奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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終結

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「輸血パックを用意しろ!急げ!」

「回復役を呼べ!」

辺りが忙しなく動いているなか、私とカリナンは皆の邪魔をしないよう、部屋の隅にいた。

「……もしこれで助からなくても、ライのせいじゃないから、あまり気負わないようにね」

「……はい」

違う。違うんだよカリナン。
私がこんなにも怯えているのは、奴隷商人を殺したかもしれないとか、そんな理由じゃなくて。
"何も感じなかった私"に怯えているんだ。
奴隷商人を殺したかもしれないのに、私は全く何も感じなかった。ただ、ああ、殺しちゃったかなって思っただけ。その事に怯えているんだ。
誰かを殺すことに何の抵抗も覚えなかった私自身に。

そんな私の気持ちを知らないであろうカリナンはそっと私に付き添っていた。私を責めることもせず。
でも今の私にはそれが途轍もなく苦痛だった。いっそのこと何やっているんだと、叱って欲しい。そしたらまだ、私がやった事の重大さを身に染みて感じることが出来るだろうに。

そんなことを考えていると、どうやら治療が終わったらしい。周りの空気が少しだけ和らいだ。
その事に少し安心していると、こちらに近付いている人が2人。

「ライ、カリナン。お疲れ」

「「カール班長にラインハルト班長。お疲れ様です」」

私達に声を掛けてきたのは、私とカリナンが所属している班の班長達だ。

「カールから聞いたが……大変だったようだな。ライ達にとっては初出動だったんだろ?」

「悪いな疲れているところ。カリナンも急な呼び出しに応じてくれてありがとな」

「いえ。丁度暇していたところだったので大丈夫でしたよ」

班長達は少しだけ、何時もより私に視線を送ってくる。まあ初出動の日に人を殺しそうになったなんて、どう声を掛ければいいか判らないしね。

「そんな気にしなくても大丈夫ですよ」

「「「え」」」

「いつかこうなることは判っていましたし。寧ろ殺すことにならなかっただけましですよ」

私がこう言うと、黙るカリナンと顔を少し歪める班長達。

「ライ。お前今何歳だ」

「?15ですが」

「15の子供が一人前みたいなこと言ってんじゃねぇよ」

「……一応働いているので子供ではないのですが」

「未成年の癖に何言ってんだか。子供は子供らしくしてりゃ良いんだよ」

一見馬鹿にされたようにも取れるその言葉。
少し反論したくてそれまでうつ向き加減だった目線を班長達に移そうとした行動は、頭の上に乗ったカール班長の手に遮られた。そのまま頭を乱暴に撫でられる。

「……何するんですか」

「少しは甘えても誰も文句言わねぇと思うぞ」

そう言うとカール班長は奴隷商人が居るところに行ってしまった。

「言葉足らずだよなカールも。ま、要するに心配だってことだよ。何かあったら俺でも良いから相談しろよ。またな」

「……ありがとうございます」

乱暴に撫でられ、ぐしゃぐしゃになった髪の毛は、どこか少しだけ、暖かかった。

「ふふっ大切にされてるね~私の相方は」

「何か言いました?」

「何でも~」

「……そうですか」

どうやらこの場所は、いつの間にか私にとって初めてのかけがえのない大切な居場所になっていたらしい。
そうでないと、この胸の奥が暖かくなっている理由について、説明がつかないから。
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