886 / 1,047
【新婚旅行編】七日目:くっつきたいけれども、くっつけない理由
しおりを挟む
スラリと伸びた背丈にしなやかで長い手足、高い位置にある括れた腰。男として憧れて止まない、鍛え抜かれた筋肉質な身体。
スタイルだけでも抜群なのに、横から見たシャープな輪郭からだけでも分かるくらいに目鼻立ちのハッキリとしたお顔は整っていて華がある。
さらには優しい目元や頬骨に刻まれた渋いシワと清潔感のあるお髭が、所作からもあふれている上品さや大人な魅力を更にマシマシにしていて。
気がつけばいつも見惚れてしまっていて、眩しく感じてしまっている。そんなバアルさんのカッコよさが、魅力あふれる見た目だけではないってのは分かっていたさ。
いつも自分よりも大切な誰かを優先してしまう、優しい気遣いにあふれたところや、冷静沈着で何事にもスマートに対応出来てしまうところ。
俺よりも俺の良さを解ってくれていて、毎日色んな好きを言葉でも、行動でも伝えてくれるところ。そういった、内面のカッコよさも含めてのものだってのは。
「うー……すみません……ちょっとだけ、離れてもらってもいいですか?」
「は、い……?」
珍しくバアルさんは、ショックを受けているようだった。
それもそのハズ。顔が熱を持ち、背中の辺りが擽ったくなってしまう雰囲気。数え切れないくらいに経験した甘い空気が、俺達の間ですでに漂っているのだ。
そんな、くっつくしかないじゃん、むしろくっつきたい! っていう状況下であるにも関わらず、俺の口から出てきたお願いは真逆なもの。かつての、彼とのハグが10秒すらもたなかった時の俺ならばともかく、彼とのハグが癒しになっている現在の俺からご勘弁を願われるとは思ってもみなかったのだろう。
現に俺の視界の下の方に映っている彼は、中肉中背よりは細めな身体を、雨に濡れた子犬のように震わせている。
おまけに大きく見開かれた丸い瞳が、薄っすらと涙の膜に溺れ始めているもんだから余計に。見慣れた触角や羽ではなくて、へにょんと力なく垂れてしまった犬の耳と尻尾が見えてきてしまいそう。
っと、彼の可愛さを噛み締めている場合じゃあ。不可抗力とはいえ傷つけてしまったのに、このままではマズい。誤解を解かなければ。
「……アオイ、私が何か」
「バアルのせいじゃないよ? それに、俺だってホントは、今すぐぎゅってしてもらいたいし……」
「では、何故」
「いや、今してもらっちゃうと……もっとくっつきたくなっちゃうっていうか、キスして欲しくなっちゃうっていうか……でも、いくら中身がバアルだからって流石に自分の顔とは、その……」
そこまで伝えることが出来て、バアルさんは気がついてくれたらしかった。俺の顔を……いや、今はバアルさんの顔を両手で丁重に包み込むように触ってくれながら、丸い頬を赤く染めている。
「それは、確かに……いくら私めを通して可愛らしいアオイを見ることが出来ているとはいえ……少々、抵抗がございますね……」
「でしょ? 俺もさ、ちゃんと俺の後ろにバアルが見えてはいるんだけどさ……」
「左様で、ございましたか……」
納得したように頷いてから、バアルさんは人差し指で顎を撫でた。が、俺のと彼のでは感触が違うからだろう。戸惑うように眉間にシワを寄せ、ますます頬を染めている。
うつったのか、何だか俺までそわそわしてしまっていた。生え際から生えている触角と背中の羽が落ち着きなく動いてしまう。俺の意思に関係なく勝手にぶんぶん、ぱたぱたと動いてしまう。賑やかな音を立ててしまう。
ふと俺は、左側の壁のほとんどを覆い尽くしている鏡へと目を向けていた。おんなじタイミングでバアルさんも見ていたらしく、鏡越しに目が合う。鮮やかな緑じゃなくてオレンジっぽい瞳と。俺の姿をしているバアルさんと。
スタイルだけでも抜群なのに、横から見たシャープな輪郭からだけでも分かるくらいに目鼻立ちのハッキリとしたお顔は整っていて華がある。
さらには優しい目元や頬骨に刻まれた渋いシワと清潔感のあるお髭が、所作からもあふれている上品さや大人な魅力を更にマシマシにしていて。
気がつけばいつも見惚れてしまっていて、眩しく感じてしまっている。そんなバアルさんのカッコよさが、魅力あふれる見た目だけではないってのは分かっていたさ。
いつも自分よりも大切な誰かを優先してしまう、優しい気遣いにあふれたところや、冷静沈着で何事にもスマートに対応出来てしまうところ。
俺よりも俺の良さを解ってくれていて、毎日色んな好きを言葉でも、行動でも伝えてくれるところ。そういった、内面のカッコよさも含めてのものだってのは。
「うー……すみません……ちょっとだけ、離れてもらってもいいですか?」
「は、い……?」
珍しくバアルさんは、ショックを受けているようだった。
それもそのハズ。顔が熱を持ち、背中の辺りが擽ったくなってしまう雰囲気。数え切れないくらいに経験した甘い空気が、俺達の間ですでに漂っているのだ。
そんな、くっつくしかないじゃん、むしろくっつきたい! っていう状況下であるにも関わらず、俺の口から出てきたお願いは真逆なもの。かつての、彼とのハグが10秒すらもたなかった時の俺ならばともかく、彼とのハグが癒しになっている現在の俺からご勘弁を願われるとは思ってもみなかったのだろう。
現に俺の視界の下の方に映っている彼は、中肉中背よりは細めな身体を、雨に濡れた子犬のように震わせている。
おまけに大きく見開かれた丸い瞳が、薄っすらと涙の膜に溺れ始めているもんだから余計に。見慣れた触角や羽ではなくて、へにょんと力なく垂れてしまった犬の耳と尻尾が見えてきてしまいそう。
っと、彼の可愛さを噛み締めている場合じゃあ。不可抗力とはいえ傷つけてしまったのに、このままではマズい。誤解を解かなければ。
「……アオイ、私が何か」
「バアルのせいじゃないよ? それに、俺だってホントは、今すぐぎゅってしてもらいたいし……」
「では、何故」
「いや、今してもらっちゃうと……もっとくっつきたくなっちゃうっていうか、キスして欲しくなっちゃうっていうか……でも、いくら中身がバアルだからって流石に自分の顔とは、その……」
そこまで伝えることが出来て、バアルさんは気がついてくれたらしかった。俺の顔を……いや、今はバアルさんの顔を両手で丁重に包み込むように触ってくれながら、丸い頬を赤く染めている。
「それは、確かに……いくら私めを通して可愛らしいアオイを見ることが出来ているとはいえ……少々、抵抗がございますね……」
「でしょ? 俺もさ、ちゃんと俺の後ろにバアルが見えてはいるんだけどさ……」
「左様で、ございましたか……」
納得したように頷いてから、バアルさんは人差し指で顎を撫でた。が、俺のと彼のでは感触が違うからだろう。戸惑うように眉間にシワを寄せ、ますます頬を染めている。
うつったのか、何だか俺までそわそわしてしまっていた。生え際から生えている触角と背中の羽が落ち着きなく動いてしまう。俺の意思に関係なく勝手にぶんぶん、ぱたぱたと動いてしまう。賑やかな音を立ててしまう。
ふと俺は、左側の壁のほとんどを覆い尽くしている鏡へと目を向けていた。おんなじタイミングでバアルさんも見ていたらしく、鏡越しに目が合う。鮮やかな緑じゃなくてオレンジっぽい瞳と。俺の姿をしているバアルさんと。
9
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる