奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

文字の大きさ
上 下
60 / 120

訓練⑥

しおりを挟む
魔物を倒せし、息を吐く。
私が最後に使った魔術はエリクトリック·ショックだ。感電させるだけの魔術だが、魔力を込めれば感電死させることもできる。魔力の消費が激しいが、さっきの一撃で仕留めるためには仕方なかったと考えている。

それにしても、怪我をしている三人をどうするかぎ問題だ。このまま続けても危ないし棄権することになるとは思うが、せめて応急措置ぐらいはしておきたい。カリナンが無線機の魔道具でベテラン騎士に伝えて貰っているので時季にくるとは思うが、何分で着くかも判らない。しかもじっくりと怪我の様子を見ると、未だに出血が止まっておらず、このままだと命の危険も出てくる。圧迫止血をしているものの、手が足りない。三人の騎士はかなり憔悴した様子で、荒い息をしている。

私は自身のマントを切り裂き、その布を手当てに使う。幸いこのマントは魔力修復がついているので新しく買う必要もない。
止血部分に布を当て、きつく縛る。これで少しはましになるだろうが、危ない状況であることには変わらない。しかも、この辺りには血が大量に散っていて、その臭いに釣られて魔物が来ても可笑しくない。カリナンも動けるとはいえ負傷しているし、無理はさせたくない。かといって移動しようにも馬もないし、三人を担ごうにも手が足りない。風魔法で運ぼうにも、二人以上の他人を運ぶなんてしたことないし、コントロールできるかもわからない。どうするか。
そんなことを思っていると、連絡し終えたようで、カリナンがこちらにやってきた。

「取り敢えず近くの安全な場所に避難してろ、だって。どうする?この辺だとここが一番安全な場所だったけど、今は血の臭いとかで危ないよね…」

「そうですね…取り敢えず三人を移動させようにも方法が…」

「だよね…でも、先輩達がいつ来るかわからない以上、いつまでもここに居座るわけにはいかないよね」

「取り敢えず、カリナンの手当てだけやってしまいましょう。見せてください。簡単な手当てならできるので」

その後、カリナンの手当てをやった後も少し考えたが、結局いい案はでず、交代で辺りの警戒をする、という結論になった。
本当はカリナンの傷が開くといけないから私一人でやる、と言ったのだが、カリナンの強い意思に負けたのだ。

三人の状態はかなり悪く、傷口から細菌が入ったのか頬が赤くなっている。額を触ると明らかに熱く、熱があることは明白だ。
カリナンに綺麗な水を出してもらい、マントをタオル代わりに額に当てているが、ちゃんとしたところで治療を受けた方がいいだろう。

数十分後。寄ってくる魔物を蹴散らし看病をしていると、遠くから馬の走る音が聞こえた。先輩達だ。
徐々にその音は近づき姿を見せたのは、ベテラン騎士の一人と、馬が二匹だった。
カリナンと顔を見合わせ、ほっと安堵する。いくら二人態勢とはいえ、いつ魔物が来てもいいように看病側に回っても気を張っていたから、かなり疲れた。途中でかなり強い魔物にも襲われ、私もカリナンもかなりの怪我を負っていた。
かなりヤバイと思っていたところに救助に来てくれたのだから、その安心感は計り知れないものだ。

三人の騎士を馬に乗せた後先輩は、三人の状態がかなり危ないということですぐに去っていった。

「ライ。ありがとう」

「こちらこそ」

私達は拳を付き合わせる。大変だったが、私一人ではやばかったし、何度もカリナンに助けられた。お礼を言うのはこっちなのだ。

「それじゃ、また後で」

「はい。また」

私達は別々の方向へと進む。あくまで今回は特別。今からは訓練のルールに乗っ取って協力プレイはやらない。次に会うのは明日の訓練終了の合図が鳴ってからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...