66 / 120
実力
しおりを挟む「まあいきなりはやらないけどな。まあでも、俺とそれっぽいことはやるがな」
「はい?」
ラインハルト班長の発言に、思わず聞き返してしまった。
それも当然だろう。ラインハルト班長と言えば適正魔法が火、水、土、風、光、闇の六大魔法と呼ばれるものの中で、一番攻撃の方法が少なく、どちらかと言えば防御に適している。にも関わらず、元第1班所属、また現在第3班班長としてその地位につけているのは、防御が強いことを逆手にとった真っ向勝負を得意とし、また、誰よりも前線に出て命懸けの戦闘をしてきたことで培ったその経験値のゆえだろう。
噂では、私達の班長であるカール班長と渡り合えるほどの実力を持っているとかいないとか。
そんな凄い人と戦闘…っぽいこと?…まず作戦すら思いつかないんだが。どれだけ観察しても、隙なんて見つからないし、負ける気しかしない。
いや、ただ負けるだけでなく、負けた理由もわからず負けるだろう。
入団式の日、カール班長と戦った時はあまりわからなかったが、今思うとカール班長はあの時相当手を抜いていただろう。
使った魔法は派手だったが、それは私がどれだけ自分の実力を把握しているかを知りたかっただけだからなのだろう。ある程度成長した今だからこそ分かる。
この騎士団を束ねる班長達は皆、狂ったように強いこと。
入団してから二ヶ月半しか経っていないが、私だってそれなりに成長しているのだ。精神的にも肉体的にも成長した今、あのラインハルト班長が手を抜くとは限らない。
…というより、手を抜く方が失礼だと考えて全力でやってくる可能性だってあるのだ。
どうする?
「ふっ!なんだかんだ、この戦いを辞退するという選択肢はないんだな」
「!?」
読まれている。
私がラインハルト班長との戦いにどう挑むか考えていることも、辞退を全く考えていないことも、全て。
「もう、ここまでくると怖いですね…流石としかいいようがありません」
「そりゃどうも…で?そんなところに突っ立ってていいのかな?」
ゾワッと寒気がして半獣化しながら飛びずさる。
「へぇ流石、実戦をした人は新人でもかなり変わるんだな。多分一ヶ月前のライだったら今のよけれてないぞ」
確かに。
この間やその前の事件で実際に敵と戦ったことで得られたことは沢山ある。危機察知能力が大幅に向上したのがいい例だ。
「だが、いつまでも勘に頼ってられないぞ。直感で動くのも大事だが、それはつまり、その攻撃が読めていない証拠だ。読めていないから勘で頼る。読める幅を大きくすることで、勘に頼るレベルの高さも高くなる筈だ。まず、攻撃を完璧に読めるようにしよう。大丈夫。ライなら今日が終わる頃にはさっきの攻撃、完璧に読めるようになってると思うよ」
そういってにこりと笑うラインハルト班長
「取り敢えず、ライには第3班の訓練の見学とかしててもらって。基本自由でいいよ。その辺りは個人に任せる。だけど、訓練の見学してようと、昼休憩だろうと、いつ俺の奇襲がくるかわからない、とだけ把握しておけばオッケー。奇襲が来たら避けずに受け流す、もしくは攻撃を読みきった上で攻撃スレスレで避ける。このどちらかにしてね。もし出来なかったら、その時点でこの訓練場十周。今日の最後にまとめて走ってもらうから、宜しくね」
「…宜しくお願いします」
…成る程。第3班に行くと決まった時、先輩達が妙に同情の目を向けてきたのはこのためか。
想像の何倍も濃い一日になりそうだな。
まあ、取り敢えず待ってても奇襲は来ないし、程よく警戒しながら見学でもしますか。元々見学するのが本来の目的だからね。
ああ、これが三日間続くと思うと既に胃が痛い。
「…成る程ね」
だがそんな不安も数分もしたら大分薄れた。
というのも、訓練の見学が以外にもためになるのだ。
勿論、新人教育を終えた先輩達の訓練だからレベルが高くなるのは予想していたが、想像以上だった。
それぞれの得意分野を生かした立ち回り。
自分のだせる最大限のパワーをいかに長持ちさせるかという力のコントロール。
常日頃から様々なものと戦っているからこそ出せるオーラ。
なにもかもが、自分とはかけ離れていて、三・四年以上離れている先輩となると、もう何をしているのかもわからない。
出している技とかは基本的なものなのに、威力も速さも、私が知っているものとは全然違う。まるで、別の技を見ているようだ。
まあ、そんなことを考えていたら警戒心も少しは緩むわけで…
それをラインハルト班長が見逃す筈ないわけで…
寒気がして咄嗟にその場から飛び上がろうと思ったのに、全く足が動かなかった。
"奇襲が来たら避けずに受け流す、もしくは攻撃を読みきった上で攻撃スレスレで避ける"
ああ、ラインハルト班長がなにか小細工したのか。
そう思った時には遅く、私の体は吹っ飛ばされた。
最後の最後で咄嗟に腕でカバーしたものの、壁に打ち付けられた背中は痛いし、何より腕が痛すぎる。
骨は折れてはいないが、毎回この威力の攻撃じゃ明日は全身痛は避けられない。
前を向くとラインハルト班長はピコピコハンマーをもって私が先程まで立っていた場所にいた。
…ピコピコハンマーって人を吹き飛ばす武器なんだっけ?
にやりと笑ってこちらを見るラインハルト班長に、何を言っても通じないと察した私は、諦めて見学の続きへと戻った。
今度はしっかりと警戒心を上げて。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる