奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

文字の大きさ
上 下
1 / 120

主なしの奴隷

しおりを挟む
 その日、私は歓喜した。

-嗚呼、ようやくこの"生き地獄"から解放されるーと。










 私は違法奴隷。先程私の飼い主が魔物に教われ、死亡した。
本来、飼い主が死亡した場合、殆どの奴隷は次の飼い主のところへ行くように命令されているため、自由になることはない。ただ私の飼い主は幸運なことにその命令を怠っていた。そのため私は"主なしの奴隷"となったのだ。因みに奴隷という立場を解放するためには、特殊な儀式をしなければならないので、飼い主が死亡したからといって、奴隷じゃなくなるわけではない。

 さて、ここでこの国、グラード王国について知識をまとめよう。ここ、グラード王国は東側は海、西側は他国に面しているそれなりに大きい王国だ。
身分は上から、王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、平民だ。全体の7割が平民で、子爵と男爵は平民とにた生活を送っているところが多い。

 次に種族について。この世界では色々な種族がごちゃ混ぜになっている。種族間関係なしに子供も産める。
一番多いのが人族。全体の6割を占める。多いがゆえに、人族こそがこの世界の王だ、といっている人達もいる。
二番目に多いが獣人族。全体の3割を占める。種類が一番多い種族。白猫族だったり、獅子族だったり、とにかく多い。それぞれの獣にあった特性をもつ。身体能力が高く、魔力もそれなりにある。
一番少ないのが魔族。全体の1割を占める。魔力が圧倒的に多いが、身体能力は余り高くない。ただ、この3つの種族が全力で戦った場合、勝ち残るのは魔族だ。

 最後に奴隷について。奴隷は基本的にどこの国でも違法。
前は死刑囚が死刑になるまで合法的に奴隷になることはあったが、ここ最近はそれすらも違法になった。違法の理由については主に3つある。

 1つ目の理由は、奴隷になると飼い主の命令を無視することが出来ないからだ。
たとえば、飼い主が奴隷に向かって「死ね」というだけで奴隷は死ななければならなくなる。もし言うことを聞かなかったら、奴隷は命令を遂行するまで死ぬほど痛い痛みをずっと受けなければならない。痛みがなくなる時は命令を遂行した時か、飼い主が命令を解除した時か、自分が死んだ時だ。
つまり、奴隷になった時点でその奴隷は人権を失い、飼い主の駒として生きなくてはならないのだ。その扱いは、家畜と同じかそれ以下だろう。

 2つ目の理由は、奴隷という立場を解放する条件が難しいからだ。
奴隷にするには奴隷のチョーカーを嵌めて、魔力を籠めながら契約書を書くだけ。
にも関わらず、解放するにはまず、奴隷の保有可能魔力より多い魔力を第三者が籠め、その後に奴隷が四肢の内、どれかを切り落とすことで解放が出来る。
 これ以外に解放する方法は2つほどあるが、どちらも失敗する可能性が非常に低く、しかも失敗するとほぼ100%死ぬ。
失敗しても死なない可能性があるのは今言った方法のみ。

 3つ目の理由は、奴隷になった時点でその人の名前がなくなるからだ。
この世界では名前がとても重要視される。貴族階級、王族階級になると、名前プラス家名が付け足されるが、家名よりも名前の方がよっぽど重要視される。名前がないということは奴隷、もしくはそれに準ずる人達、ということがすぐにわかる。
何故名前が重要視されるかと言うと、大昔、まだ聖女という職業がありふれていなかった時代。名前は1人ひとり神殿から授かっていたのだ。生まれてきた赤ん坊は平民だろうが貴族だろうが王族だろうが皆、神殿に行き、名前を授かる。
今ではそんな風に名前を授かることは出来ないが、大昔の

「名前は天からの授かり物だから命と同等に扱おう」

という考え方が今でも残っているのだ。
つまり、そんな大事な名前を奪うなどという行為は絶対に許されない、というわけだ。

……ここ、グラード王国を除いた国は

何故かこの国、違法奴隷を禁じている癖に奴隷商人達を野放しにしているのだ。理由は分からないが。

だから私はこの国が嫌いだ。だから私は隣国のターリスク王国に行く。その国はグラード王国よりも大きい王国で、奴隷商人達の捕獲に積極的だ。
私はそこで騎士になり、私みたいな"生まれた瞬間から奴隷"という人達を減らしたい。
……なんてことは言わない。私はそんなに善人ではない。
……というか、正直言ってさっさとこの腐りきった世界から逃げ出したい。でも……

ー誰かを助けて、自分の存在価値を見出だしてから死ぬー

ってのも、悪くない、かな。

ーあの日、自分の命を惜しまずに私を救ってくれた、あの時の少年のようにー









 とりあえず、自分の立ち位置とかも理解できたので、早速この場を離れたいのだが、ここは魔物が出る。飼い主を襲った魔物は私を見つけることなくこの場を去ったが、次会った時、また見逃してくれるかどうかはわからない。
わからない以上、まずは自分がどれだけの戦う手段を持っているのかを確かめなければならない。

「状態確認」

 そう唱えると、目の前に半透明の画面が出てくる。

名前:無し
状態:違法奴隷(主なし)、栄養失調
種族:黒狼族
年齢:十五
性別:女
魔力:256,900/256,900
装備:奴隷のチョーカー、ぼろ布
肉親関係:母 死亡(黒狼族)、父 死亡(魔族)
適性武器:鎌、投げナイフ
適性魔法:雷(火、風)
スキル:火炎魔術Lv10、暴風魔術Lv10、雷鳴魔術Lv7、空間魔術Lv10



「……まじか」
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...