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【新婚旅行編】七日目:感化されてしまったのは、俺だけじゃなかったらしい
しおりを挟む「……ああいう風に見えていたんですね、俺達って」
漂っているのは、居心地自体は悪くはないのだけれども落ち着かない空気。いまだに胸の辺りでふわふわと渦巻いている擽ったさを吐き出すように発した俺の声は、二人っきりの静かな空気の中へと溶けていった。
「……ええ」
短く応えてからバアルさんは、俺の肩を抱き寄せてくれる。気持ちだけでなく、全身までもが余韻に浸ってしまっているからだろうか。優しい力加減だったのに、視界がぐらりと傾いていってしまう。咄嗟にバランスを取ろうとしたものの間に合わない。
「あ……っ」
ぽすんっと頬が弾力のある柔らかさに受け止められる。頼もしい長身に肩を寄りかからせてもらうどころか、服越しでも分厚さの分かる胸板へとしがみつくような体勢になってしまっていた。
「ご、ごめんな、ひゃっ」
声がひっくり返り、心音が煩く喚く。長く筋肉質な腕の中へと閉じ込められた俺を見下ろす眼差しは、丁度良かったと言わんばかり。嬉しそうに細めながらも、鮮やかな緑の瞳に妖しげな光を湛えている。
「バアル……」
水晶のように透き通った羽が、彼の広い背中を飾る四枚が俺を覆い隠すように広がっていく。曇りガラス越しに見ているかのように周りの景色がボヤケていく。
そっと顎を掴まれた。しなやかな指先に促されるように顔を上げれば、大好きな彼の微笑みしか見えなくなった。
あのアトラクションに感化されてしまったのは、夢のような晴れ舞台を思い出したのは、どうやら俺だけじゃなかったらしい。
ヨミ様達からの俺とバアルさんへのサプライズ。その為にわざわざ作って頂けたという新しいアトラクションを全身で楽しんだ俺達は、どこか二人っきりになれそうな場所を探していた。
見つけたのは、中庭のレストランとは別のレストラン。ヨミーン様が夜中にお忍びで通っているというお城の調理場をモチーフにしたという個室レストランだった。
そちらもやはり見覚えが。というか、俺とバアルさんも何度かお世話になっていた、お城の料理長であるスヴェンさんの戦場と休憩所を兼ねた場所。そちらで、スヴェンさん渾身の試作品を、俺達のウェディングケーキの味見をさせてもらっていたんだからな。
まさか、ヨミ様も通っていたとは……いや、スヴェンさんと一緒に俺でも作れる料理のレシピを考えてくれていたくらいだ。打ち合わせやら何やらで、ちょくちょく通っていたのかもしれない。
レストランに入ってからすぐ俺達を出迎えてくれてたのは、やっぱり小さなコウモリの羽を生やした子豚達。スヴェンさんのサポートをしている、優秀な助手さん達と同じ種族の子達だった。
それから、料理長であるスヴェンさんも。いや、スヴェーンさん自身も。大柄な体に黒のコックコートを纏い、焦げ茶色の尖った耳をぴこぴこ揺らしながら、ご機嫌そうに小さな鼻を鳴らす子豚達と一緒に、空いている個室へと案内してくれた。
木製の扉を開けた先、手作り感のある木のテーブルと椅子だけが占めているこじんまりとした室内は、何だか秘密基地を思わせる。
お店の内装も、調理場を広くしたようなデザインだったけど、こちらの個室もそんな感じ。壁にかけるように吊るされた使い古されたフライパンやお鍋、色んな彩りのハーブやスパイスが並べられた棚、子豚達が休めそうなクッション入りのバスケットなど。そこかしこに、スヴェーンさんと子豚達の生活が見え隠れしていた。
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