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【新婚旅行編】七日目:アオイのカッコいいところは、この老骨めだけが分かっていれば宜しいでしょう?
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いや、まぁ、お陰でバアルーン様の新しい一面が見れたのだけれども。誓いのキスを交わした後に、ぽーっと惚けてしまっているアオニャンを愛おしそうに見つめながら、口付けるバアルーン様は滅茶苦茶カッコよかったのだけれども。
「多少は盛るっていうか、もっとカッコいいアオニャンにしてくれても良かったと思うんですけど……」
個人的なお得感はあったとはいえ、愚痴らずにはいられない。繋いでいるひと回り大きな手を、なんとはなしにニギニギと握りながら、ぶつくさ呟いてしまっていた。
「おや、そういうところが、らしいと私めは思いますが? アオニャン様の愛らしさを、より皆様にお伝えすることが出来ます故」
括れたラインが美しい首を軽く傾げながら、バアルさんが笑みを深める。応えた声は、耳だけでなく腰の辺りもそわそわしてしまうくらいに甘い。
「っ……アオニャンの、そういうところを分かってくれるのは、バアルーン様だけで十分でしょ? それよりも、バアルーン様が好きになってくれたくらいにアオニャンもカッコいいところがあるんだって、しっかり描いてくれないと」
「それこそ、必要ないのでは?」
「へ?」
穏やかなトーンで返された意味深な言葉は、妙にムキになってしまっていた俺の熱を瞬く間に収めてみせた。残ったのは続く言葉への興味だけ。
焦らすようにバアルさんは、空いている手で俺の頭をゆるりと撫でた。慈しむようにそのしなやかな指で髪を梳かれ、額に口づけられてしまうとますます鼓動が高鳴ってしまう。緩やかな笑みを形作った唇が、どこか得意気に笑みを深めた。
「アオイのカッコいいところは、この老骨めだけが分かっていれば宜しいでしょう?」
「ふぇ……」
「ただでさえ、私の愛しい妻は魅力にあふれております。その上、カッコよさまで惜しげもなく皆様へと振り撒いてしまわれては……」
バアルさんは凛々しい眉を下げ、優しい目元に刻まれているシワをますます濃くした。いかにも苦々しげに。けれども、歌うように流暢に言葉を紡ぐ口は止まらない。
「貴方様のファンが増えること自体は夫として誇らしく、喜ばしいことではございます。ですが、何方かの熱い眼差しを貴方様が受ける度に、私めが年甲斐もなく妬いてしまっていることをどうかお忘れなきよう」
指を絡めて繋いでいた手をさり気なくエスコートする形で握り直され、手の甲に口づけられてしまえば。鷲掴みにされた心臓は、ますます踊り狂うように高鳴ってしまう。もう、腑抜けた声しか出てきやしない。いつもならば。
「……分かっていただけたのであれば、何よりで」
「で、でもっ、それはお互い様っていうか……バアルの方がモテるじゃんっ」
まだ心の中で燻っていたんだろうか。またしても俺はムキになってしまっていた。何かに怯えるように目を瞑って、心の内を吐き出すように捲し立てていた。
「バアルのこと……カッコいいなって、キレイだなって、思ってくれる人が増えるのは、俺も奥さんとして誇らしいし、嬉しいよ?」
頭の中で蘇る素晴らしい結婚式。手を取り合い微笑み合うバアルーン様とアオニャン。二人を見守るヨミーン様、サターン様、レタリーンさん。グリムさんとクロウさんっぽい揃いのフードを被ったキャラクターに、レダさんや親衛隊の皆さんらしきキャラクターの姿までも。
笑顔の皆さんに囲まれて、祝福されている中で指輪を交わして、神様の炎の前で永遠を誓って。目の前で再現されていく幸せにあふれた晴れ舞台に、甘く浮かれた気分を思い出しつつも俺は気づいてしまっていた。
バアルのことを愛している俺だからこそ、分かってしまったのだ。
バアルーン様を通してバアルを見つめているであろう、いくつもの視線に。好意という熱を帯びた憧れの眼差しに。
「多少は盛るっていうか、もっとカッコいいアオニャンにしてくれても良かったと思うんですけど……」
個人的なお得感はあったとはいえ、愚痴らずにはいられない。繋いでいるひと回り大きな手を、なんとはなしにニギニギと握りながら、ぶつくさ呟いてしまっていた。
「おや、そういうところが、らしいと私めは思いますが? アオニャン様の愛らしさを、より皆様にお伝えすることが出来ます故」
括れたラインが美しい首を軽く傾げながら、バアルさんが笑みを深める。応えた声は、耳だけでなく腰の辺りもそわそわしてしまうくらいに甘い。
「っ……アオニャンの、そういうところを分かってくれるのは、バアルーン様だけで十分でしょ? それよりも、バアルーン様が好きになってくれたくらいにアオニャンもカッコいいところがあるんだって、しっかり描いてくれないと」
「それこそ、必要ないのでは?」
「へ?」
穏やかなトーンで返された意味深な言葉は、妙にムキになってしまっていた俺の熱を瞬く間に収めてみせた。残ったのは続く言葉への興味だけ。
焦らすようにバアルさんは、空いている手で俺の頭をゆるりと撫でた。慈しむようにそのしなやかな指で髪を梳かれ、額に口づけられてしまうとますます鼓動が高鳴ってしまう。緩やかな笑みを形作った唇が、どこか得意気に笑みを深めた。
「アオイのカッコいいところは、この老骨めだけが分かっていれば宜しいでしょう?」
「ふぇ……」
「ただでさえ、私の愛しい妻は魅力にあふれております。その上、カッコよさまで惜しげもなく皆様へと振り撒いてしまわれては……」
バアルさんは凛々しい眉を下げ、優しい目元に刻まれているシワをますます濃くした。いかにも苦々しげに。けれども、歌うように流暢に言葉を紡ぐ口は止まらない。
「貴方様のファンが増えること自体は夫として誇らしく、喜ばしいことではございます。ですが、何方かの熱い眼差しを貴方様が受ける度に、私めが年甲斐もなく妬いてしまっていることをどうかお忘れなきよう」
指を絡めて繋いでいた手をさり気なくエスコートする形で握り直され、手の甲に口づけられてしまえば。鷲掴みにされた心臓は、ますます踊り狂うように高鳴ってしまう。もう、腑抜けた声しか出てきやしない。いつもならば。
「……分かっていただけたのであれば、何よりで」
「で、でもっ、それはお互い様っていうか……バアルの方がモテるじゃんっ」
まだ心の中で燻っていたんだろうか。またしても俺はムキになってしまっていた。何かに怯えるように目を瞑って、心の内を吐き出すように捲し立てていた。
「バアルのこと……カッコいいなって、キレイだなって、思ってくれる人が増えるのは、俺も奥さんとして誇らしいし、嬉しいよ?」
頭の中で蘇る素晴らしい結婚式。手を取り合い微笑み合うバアルーン様とアオニャン。二人を見守るヨミーン様、サターン様、レタリーンさん。グリムさんとクロウさんっぽい揃いのフードを被ったキャラクターに、レダさんや親衛隊の皆さんらしきキャラクターの姿までも。
笑顔の皆さんに囲まれて、祝福されている中で指輪を交わして、神様の炎の前で永遠を誓って。目の前で再現されていく幸せにあふれた晴れ舞台に、甘く浮かれた気分を思い出しつつも俺は気づいてしまっていた。
バアルのことを愛している俺だからこそ、分かってしまったのだ。
バアルーン様を通してバアルを見つめているであろう、いくつもの視線に。好意という熱を帯びた憧れの眼差しに。
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