上 下
885 / 906

【新婚旅行編】七日目:……一体、何であんなにムキになってしまっていたんだろう

しおりを挟む
「でも、俺だって……俺の方が、バアルのカッコいいところ、いっぱい知ってるんだって……バアルのこと、そういう目で見ている人達に言いたくなっちゃ……っ」

 はたと目を開けた時、かち合った緑の瞳は、蕩けるように微笑んでいた。

「あ、ぅ……」

 細く長い触角を弾むようにふわふわと揺らしながら、半透明の羽をはためかせながら、バアルさんはご満悦そうに微笑んでいる。

 全然、全く、ご機嫌を損ねていらっしゃる様子はない。なんなら、さあ、遠慮なさらずに続きをどうぞ、と今にも言ってきそう。すでにヘタレな俺が顔を出しかけている状態では、続きなんてとても言える訳がないのだけれども。

「って、そもそも、今話していたのはアオニャンのことでっ……俺のことじゃ、な……っ」

 散々重ねておいて今更。強引に話しを捻じ曲げて、戻そうとしていたところで抱き締められた。

 落ち着くハーブの匂いと、大好きな温もりに包まれた途端、ささくれ立っていたのが不思議なくらいに気持ちがホッと緩んできた。

 ……一体、何であんなにムキになってしまっていたんだろう。

 この先、何があったとしても俺はバアルだけのもので、バアルは俺のもの。その事実だけは永遠に変わりやしないのに。そう誓ったのに。

「……ごめんね」

「はて、何故謝られる必要が? 寧ろ、私めは大変嬉しく存じておりますよ。やはり私めは愛されているのだと、改めて愛しい妻のお口から分からせて頂けましたので」

「……っ、もう……なんか、お腹空いちゃった」

「では、スコーンはいかがでしょうか。クリームチーズとイチゴジャムにブルーベリージャム、それからマーマレードがございますが?」

「……じゃあ、イチゴとクリームチーズがいいな」

「畏まりました」

 愛おしそうに目尻を下げ、指先に口づけてくれてから、バアルさんは何事もなかったかのようにテキパキと。二つに割ったスコーンにイチゴジャムとクリームチーズを丁寧に塗ってから挟んだ。

 香ばしそうなスコーンの間から見えている、赤と白が鮮やかだ。見ているだけで美味しそう。

「どうぞ、アオイ」

「ん……」

 差し出されたスコーンをひと齧り。頼むだけ頼んでずっと放ったらかしにしてしまっていたのにスコーンは焼き立てのよう。外はサックリと中はふわっとしている。

 保温の術がかけられていたんだろう。生地だけでも自然と口角が上がるくらいに美味しいのに、ミルク感のあるクリームチーズと甘酸っぱいイチゴジャムとが加わって更なる幸せをくれる。いくらでも食べれてしまいそう。困った美味しさだ。

 サクサクサクサクと紅茶を挟むことなく最後まで食べ終えてしまったからだろう。バアルさんは嬉しそうに目尻を下げながら、ティーセットの横に置かれたバスケットから新たなスコーンを手に取った。

「もう一つ、お召し上がりになられますか?」

「……うん、バアルが食べた後でね」

 彼の手の中からスコーンを頂戴すると、形のいい唇が擽ったそうに笑った。一緒に渋いお髭もふにゃりと笑う。

「バアルは何味がいい?」

「では、マーマレードとクリームチーズでお願い致します」

「うん、任せて」

「ありがとうございます」

 軽く指先に力を込めれば、スコーンは簡単に上下に分かれてくれた。バターの香りがふわりと鼻を擽った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...