奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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一対一

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その後何度も奇襲を仕掛けられた。
一番びびったのは昼御飯食べている時に奇襲を仕掛けてきたこと。
びびって皿ひっくり返りそうになった。
幸い先輩が笑って押さえておいてくれたのでひっくり返らなかったが。

先輩はラインハルト班長の奇襲を完全に読めるみたい。
もう立場交代してくれ。絶対先輩の方が第1班にいるべきだと思う。
そんな風に言ったら、
"でも僕達はライみたいに頭の回転速くないし…司令官としての実力なら、ライの方が上だと思うよ"
みたいなこと言われた。
あんなの訓練したら誰でもできる。そう言いたかったが、生憎この世界はそんなに甘くない。
知識だけじゃどうにもならないことなんて沢山あるのだ。いつだってマニュアル通りに動くなんて限らない。

それこそ、この間は班長が居なくて思うように指示が通らなかったりした(その大部分は私のせいなのだが)。
私がいた第1班はマシな方で、同じく班長が居なかった第4、第7班なんかは殆ど機能せずに、他の班が穴を埋めていたぐらいだ。

予測不可能な事態が起きた時、冷静さをどれだけ早く取り戻せるか。
また、どれだけ敵に自分達の情報を与えているかを判断し、その時の最適解を出す、というのは普通に訓練しただけでは習得できないことが殆どだ。
まあ、たまに訓練しただけで身に付く天才もいるらしいが、そんな人滅多にいない。

因みにその滅多にいないといわれている人が、実は騎士団本部にいるらしい。
何を隠そう、我らが総長。ジーク班長だ。
…うん。もう色々凄すぎてなにも言うことないよね。

だって考えてみてよ。
ターリスク王国に数家しかない公爵家の次男で?適正魔法が闇と光の複合魔法である月で(複合魔法は雷と月の二種類しかない)?現段階で魔族と対等に渡り合える唯一の種族である黒竜族?
しかもスペックがいいだけじゃなくて、ちゃんと成果も出している。
過去に何度かドラゴンを一対一で倒したこともあるらしい。
去年起こった内戦も、ジーク総長がいなかったら終わってたらしい。
才能ありすぎて、一部の人からは魔王って恐れられているまでもあるからね。
ちょっとはその才能分けてくれ。
ジーク総長だけで一個の短編小説出来上がりそうだよ。
何が凄いって、そういう才能も全部ジーク総長だから、で全部納得させられちゃうことなんだよね…

もう悔しいとか羨ましいとか思わないよ、ここまでくると。
手の届かない、雲の上の存在みたいなものよ。

ああ。才能が欲しい…

なんて嘆いていると、またもや奇襲が。
午前は奇襲を警戒しすぎて見学ができなかったりした。勿論その逆もあった。
でも段々慣れてきて、一日が終わる頃には警戒しながらでも色々考えれるようになってきた。
奇襲もしっかり見れるようになってきて、ちゃんと受け流せるようになった。
勿論全部できるわけではないし、ちょっとスピードが速くなると見えないのでちょっとしか実力は伸びていないが、確実に見れる範囲は広くなった……と思いたい。

今回もラインハルト班長が持ってるピコピコハンマーをスレスレで避ける。かなりスレスレのため、私の髪が揺れる。
今回は上手くいったが、距離感を間違えて普通に当たったり、受け流そうとした時に角度が上手く会わなくて力業に持っていってしまったりと、五回に一回ぐらいは失敗してる。
まあでも、最初ラインハルト班長が言ってた完璧に読めるようにする課題は、九割程出来てきたので安心している。

「大分出来るようになってきたな」

「お陰様で」

ピコピコハンマーを羽織っていた上着の中に仕舞いながら話しかけてくるラインハルト班長。
最初見た時は思わず二度見したが、三回目あたりからはもう何も考えないことにした。

「この辺で一回戦ってみるか?自分が入団してからどれだけ成長するか知るいい機会にもなるだろ」

「…完全に負け戦ですよ」

「負け戦だろうがやるんだよ。…そうだな。例えばライ。もしもお前が絶対に勝てない魔物に遭遇した。近くに逃げ場はないし、戦うしかない。そうなったときお前は戦わずして命を捨てるのか?」

「捨てません。もし勝てないとしても、そこには必ず意味がある筈です。一%でも人を襲う可能性がある魔物なら、私はその戦いを、無駄なこととは思いません」

「だろ?それと同じだ」

「え、全然状況は違いますよね」

「ん~確かに違うが、要するに、一%でも可能性があるなら足掻き続けろってことだ。一人前の騎士になるんだろ?」

「はい。勿論です」

「だったら、やるよな?この試合」

「…はい」

「んじゃ、対戦宜しく!」

「…宜しくお願いします」

「じゃあ早速移動しよっか」

ああ、嵌められた。
これが意志誘導ってやつか。上手すぎるだろ…
まあ、やると決めたのは他でもない私だからね。やりますよ。

今は訓練場の端の方にいるため、真ん中に移動する。
先輩達は見学するらしい。
端によるついでに"頑張れよ"などの激励をしてくれる。

だけど先輩。
今はその激励が一番のプレッシャーです。
ああ、最悪だよ…

痛む胃を押さえながらも向き合う。
自然と構えの状態を取り、いつでも飛び出せるように準備する。
今回は場所も広く、使用許可も下りているため、鎌を使う。
余り遣う場面がないが、自主練を欠かせずやっていたお陰で、思っていたより動けそうだ。

審判を任された先輩が、コインを弾く。
コインが地面に着いた瞬間にスタートだ。
高く高く舞い上がり、そのコインが音を立てて床に落ちた瞬間、私達は飛び出した。
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