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【新婚旅行編】七日目:夢が広がってしまう
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「ですが、サターン様とヨミーン様のグッズも全て確保していかなければ……分身、するべきでしょうか? そちらの分野の術は、あまり得意ではないのですが……」
「えっ、バアル……分身出来ちゃうの?」
またしても俺は、そういうタイミングではないというのに尋ねてしまっていた。初めましてな彼の術に興味を惹かれてしまっていた。
けれども、そこは優しさの化身であるバアルさん。柔らかな微笑みで返してくれたんだ。
「はい。そういえば申しておりませんでしたね……申し訳ございません」
「あ、いえ、そんな……俺も今まで聞いてこなかったし」
日常生活の中で実際に見せてもらったり、魔術の授業で教えてもらったりはして……ああ、そうか。そうだった。
つい最近、新婚旅行に行く前の授業で教えてくれていたばかりじゃないか。優れた術士の中には、オリジナルの術を編み出す人もいるんだって。お城の兵士さん達が俺達に見せてくれていた、ショーみたいにド派手な術も皆さんが独自に編み出したものなんだって。
だったら、バアルさんが編み出した術なんてのもあるんだろうな。まだ俺が知らないってだけで。
「……アオイ」
わくわくとシャボン玉のように次々と浮かんでいた考えを弾けさせたのは、いつもよりトーンの低い声だった。
はたと目が合った途端に、渋いお髭を蓄えた口元に笑みが浮かぶ。緩やかに口角を持ち上げた唇が、俺の耳元に近づいてきた。
「……もしも、貴方様が望まれるならば、二人に分身した私で、存分に愛でて差し上げることも可能でございますよ?」
「ひぇ……」
淡い感覚が背筋を擽っていく。魅力的な囁きに唆され、早くも俺は願望を口走ってしまっていた。
「じゃ、じゃあ、二人のバアルからぎゅってしてもらえたり?」
「……出来ます」
「バアルに後ろから抱き締めてもらいながら、もう一人のバアルを俺の膝枕で甘やかしちゃったりも?」
「出来ます」
「ふわぁ……」
夢が広がる。広がってしまう。バアルがずっと側に居てくれるだけでも幸せだってのに。分身とはいえ、もう一人増やすことが可能だなんて。
そんな贅沢、してもらっちゃってもいいんだろうか? バチが当たっちゃったりしない?
「あっ」
バチが当たる以前の問題があるじゃん。一番大切なこと、忘れちゃってた。
「っていうか魔力は? 分身なんて高度なことするんだったら、結構な魔力を使っちゃうんじゃないの? 俺の我儘の為だけに、バアルに負担はかけられな」
きょとんと丸くなっていた瞳が、不意にゆるりと微笑んだ。
「ふっ」
「バアル……?」
「ふふっ、ふふふふふ……」
咄嗟に掴んでしまっていた幅の広い肩が震え出す。細く長い触角は弾むように揺れ、淡い光を帯びている羽も風を切るようにはためいている。
緊張の糸が、ぷつんと切れてしまったかのよう。バアルさんは無骨ながらもキレイな手で口元を覆いながら、今まで我慢していた分を一気に取り戻しているかのようにコロコロと笑っている。
「申し訳、ふふ、ございません……少々、お時間を……ふふっ、頂けると……」
「あ、うん……そりゃあ、落ち着くまでいくらでも待つけど……大丈夫?」
「大丈夫で、ふふっ、ふふふっ」
いや、大丈夫じゃないでしょ。
よっぽど、何らかのツボにクリーンヒットしてしまったんだろう。バアルさんは、その引き締まった首まで真っ赤にしてクスクスと笑みをこぼしていた。優しい瞳にも、こぼれそうなくらいの涙を浮かべてしまっている。
そんなに笑っちゃうようなこと、俺、言ったっけ?
直近の自分の発言を思い返してみたものの、それっぽいものはなさそうなんだけど。
「えっ、バアル……分身出来ちゃうの?」
またしても俺は、そういうタイミングではないというのに尋ねてしまっていた。初めましてな彼の術に興味を惹かれてしまっていた。
けれども、そこは優しさの化身であるバアルさん。柔らかな微笑みで返してくれたんだ。
「はい。そういえば申しておりませんでしたね……申し訳ございません」
「あ、いえ、そんな……俺も今まで聞いてこなかったし」
日常生活の中で実際に見せてもらったり、魔術の授業で教えてもらったりはして……ああ、そうか。そうだった。
つい最近、新婚旅行に行く前の授業で教えてくれていたばかりじゃないか。優れた術士の中には、オリジナルの術を編み出す人もいるんだって。お城の兵士さん達が俺達に見せてくれていた、ショーみたいにド派手な術も皆さんが独自に編み出したものなんだって。
だったら、バアルさんが編み出した術なんてのもあるんだろうな。まだ俺が知らないってだけで。
「……アオイ」
わくわくとシャボン玉のように次々と浮かんでいた考えを弾けさせたのは、いつもよりトーンの低い声だった。
はたと目が合った途端に、渋いお髭を蓄えた口元に笑みが浮かぶ。緩やかに口角を持ち上げた唇が、俺の耳元に近づいてきた。
「……もしも、貴方様が望まれるならば、二人に分身した私で、存分に愛でて差し上げることも可能でございますよ?」
「ひぇ……」
淡い感覚が背筋を擽っていく。魅力的な囁きに唆され、早くも俺は願望を口走ってしまっていた。
「じゃ、じゃあ、二人のバアルからぎゅってしてもらえたり?」
「……出来ます」
「バアルに後ろから抱き締めてもらいながら、もう一人のバアルを俺の膝枕で甘やかしちゃったりも?」
「出来ます」
「ふわぁ……」
夢が広がる。広がってしまう。バアルがずっと側に居てくれるだけでも幸せだってのに。分身とはいえ、もう一人増やすことが可能だなんて。
そんな贅沢、してもらっちゃってもいいんだろうか? バチが当たっちゃったりしない?
「あっ」
バチが当たる以前の問題があるじゃん。一番大切なこと、忘れちゃってた。
「っていうか魔力は? 分身なんて高度なことするんだったら、結構な魔力を使っちゃうんじゃないの? 俺の我儘の為だけに、バアルに負担はかけられな」
きょとんと丸くなっていた瞳が、不意にゆるりと微笑んだ。
「ふっ」
「バアル……?」
「ふふっ、ふふふふふ……」
咄嗟に掴んでしまっていた幅の広い肩が震え出す。細く長い触角は弾むように揺れ、淡い光を帯びている羽も風を切るようにはためいている。
緊張の糸が、ぷつんと切れてしまったかのよう。バアルさんは無骨ながらもキレイな手で口元を覆いながら、今まで我慢していた分を一気に取り戻しているかのようにコロコロと笑っている。
「申し訳、ふふ、ございません……少々、お時間を……ふふっ、頂けると……」
「あ、うん……そりゃあ、落ち着くまでいくらでも待つけど……大丈夫?」
「大丈夫で、ふふっ、ふふふっ」
いや、大丈夫じゃないでしょ。
よっぽど、何らかのツボにクリーンヒットしてしまったんだろう。バアルさんは、その引き締まった首まで真っ赤にしてクスクスと笑みをこぼしていた。優しい瞳にも、こぼれそうなくらいの涙を浮かべてしまっている。
そんなに笑っちゃうようなこと、俺、言ったっけ?
直近の自分の発言を思い返してみたものの、それっぽいものはなさそうなんだけど。
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