奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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実力

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「まあいきなりはやらないけどな。まあでも、俺とそれっぽいことはやるがな」

「はい?」

ラインハルト班長の発言に、思わず聞き返してしまった。

それも当然だろう。ラインハルト班長と言えば適正魔法が火、水、土、風、光、闇の六大魔法と呼ばれるものの中で、一番攻撃の方法が少なく、どちらかと言えば防御に適している。にも関わらず、元第1班所属、また現在第3班班長としてその地位につけているのは、防御が強いことを逆手にとった真っ向勝負を得意とし、また、誰よりも前線に出て命懸けの戦闘をしてきたことで培ったその経験値のゆえだろう。
噂では、私達の班長であるカール班長と渡り合えるほどの実力を持っているとかいないとか。

そんな凄い人と戦闘…っぽいこと?…まず作戦すら思いつかないんだが。どれだけ観察しても、隙なんて見つからないし、負ける気しかしない。
いや、ただ負けるだけでなく、負けた理由もわからず負けるだろう。

入団式の日、カール班長と戦った時はあまりわからなかったが、今思うとカール班長はあの時相当手を抜いていただろう。
使った魔法は派手だったが、それは私がどれだけ自分の実力を把握しているかを知りたかっただけだからなのだろう。ある程度成長した今だからこそ分かる。
この騎士団を束ねる班長達は皆、狂ったように強いこと。

入団してから二ヶ月半しか経っていないが、私だってそれなりに成長しているのだ。精神的にも肉体的にも成長した今、あの・・ラインハルト班長が手を抜くとは限らない。
…というより、手を抜く方が失礼だと考えて全力でやってくる可能性だってあるのだ。
どうする?

「ふっ!なんだかんだ、この戦いを辞退するという選択肢はないんだな」

「!?」

読まれている。
私がラインハルト班長との戦いにどう挑むか考えていることも、辞退を全く考えていないことも、全て。

「もう、ここまでくると怖いですね…流石としかいいようがありません」

「そりゃどうも…で?そんなところに突っ立ってていいのかな?」

ゾワッと寒気がして半獣化しながら飛びずさる。

「へぇ流石、実戦をした人は新人でもかなり変わるんだな。多分一ヶ月前のライだったら今のよけれてないぞ」

確かに。
この間やその前の事件で実際に敵と戦ったことで得られたことは沢山ある。危機察知能力が大幅に向上したのがいい例だ。

「だが、いつまでも勘に頼ってられないぞ。直感で動くのも大事だが、それはつまり、その攻撃が読めていない証拠だ。読めていないから勘で頼る。読める幅を大きくすることで、勘に頼るレベルの高さも高くなる筈だ。まず、攻撃を完璧に読めるようにしよう。大丈夫。ライなら今日が終わる頃にはさっきの攻撃、完璧に読めるようになってると思うよ」

そういってにこりと笑うラインハルト班長

「取り敢えず、ライには第3班の訓練の見学とかしててもらって。基本自由でいいよ。その辺りは個人に任せる。だけど、訓練の見学してようと、昼休憩だろうと、いつ俺の奇襲がくるかわからない、とだけ把握しておけばオッケー。奇襲が来たら避けずに受け流す、もしくは攻撃を読みきった上で攻撃スレスレで避ける。このどちらかにしてね。もし出来なかったら、その時点でこの訓練場十周。今日の最後にまとめて走ってもらうから、宜しくね」

「…宜しくお願いします」

…成る程。第3班に行くと決まった時、先輩達が妙に同情の目を向けてきたのはこのためか。
想像の何倍も濃い一日になりそうだな。


まあ、取り敢えず待ってても奇襲は来ないし、程よく警戒しながら見学でもしますか。元々見学するのが本来の目的だからね。
ああ、これが三日間続くと思うと既に胃が痛い。

「…成る程ね」

だがそんな不安も数分もしたら大分薄れた。

というのも、訓練の見学が以外にもためになるのだ。
勿論、新人教育を終えた先輩達の訓練だからレベルが高くなるのは予想していたが、想像以上だった。
それぞれの得意分野を生かした立ち回り。
自分のだせる最大限のパワーをいかに長持ちさせるかという力のコントロール。
常日頃から様々なものと戦っているからこそ出せるオーラ。
なにもかもが、自分とはかけ離れていて、三・四年以上離れている先輩となると、もう何をしているのかもわからない。
出している技とかは基本的なものなのに、威力も速さも、私が知っているものとは全然違う。まるで、別の技を見ているようだ。

まあ、そんなことを考えていたら警戒心も少しは緩むわけで…
それをラインハルト班長が見逃す筈ないわけで…

寒気がして咄嗟にその場から飛び上がろうと思ったのに、全く足が動かなかった。
"奇襲が来たら避けずに受け流す、もしくは攻撃を読みきった上で攻撃スレスレで避ける"
ああ、ラインハルト班長がなにか小細工したのか。
そう思った時には遅く、私の体は吹っ飛ばされた。
最後の最後で咄嗟に腕でカバーしたものの、壁に打ち付けられた背中は痛いし、何より腕が痛すぎる。
骨は折れてはいないが、毎回この威力の攻撃じゃ明日は全身痛は避けられない。

前を向くとラインハルト班長はピコピコハンマーをもって私が先程まで立っていた場所にいた。
…ピコピコハンマーって人を吹き飛ばす武器なんだっけ?

にやりと笑ってこちらを見るラインハルト班長に、何を言っても通じないと察した私は、諦めて見学の続きへと戻った。
今度はしっかりと警戒心を上げて。
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