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【新婚旅行編】七日目:何も、そこまで再現してくれなくても
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メニューも、その画像を見ただけで訪れたお客さんを楽しませようとする熱意が伝わってくるものだったが、のんびりと悩む余裕すら俺達にはなく。ぱっと目についた紅茶とスコーンのセットを頼んでいた。
とはいえ、注文して間もなく届けられたというのに、今もまだテーブルの上で華やかな香りを漂わせるだけになってしまっているのだけれども。
「ん……」
柔らかな温もりと触れ合えたからだろうか、彼のハーブの匂いに包まれているからだろうか。ずっと感じていた妙な渇きが、少しだけ満たされていた。
バアルさんも、だろうか。何となく雰囲気が落ち着いているというか。いつもの調子を取り戻しつつあるというか。現に、細く長い触角はふわふわと揺れてはいるものの、俺をすっぽり隠してしまっていた羽はゆっくりと元のサイズへと戻りつつある。
「まさか、あの素晴らしい一日を貴方様とご一緒に動画で見直すよりも先に……斯様な形で追体験することになろうとは……思いもよりませんでした……」
「そう、ですね……俺もびっくりしました……」
追体験、まさにその言葉の通りだと思った。
アオニャンとバアルーン様の出会いを描きつつ、あの日起こった出来事を後にも語り継いでいくべく分かりやすくエンターテイメントに昇華させていたアトラクション。
その最後に待っていたのは、いくつもの緑のバラとオレンジのヒマワリで彩られていた真っ白な式場だった。
皆さんからの温かな拍手と祝福の声に包まれながら、バアルさんにエスコートしてもらった青いバージンロード。その道の先には、彼との永遠を誓った、青い杯に灯った白い炎が見守る祭壇まで。全てが、眩い思い出の通りに再現されていたのだ。
お陰様で、俺はアオニャンのことを別のキャラクターとして見ることが出来なくなってしまっていた。いや、まぁ、それよりも前から、ことあるごとに自分と重ねてはいたのだから、そうなってしまうのも時間の問題ではあったのだろうけど。
トドメを刺されてしまったのだ。バアルーン様とアオニャンの結婚式に参列する。そういう体のアトラクションを通して、第三者の目線で俺達の結婚式の再現を見させられたことで。それにしても。
「……何も、土壇場で俺が照れまくっちゃったところまで再現してくれなくても」
流石、当時参列席の一番前で見守ってくれていたグリムさんとクロウさんも協力して監修してくれたというところであろうか。
それは本番当日のこと。祭壇の前にてバアルさんとの誓いのキスを無事に終えたところで、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。目を開けた瞬間、つい俺は見惚れてしまっていたのだ。
本来ならば、リハーサルの通りにバアルさんと一緒に参列席へとお辞儀をして、再びヨミ様達が居る祭壇へと向き直る予定だった。だというのに、お揃いの白い儀礼服を、澄み渡る青空を切り取ったようなマントを身に纏い、柔らかく微笑むバアルさんを見つめたまま固まってしまっていたのだ。
すぐにバアルさんが機転を利かせてくれたから。俺の手を取りながら再び額に口づけてくれたことで、そういう演出だったのだと誤魔化せたから良かったものの。突然の喜びにより俺も夢見心地から引き戻されて、その後はリハーサル通りに出来たから良かったものの。
とはいえ、カッコよく二人で決めるんだと意気込んでいた俺にとっては不覚過ぎるミス。だというのに、そのシーンもまたアオニャンとバアルーン様によって完璧に再現されてしまっていたのだ。
とはいえ、注文して間もなく届けられたというのに、今もまだテーブルの上で華やかな香りを漂わせるだけになってしまっているのだけれども。
「ん……」
柔らかな温もりと触れ合えたからだろうか、彼のハーブの匂いに包まれているからだろうか。ずっと感じていた妙な渇きが、少しだけ満たされていた。
バアルさんも、だろうか。何となく雰囲気が落ち着いているというか。いつもの調子を取り戻しつつあるというか。現に、細く長い触角はふわふわと揺れてはいるものの、俺をすっぽり隠してしまっていた羽はゆっくりと元のサイズへと戻りつつある。
「まさか、あの素晴らしい一日を貴方様とご一緒に動画で見直すよりも先に……斯様な形で追体験することになろうとは……思いもよりませんでした……」
「そう、ですね……俺もびっくりしました……」
追体験、まさにその言葉の通りだと思った。
アオニャンとバアルーン様の出会いを描きつつ、あの日起こった出来事を後にも語り継いでいくべく分かりやすくエンターテイメントに昇華させていたアトラクション。
その最後に待っていたのは、いくつもの緑のバラとオレンジのヒマワリで彩られていた真っ白な式場だった。
皆さんからの温かな拍手と祝福の声に包まれながら、バアルさんにエスコートしてもらった青いバージンロード。その道の先には、彼との永遠を誓った、青い杯に灯った白い炎が見守る祭壇まで。全てが、眩い思い出の通りに再現されていたのだ。
お陰様で、俺はアオニャンのことを別のキャラクターとして見ることが出来なくなってしまっていた。いや、まぁ、それよりも前から、ことあるごとに自分と重ねてはいたのだから、そうなってしまうのも時間の問題ではあったのだろうけど。
トドメを刺されてしまったのだ。バアルーン様とアオニャンの結婚式に参列する。そういう体のアトラクションを通して、第三者の目線で俺達の結婚式の再現を見させられたことで。それにしても。
「……何も、土壇場で俺が照れまくっちゃったところまで再現してくれなくても」
流石、当時参列席の一番前で見守ってくれていたグリムさんとクロウさんも協力して監修してくれたというところであろうか。
それは本番当日のこと。祭壇の前にてバアルさんとの誓いのキスを無事に終えたところで、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。目を開けた瞬間、つい俺は見惚れてしまっていたのだ。
本来ならば、リハーサルの通りにバアルさんと一緒に参列席へとお辞儀をして、再びヨミ様達が居る祭壇へと向き直る予定だった。だというのに、お揃いの白い儀礼服を、澄み渡る青空を切り取ったようなマントを身に纏い、柔らかく微笑むバアルさんを見つめたまま固まってしまっていたのだ。
すぐにバアルさんが機転を利かせてくれたから。俺の手を取りながら再び額に口づけてくれたことで、そういう演出だったのだと誤魔化せたから良かったものの。突然の喜びにより俺も夢見心地から引き戻されて、その後はリハーサル通りに出来たから良かったものの。
とはいえ、カッコよく二人で決めるんだと意気込んでいた俺にとっては不覚過ぎるミス。だというのに、そのシーンもまたアオニャンとバアルーン様によって完璧に再現されてしまっていたのだ。
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