奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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内通者…?

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私の視界に入ってきたのは胸元に付いた黒光りするバッジ。それは私の胸元に付いているバッジと同じものだった。

「ターリスク王国、騎士団員…?」

この私達の胸元に付いているバッジはターリスク王国騎士団員が公務時に付けるバッチで、このバッチを付けていたら人が並んでいる店などに捜査に当たる際優先的に入ることが出来たり、街に入る時の手続きもスルーしたりできる、いわゆる身分証明書。

勿論ちゃんとカードの形をしている身分証を持ってはいるが、急いでいる時にわざわざカードを見せる手間が省ける。付けるか付けないかは各自の判断によるので、もし潜入捜査だったりパトロール中だったりする時はバッジを外して公務をすることもできる。

しかもこのバッジには位置情報提示機という超小型魔道具が搭載されていて、他の騎士が今どこにいるのかを半透明の画面で確認できる。逆も然りで、自分の位置情報を他の隊員に伝えることができる。
それだけではなく緊急時の無線機としても使える。対となる無線機を持っていない団員同士の連絡方法として使える。ただこれは使いきり仕様になっていて、一往復分のやり取りしかできないため、命の危険が迫っている時や、緊急の応援要請の時にしか使ってはならない。
因みに団長達が行方不明になった時、私はそのバッジを外して公務に挑んでいたため先輩達は私の居場所に確証がつかなかったのだ。

このバッジは各班、騎士歴でデザインや色が違うため、騎士団員ならバッジを見ただけでどこの班所属の何年目か、更には役職があれば役職も分かるようになっている。
因みにこのバッジ…大きさは約6cmだが、プロ職人の手によって作られたもので偽装されないように途轍もなく細かく作られているため、偽物を作るのはめっちゃ大変。
当然の事ながら、もしこのバッジを複製もしくは複製しようと準備を始めたら違法。最悪の場合死刑になる可能性がある。それだけ騎士団の持っている権力は強いってことだ。まあ、その権力の殆どは使ってないんだけど。

…まあそれだけ凄いバッジがその人の胸元に付いていたからびっくり。バッジを見ると第六班班員。騎士歴は三年目。
もしこれが偽装されたものだとしたら作った人は相当騎士団の事を知っていて、相当プロ職人なんだろう。

デザインの違いについては民間人でも分かるように街の掲示板に本物の写真入りのポスターを貼っているため、誰でも知ることができる。作れるかどうかは別として。

逆に本物だとしてもなんでこんなところにいるんだって話なんだけどね。第六班班員が来るなんて一言も聞いてないし。連絡ミスだとしてもこの時間帯に単独行動しているのはおかしい。周りは暗く、魔物が活性化する時間に突入しているのだし。

「こんばんは。あなたは…騎士団員…ですか?どうしてここに?」

「…なんだ。同じ騎士団か…いや、山賊に襲われていてな…多対一だと少し厳しくてな…逃げてたところだ」

逃げないように取り押さえながらも、本物かもしれないので丁寧に話しかける。後から到着した先輩達は一瞬で状況を理解して、バッジで位置情報を確認する。
もしこれで本物であれば、位置を表す緑の点が半透明の画面に現れる筈。

「…成る程。すまんが俺達、不法侵入者の取り締まりをしていてな…その山賊達がもし他国からの人だったら不法侵入の対象となるから、良ければ案内してくれないか?」

ガリウス先輩が話しかけ、山賊達の元へ案内してくれることに…それを横目に私はめっちゃ混乱していた。

理由は実力の相違。第六班は第五班と一緒に魔物退治を専門とした班。内容が内容なだけあって彼らは山での戦闘がめっちゃ多い…というか、九割が山。
まあ、その分山での訓練が主になるのだが…山にいる期間が長いとそれだけ山賊などに遭遇する機会も増える。その為、第五、六班は魔物だけでなく山賊退治もよくしている。
そのせいか班員のほとんどが、小型の山賊チームなら一人でも対処できるぐらいの力がある。この対処できる、とは倒せるか倒せないかではなく、もし遭遇しても逃げずに追い返せるぐらいのことを指す。

だからいくら単独とはいえ三年目の第六班班員が尻尾巻いて逃げるなんてあり得ないのだ。まあ、他の班から異動してきたばかりなら別だけど、異動してきたなら尚更単独行動は変なんだよね。

でもガリウス先輩から合図も何もないってことは本物だったってことなんだよね…偽物だったらアイコンタクトで教えてくれる筈だから。

少し…というか、めちゃくちゃ怪しいがバッジが本物である以上疑う必要はない…まあ、疑問に思う部分は沢山あるが。警戒を少し緩めようとするが…先輩達の様子を見て私は更に警戒を高める。
先輩達は警戒を緩めるどころか更に警戒を高めた。戸惑いながらも先輩達が警戒を高めているのに私だけ警戒を緩める訳にもいかない。

先輩達に聞きたいがこんな警戒しあっている中聞ける筈もない。仕方なく聞くのは諦めてその第六班班員を観察することにした。観察といっても、ただバッジで確認したり視たりするだけだが。

もう真っ暗になりつつある森の中を、火炎魔術で木を燃やさないようにしながら明かりをだし進み始めた。
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