奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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常識というもの

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リアちゃんの母親が本部に訪れてから一週間が経った。リアちゃん探しで悪化するかと思われた傷は悪化することなく順調に回復し、今では少し跡が残るぐらいになっている。

突然だが私は両親の顔を知らない。物心ついた時にはもう両親はいなかった。きっと私を生んだ時に力尽きたか若しくは用済みだと殺されたかだと思っている。
最初の主に"お前の父親はお前の母親が身籠ったと知った後すぐ自殺し、母親はお前を生んだ途端死んださ"と言われた。

だからと言って両親が死んだ理由が私だとは一ミリも思っていない。
奴隷の世界においてある程度の年齢に達した後は子供を産むことにしか価値がないとされる。逆に言えば両親は私を産むことで存在価値が確定されるのである。

確かに私を生んだことで二人が死んだことには変わりないが…私からすれば望まれてもないのに勝手に地獄に産み落とした人達という認識だ。
まあ顔も声も知らない人達を両親として認識しろという方が難しいだろう。だから私と両親はほぼほぼ他人みたいなもの。
名付け親ですらないのに血縁関係があるせいで両親を両親として認識しないといけないのだが…両親が生きていたのは過去の話。今更どうこういうのも違うだろう。

まあそういう事情もあり私は家族とか両親とか…ましてや家族問題なんてものには触れたことすらない。だから虐待と呼ばれるものが犯罪なのは知っているがそれがどこからが犯罪なのかなんて知らないし自分で判断することなんてできない。
当然自分の子供を傷つける親の気持ちなんてわからないし、自分のことを傷つける親にプレゼントを渡そうとする子供の気持ちなんてわからない。

…今回だってそうだ。捜索願を出してほしいとは思ったがそういう家庭もあるのかと頭の片隅で納得していた。少し疑問には思ったが別に大事にはならないだろうと思った。

カール班長から話を聞いた時、自分がやらかしたことに気づいた。
家族問題のこととか知らなかったでは駄目なのだとありありと実感させられた。
それと同時に不安になった。
このまま何も知らなかったら私はこういう問題にあった時何も解決できずに終わるのではないかと。今回は初めてだったからカール班長も疑問に思うことはなかっただろう。でも…私が自分の判断で犯罪を犯罪だと認識できないと…いずれこのことは違和感へ、そして疑問へと繋がっていくことだろう。

こんなことで危機を覚えるなんて…そう後悔しながら取調室へと向かう。今回は相手が一般市民ということで尋問ではなくただの質疑応答だ。
相手が答えなかったからといって暴言暴力は禁止されてるし、威圧や殺気を向けることも禁止だ。

これらをすると私達が脅迫罪や傷害罪で罪に問われることになるため注意が必要だ。これらを防ぐため質疑応答では必ず質問者と記録係の他に監視係的なものも配置され、更に監視カメラもつけられる。

監視カメラは容疑者が何か行動をおこしてもすぐ対処できるようにするためでもあるが私達騎士の監視も含んでいる。
カメラは24時間体制で冒険者ギルドで監視されており騎士が何かおこした場合ギルドが騎士団を訴えれるようになっている。
まあ一つ問題があるとすれば守秘義務を守るため監視カメラは音がのらない様になっているがそのせいで暴言に対する抑制ができないってことぐらいだ。
まあそこは仕方無いということで双方納得しているのでいいのだが。

今回私は記録係の役割になった。今回のことに深く関わっているのは主に私だがまだ新人だからという理由で質問係は免除された。
別に私的にはやってもよかったんだけどね。家族問題について詳しくないうちはやめた方がいいのだろう。珍しくカール班長から止められた。

取調室につくと既に質問係である第二班の先輩がいて資料を読んでいた。邪魔しないように席について同じく資料を読む。

五分程経った。廊下の方から叫び声がしたので先輩と目線を交わして部屋のドアを開ける。廊下を覗くと奥からリアちゃんの母親と父親、そして二人を囲んだ騎士が三人程こちらに向かって歩いていた。
さっきの叫び声はリアちゃんの母親らしい。今も甲高い声で叫んでいる。対して父親は顔色の悪い顔で項垂れながら歩いている。

正反対の二人に驚きながらも母親の方を中に向かい入れる。父親は私達のいる部屋の隣の取調室で質疑応答される。協力される可能性を加味して大体一部屋につき一人の取調室だ。

母親を質問係の先輩の向かい側の椅子に案内し、私も定位置へと戻る。因みに今回の監視係は第四班の同期だった。余り関わりはないが話したことはあったのでお互い会釈だけして仕事モードに入った。

こういうのは公平性が大事なので深くか変わっている騎士を一人いれ、残りの二人はクジでランダムに選ばれる。新人だろうが班長だろうがランダムに選ばれるため不公平にならないように徹底的に配慮していることがわかる。

未だに叫んでいるリアちゃんの母親。流石に耳が痛い。獣人で耳が良いというのも一つの要因だがそれにしては煩い。事実として人族である先輩の眉を潜めている。あからさまではないが私達の冷たい視線に気づいたのだろう。こちらを睨みながらも口を閉ざしたリアちゃんの母親。

初対面の時とはまるで違う姿にため息がでそうになる。やっぱり簡単に信用してはだめだなと思いながら記録用のペンを握り直した。
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