これでもない…」
「…こんなのはどう?」
「あ~…もう少し細かく絞ってあるやつの方が嬉しいですね…すみません。手伝ってもらっちゃって」
「やっぱりそうだよね~…全然気にしないで。こんな時間まで大変だね。第一班も」
少し前に部屋にやってきた管理者さんも手伝ってくれる。管理者さんも一応元騎士団所属で選別作業は経験ありということだったので有り難く手伝ってもらっているのだが…それでも終わらない作業に焦りと疲れのみが募っていく。
これだと思う資料でも少し中身を読み進めるとやっぱり違っていたり…そんなことは何度もあり、それでも手を休ませるわけにはいかず黙々と作業を進める。
普段なら絶対明日に持ち越しているようなもの。それでもこんなに頑張れるのはきっとリアちゃんの輝いた笑顔を知っているから。
家まで送り届ける道中、美味しい食べ物とか好きな場所とかキラキラした笑顔で話してくれた笑顔をもう一度見たいから。あの笑顔が崩れるようなことをする人は許せないと思ったから。
人に…というか子供にあまり興味を持たない私だけど…リアちゃんの笑顔は守ってあげたいって思えたんだ。
勿論騎士という職業である以上国民を守るという義務はある。でもそうでなくても…義務とは違って…何て言うんだろうな…加護欲?みたいなものがリアちゃんを見ていると湧いてくるんだ。
私に加護欲というものがあったことに自分でも驚いているんだけど…それだけの魅力的なものをリアちゃんは持っているんだろうな。
「…これ使える…あとは…」
「これなんてどう?」
「…使えそうですね…ありがとうございます。助かりました」
「本当はもう少しあった方がいいんだろうけど…ごめんね。もう施錠の時間だから」
「いえ、本当に助かりました。ありがとうございます」
「いやいや。全然このぐらいなら」
施錠の時間一分前。ようやく最低ラインの四つの資料を集めることができた。正直無理かと思っていたけど…というか手伝ってもらってなかったら確実に無理だった。
「それじゃあ、お疲れ様でした。本当にありがとうございました」
「お疲れ様。頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
山積みになった資料の片付けをして許可証を発行してもらって資料室を出る。二分程オーバーしてしまったが優しい管理者さんでよかった。
夜中眠くなった時にってことでミント味のガムも貰ったし…管理者さん、優しいってことで相伴よかったけどこれは納得する。
気合いを入れ直しながら急ぎ目で部屋に戻った。
当たり前だが資料を探し終わって終わりではない。これはあくまで準備段階であり、これから資料を読み込んで内容を理解し、尚且つ頭に入れていかないといけないのだ。
しかも次の取り調べは明日。午前は通常通り訓練だし、準備とかもろもろの事を考えると明日調べる時間は殆どないだろう。実質今日から明日にかけてのこの夜中の時間で調べるしかないのだ。
更に厄介なことに資料室の資料は大体が専門用語とか使われてるため理解するには辞書が必須だし、時間もかかる。それをしっかり頭に入れるにはかなりの時間を要するだろう。
下手したら一睡もできないかもしれない…オールは慣れてるからいいんだけど頭がしっかり働くか不安だ。まあやるしかないからどうこう言っても仕方無いし弱音を吐いている時間があるならその時間を資料に向き合う時間に変えた方が効率的だ。
部屋に戻りシャワーや歯磨きなど基本的なことを済ませ机の前に座り、机に持ってきた資料と辞書をおく。資料一つ読んで頭に入れるのに最低でも二時間ぐらいかかるから…朝の四時までに終われたらラッキー程度に思っておこう。まあ確実にそれ以上はかかるだろうけど…睡眠時間、一時間は確保したいな。
そんな事を思いながら資料を開く。今日ははまだまだ終わらない。窓から漏れる月明かりを感じながら早速頭をフル稼働させたのであった。
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